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プロローグ超銀河歴・ピリオドオブネスギャラクシカ・エイト。


 

 その空間では、比較的生温い宇宙風が吹き、永遠の夜空に暗雲が覆った。

 月光の類は一切が途絶え、闇に全体を落とす宙の中で、惨劇は起こるのだ。


「こちらベータ部隊!相手は一人だ! さっさと殺せ!」

「囲め! 交差射撃で動きを制限し、串刺しにしろ!」


 複数の野太い罵声が、通信機を通した声が、1人の少女の鼓膜を震わせる。


「これほどの罵詈雑言、直接的に向けられるのは、はたして何時以来かな?」


 凛とした鋭い声、一方的に傍受しているので相手なし、ただの独り言を、目付きを鋭くして言う。

 少女だった、亜麻色の長髪を一面に散りばめて、

 少女自身は露出が多めのドレスのような服装、そして纏うは西洋甲冑のような出で立ちの、蒼鎧。


「これを身にまとうのは、私が地上戦を延々と演じ続けた、新間戦争以来だったな、

 あの頃は私は、ただ只管にどこまでも突き抜けた、血に飢えただけの女剣士だった」


 少女は流麗な軌道で、どこまでも四方八方から迫る超高速のレーザーを避けに避ける。

 機体の全身に存在する無数の噴射口が、限りなく自由な、どこまでもダイナミックでアクロバティックな動きを可能とするのだ。


「串刺しにしろ! 串刺しにしろ!」

「どういうことだ! 幾ら打ちまくっても当たらねえ!」


 さらに言えば、この宇宙自体が広大無辺だ。

 たった一機、相対比較すれば、太平洋の中を高速で漂うアメーバに、縫い針よりも細い糸を触れさせるかのような行為である。


「そんなに串刺しが好きなら、いっそそれで殺してあげるわよ?」


 なによりも巨大な翼のように存在する独立軌道兵装、兼特別砲の推力が進行方向を規定して加速する。


「ああでも、串刺し? そんなんじゃこれは、全然足らないわね」


 その機体は言うなら益荒男体系、身体つきは細身で平坦でありながらも、巨大な翼が全身を覆うように存在し、屈強な印象を与える、

 ひたすらなる鍛錬を重ねた者のみが持つ特殊な技能、

 無駄のない動作で、翼が一枚一枚周囲空間にちらばり、一つの陣を形成する。


「肉質、魔術師のフィールド展開」


 少女の機体には、その手には血で構成されたような深紅が顕現する。

 宇宙空間ではありえないような光景。

 ぬらついた血が視認できた、

 とある星で編み出された、極東の島国ゆらいの刀剣である。


「日の輪の造りの剣『刀』、これを持ち、抜刀するのならば、集束を超えて時間軸を渡る事が出来るのよ」


 色白の肌に紅潮を帯びさせて、興奮による殺気を隠すこともせずに、敵をおびえさせる可憐な少女だ。


「これが超異能よ、特異点、使えるのならば世界を隔絶し、隔離し、固有の現象を顕現させる。

 そうなんでしょ? 

 せいぜいが使ったらよい、これを使わずに新世界を語るなら、死ぬなんて悪い死に方を、選択することになるのよ」


 笑みが無くなるように、眼前の光景を凝視する少女。


「敵性体の、エミュレーション開始」

「対抗手段として、申請された法を行使する、黙示録の聖典、第四十八に記された”虚空の雷鳴”、を選択」



「くっく、死に、したくないでしょ?」


 くつくつと挑発するように笑む。

 傍受する通信機越しの声たちに、もう野太さも何もない、ボーカロイドのような素面を通り越した機械的な音声。

 こちらも同様、この笑みに人間的な要素は見られない。


「分散コミュニティーングで、処理する情報量を上げましたか、

 まあ私一人の、複数の物語に意志を帯びさせて、統合的に処理する物語的思考法による、処理限界値を、はたして超えられますか?」


 少女の信じる最高値、刀を切り裂く瞬間が顕現する。


「切り裂きたまえ!」


 対手は信じる信念さえ外部に委託したかのような、無機質な暗色の光を無色透明な空間から顕現させた。



 青眼に構えた刀に、何もかもが、彼方の虚空の地に飛び散った。

 鮮血の滴る刀を残進、その刀身には赤い赤い海が映る。

 それそのものが、敵の至った結末の未来の暗示だというように。


「調子に乗りやがって…アデデュ…。この私の"超特異点"を甘く見過ぎなんですよ」


 全ては彼方の彼岸に飛び散ったようだ。



「敵は、ヴァルハラを上部構造に持つ」


 ハスラー艦隊、旗艦にて、少女は上司の言葉を聞いていた。


「はあ、ヴァルハラ?」


「数多の物語世界、その宇宙の空間を主に支配する、言うなら我々のライバルとも言える奴らだな」


「下らない、競争がしたいなら、彼方の彼岸でやって頂戴よ」


 少女は己の私室のソファーにふんぞり返って、上司にあしを向ける体勢になる、酷くぞんざいな風に。


「物理で無双になる為には、出る杭を小さい内に詰み続ける、そのような地道な作業が必須なんだよ」


「第ゼロ部隊、栄光あるはずのハスラーの近衛部隊が、それってやる仕事なの?

 もしかしなくても、ずんぶんに疑ってあげるわ、貴方、わたしを雑用仕事、テイの良過ぎる便利屋程度の理由で、呼んだの?」


 男は少女に銃口を、なによりも恐れるべき特異点兵装である、を向けられても眉ひとつ動かさなかった。


「いいや、時期がある、その君を呼ぶに値する時期までは、ぶっちゃ特筆してやる事が、優先度の高い作戦軌道がないのだよ」


「はあ、だと思っていたわ、下らない、ああ下らないと思っていたんだわ、全てが」


 少女は銃口を落として、ソファーにあおむけに寝っ転がる、そして全てが憂鬱そうな瞳と声で、天井にぼやくのだった。


「全ては彼岸の彼方に、私自身が至る為、全てが平穏に殺伐に、全てが死地であるかのように機能する、世界のために」


 期せずして、それはこの艦の党首、ハスラーの構想する、”構築種族”と呼ばれる存在の根源のあり様そのものでもあったのだった。


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