表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

182/588

天使の軍団‐教皇統べる天界庁、神の使途達



 ある所にいた、血塗られて救いようがない世界、此処の事だ。


「此処は大世界、戦火が飛び交うハイファンジターな人々が住む場所だ」


 俺は教皇だ。

 もちろん俺は、俺がゲーム盤に居る事に自覚的だ。

 手元に浮かび上がる端末を操作すると、現実の全てが見えるし、動作するゲームシステムが支配しているからだ。 


 世界における中心点、大帝国イルミナード、

 其処へ向けて天使の軍団が、大陸をかける情景が、脳裏に明滅するように映る。

 

 中央大陸の、大帝国の同盟国のような扱いの帝国州都、帝都アーヘンにも、その影は着々と近づいていた。

 大天使ジャンヌ=アバロンを御旗に掲げて、

 天界の使途は、ラーゲルスフィスト要塞を僅か三日で攻略、

 後は大帝都に続く街道に、点々とある諸都市を攻略、

 その後、帝国最大の大平原、


「そうだ、ここでの正面決戦を終えて、

 帝都の堅牢な城下を抜ければ、千年続いた大帝国を滅ぼせるまで来たのだ」


 さらに言えば、女王を打倒した後の、女王近衛部隊の覚醒を織り込み済みである。

 契約により使役され、使役される間は力が制限されるモノたち、

 おそらく、女王が殺害されれば、長い間の使役の間に愛着が湧いているだろう事は、女王のカリスマから言って言を持たない、

 だが、この千年王国の女王近衛部隊でも、圧倒的な数の暴力で打ち負かせば良いと、

 長い長い戦略と、延々と積み重なる戦術の果ての、一大プロジェクトに最期の最期まで不備は無いと、どこまでも確信的だ。


「既に、どうしようもあるまい。

 アストラルゲートを開ける、上級魔術師は、この大陸広しといえども数人程度だろうし。

 既に大帝国の息の根は止めたも同然」


 戦力を半永久的に吐きだすゲートの登場で、この世界のパワーバランスは大きく変わったのだ。

 大帝国の中枢、戦闘狂としか言いようが無い、彼の知能は、ギリギリの戦闘を演出するのに拘り過ぎていた。

 もし仮に支配基盤が、もっともっと脆弱で、戦力を貯蓄する事しか考えない守銭奴のように盤石ならば、

 まあこの程度の突発的事態でも、かの大帝国は滅ぼせないだろうが。

 

 そして俺は、天界庁の天界長というポジションに付いたモノだ、神は呟く。

 勝利し、イルミナードを滅ぼせと、鐘の音だけが俺の中を真に満たす、精神安定剤なのだから。


 そこに伝令が届く。


「長官、西の羊達の純潔、それが用いるミスリルモノリスの抵抗で、我が軍が甚大な被害を」


「下がれ、よい、折込済みだ」


 俺は無用な伝令を下がらせつつも、その事に思考する。


 西では、その事を織り込んで、後詰として、イデアゲートを使い降臨させた、邪神を遣わせてあるのだ。

 もちろん、その事は極秘の内に進めて、表立って広まらないよう、情報封鎖もした。

 それに中央の本部、皇国の連合国家群、教皇国まで、その実体が広まるまでには、ずいぶんとタイムラグがあるだろう、噂の信憑性も薄れる。

 

「だがまあ、不安が無いわけでもない。」


 西の各国は、この事態に大同盟を結んでいると、報告があった。

 特に、西の雌狐、ウルスラ=アメリア率いるアルハザード帝国、あの新進気鋭の造語大国は侮れない。

 大規模な海洋貿易を支配し、軍備も近代的な、たとえ化け物を向わせても侮れないほどの威力と聞く。

 現に、斥候として向わせた前線部隊は、数は少ないとはいえ強力な、要塞級天使が五体も含まれていたのに、

 それが次々と集中砲火で沈んで、後は単純な数の差で、散々に蹴散らされたらしい。


「だが、それも先のイデアゲートでの、強大な邪神の降臨で、無用の心配となった。」


 世界を須らく分布に収める戦略図式、この盤上で俺の認識外の駒は、ほとんど無いと言っても過言ではあるまい。

 それによれば、どれだけ戦力を奇跡的に収束しても、あの巨大な邪神の進軍は止められない、とシミュレーション結果が出る。

 何度試行を変えてみても、正面決戦で力任せに打ち負かせると、最終的な勝利確立として出るのだ。


「あのような、世にも恐ろしいモノが、どうやって人間など矮小な存在に負ける道理があろうか」


 俺は確信している、この世界は、既に己の手中に納まったも同然だと。


「失礼します、教皇」


 そこに一人の女性の声が響き渡った。

 その声は、どこか妙に透き通って、なにか、脳に直接響くようなモノだったが、俺は特に気にしなかった。


「なんだ? ジャンヌ=マリア、急ぎの用か?」


 俺はここのところ、頭の中で鳴り響く鐘の音色に、頭を悩ましていた。

 これは聞くところによると、ゲートが開く場所に、何度も立ち会った後遺症らしいが、俺は気にしない。

 たとえ、その所為で己が化け物になろうが、それはそれで、己が戦力になるのだから、いいとすら計算している、

 既に後任も見繕っているので、なにも問題は無い、

 俺は、己の信仰が大陸を遍くのを純粋に夢見ているのだ。

 しかし、その情熱も、彼女を前にすると、なぜか沈静する、この不可思議には、問えようもない不安があるのだが実際。


「はい、東の秘境にて、教皇様の具合を回復させる、特効薬を手に入れて参りましたので、是非服用をと」


「そんな、無駄なことに、そなたは己を刈り出していたのか?」


 憤慨が胸の内を覆いそうになる。

 

「そなたには、太政聖冠の位を与えてあるのだ、自重せよ」


 それは一重に、その美しく、整いすぎた容貌、。

 神の静謐さと偉大さ、聖なる信仰を体現したような、その巨大な二対の純白の羽根の背負いに起因する。

 民衆はその姿見に熱狂し、どれだけの重税にも、徴兵にも、文句を言わなくなる。

 

 付け加えれば、教皇とその幹部だけが知る秘密として、彼女は単一の戦力としても強力な面がある。

 これは暗殺で儚く散ってもらっては困る、末永い象徴として君臨するのに、必須な要素であった、

 さらに蓋を開けるなら、帝国の精鋭の電撃戦時に、彼女の行った、恐ろしいまでの戦果、戦闘能力も十二分にある、

 俺もよもや、この眼前の天使が、先ほど思い出た邪神すら上回る、神の真なる使途とは知らなんだ。


「はい、出過ぎた真似を、お許しください教皇様」


「許さん、ハッキリ言ってしまうが、そなたが健在ならば、幾らでもやりなおしが効く、 

 逆に言えば、そなたが戦死などすれば、イルミナードを滅ぼす機会らしい機会、勝利のカギは永遠に失われるに等しいのだ」


「新規のゲートを拓くのに、既にパス・解除コードは、その制限を永遠に効力として失われましたが?」


「もちろん知っている、我は長い目で全てを視ているのだ。

 確かに、既に大帝国イルミナードを滅ぼせるだけの軍備は整えた、だが不確定な要素はまだあるにはあるのだ。

 盤上をひっくり返された場合、また長い戦争の時代に逆戻りなのだ。

 だがさらに逆に言えば、それは最後方まで撤退し、ゲートの量産体制を、時間を稼げるという事だ。

 戦闘狂の、騎士道精神を持っていると錯覚してしまいそうな、かの在りよう、ならばな」


「確かに、そうですね、ワタシも新規属性系統の、天使の降臨が待ち遠しいのです」


 ふん、天使敬愛主義者な所は、数少ない欠点とカウントできる所だ。

 それで話は、この眼前の彼女は、

 天界庁の大陸制覇の、さきがけとしては十分機能した、

 だが、まだまだ、やってもらわなければいけないことは、幾らでもある、 

 戦略の確定した戦場においても、戦術において手を抜いては一切いけない、

 攻めきるときに攻めきり、守るべきときに守らなければ、最終防衛線すら抜かれる、俺は半生において知っているのだ。


「そういう事だ、ギリギリまで、どれだけ確率が低くても、未知のゲートを検索するのだ、我の心配など不要、無為無駄だ」


「無駄ではありません、教皇様は、人にして神、我らの主なのです」


「ふん、我はただの神の尖兵だ、勘違いも、ほどほどにしておくと良い」


 会話しつつも、マリアは特効薬を持ち、熱い湯と共に、俺はに飲ませようとしてくる。


「勘違いではありません、少なくとも、わたしにとっては、教皇、貴方は神にも勝る威光をお持ちになっている」


「たわ言を」


 そう言われて、俺は口ほど悪い思いはしていない。

 目の前の女性は、人をおよそ超えた、聖なるを体現する存在である、

 それに傅かれるのは、確かに、己が凄い存在、それこそ神になったかのような実感を与えてくれるのだ。


「さて、そろそろ行かねば」


「帝国との、決戦ですね。

 わたしも教皇様と参ります、その為に帳尻を合わせて来たのです」


「そうだな、窮したとはいえな、

 帝国の物量は、人材の面でも、まだまだ無視できない。

 本来なら、そなたを西の後詰に加えたいことだが、今からでは西の決戦に間に合うか、微妙なところだ」


 ちなみに、眼前の女は、それすら計算し、帝国との決戦に同行する準備をしていたのだろうがよ。

 それは教皇が万一にも戦端で戦死しないために、今回の帰還も、刻限を巧妙に編み出していたと推察している。


「よし万全に万難を排し、三倍する兵力を用意したとはいえ、未知のアストラルゲートの存在の有無もある、

 なにより、帝国の剣聖、精鋭、魔法師団に、魔法騎士団、重装騎馬団も健在だ、

 もしもの事態も考えるべきだろう、

 よかろう、そなたの同行を許可する、帝国との決戦に備えよ」


「はい、おおせのままに」


 下がる天使に、俺は一瞥だけやる、 

 退室後はまた、教会のステンドグラスを見つめ、まだ見ぬ神に祈りを、戦勝の運命を願うのだ、

 俺はすべての力は、神が与え、己の行使せよと、圧力と共にその命を感じる。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ