天使の軍団‐教皇統べる天界庁、神の使途達
ある所にいた、血塗られて救いようがない世界、此処の事だ。
「此処は大世界、戦火が飛び交うハイファンジターな人々が住む場所だ」
俺は教皇だ。
もちろん俺は、俺がゲーム盤に居る事に自覚的だ。
手元に浮かび上がる端末を操作すると、現実の全てが見えるし、動作するゲームシステムが支配しているからだ。
世界における中心点、大帝国イルミナード、
其処へ向けて天使の軍団が、大陸をかける情景が、脳裏に明滅するように映る。
中央大陸の、大帝国の同盟国のような扱いの帝国州都、帝都アーヘンにも、その影は着々と近づいていた。
大天使ジャンヌ=アバロンを御旗に掲げて、
天界の使途は、ラーゲルスフィスト要塞を僅か三日で攻略、
後は大帝都に続く街道に、点々とある諸都市を攻略、
その後、帝国最大の大平原、
「そうだ、ここでの正面決戦を終えて、
帝都の堅牢な城下を抜ければ、千年続いた大帝国を滅ぼせるまで来たのだ」
さらに言えば、女王を打倒した後の、女王近衛部隊の覚醒を織り込み済みである。
契約により使役され、使役される間は力が制限されるモノたち、
おそらく、女王が殺害されれば、長い間の使役の間に愛着が湧いているだろう事は、女王のカリスマから言って言を持たない、
だが、この千年王国の女王近衛部隊でも、圧倒的な数の暴力で打ち負かせば良いと、
長い長い戦略と、延々と積み重なる戦術の果ての、一大プロジェクトに最期の最期まで不備は無いと、どこまでも確信的だ。
「既に、どうしようもあるまい。
アストラルゲートを開ける、上級魔術師は、この大陸広しといえども数人程度だろうし。
既に大帝国の息の根は止めたも同然」
戦力を半永久的に吐きだすゲートの登場で、この世界のパワーバランスは大きく変わったのだ。
大帝国の中枢、戦闘狂としか言いようが無い、彼の知能は、ギリギリの戦闘を演出するのに拘り過ぎていた。
もし仮に支配基盤が、もっともっと脆弱で、戦力を貯蓄する事しか考えない守銭奴のように盤石ならば、
まあこの程度の突発的事態でも、かの大帝国は滅ぼせないだろうが。
そして俺は、天界庁の天界長というポジションに付いたモノだ、神は呟く。
勝利し、イルミナードを滅ぼせと、鐘の音だけが俺の中を真に満たす、精神安定剤なのだから。
そこに伝令が届く。
「長官、西の羊達の純潔、それが用いるミスリルモノリスの抵抗で、我が軍が甚大な被害を」
「下がれ、よい、折込済みだ」
俺は無用な伝令を下がらせつつも、その事に思考する。
西では、その事を織り込んで、後詰として、イデアゲートを使い降臨させた、邪神を遣わせてあるのだ。
もちろん、その事は極秘の内に進めて、表立って広まらないよう、情報封鎖もした。
それに中央の本部、皇国の連合国家群、教皇国まで、その実体が広まるまでには、ずいぶんとタイムラグがあるだろう、噂の信憑性も薄れる。
「だがまあ、不安が無いわけでもない。」
西の各国は、この事態に大同盟を結んでいると、報告があった。
特に、西の雌狐、ウルスラ=アメリア率いるアルハザード帝国、あの新進気鋭の造語大国は侮れない。
大規模な海洋貿易を支配し、軍備も近代的な、たとえ化け物を向わせても侮れないほどの威力と聞く。
現に、斥候として向わせた前線部隊は、数は少ないとはいえ強力な、要塞級天使が五体も含まれていたのに、
それが次々と集中砲火で沈んで、後は単純な数の差で、散々に蹴散らされたらしい。
「だが、それも先のイデアゲートでの、強大な邪神の降臨で、無用の心配となった。」
世界を須らく分布に収める戦略図式、この盤上で俺の認識外の駒は、ほとんど無いと言っても過言ではあるまい。
それによれば、どれだけ戦力を奇跡的に収束しても、あの巨大な邪神の進軍は止められない、とシミュレーション結果が出る。
何度試行を変えてみても、正面決戦で力任せに打ち負かせると、最終的な勝利確立として出るのだ。
「あのような、世にも恐ろしいモノが、どうやって人間など矮小な存在に負ける道理があろうか」
俺は確信している、この世界は、既に己の手中に納まったも同然だと。
「失礼します、教皇」
そこに一人の女性の声が響き渡った。
その声は、どこか妙に透き通って、なにか、脳に直接響くようなモノだったが、俺は特に気にしなかった。
「なんだ? ジャンヌ=マリア、急ぎの用か?」
俺はここのところ、頭の中で鳴り響く鐘の音色に、頭を悩ましていた。
これは聞くところによると、ゲートが開く場所に、何度も立ち会った後遺症らしいが、俺は気にしない。
たとえ、その所為で己が化け物になろうが、それはそれで、己が戦力になるのだから、いいとすら計算している、
既に後任も見繕っているので、なにも問題は無い、
俺は、己の信仰が大陸を遍くのを純粋に夢見ているのだ。
しかし、その情熱も、彼女を前にすると、なぜか沈静する、この不可思議には、問えようもない不安があるのだが実際。
「はい、東の秘境にて、教皇様の具合を回復させる、特効薬を手に入れて参りましたので、是非服用をと」
「そんな、無駄なことに、そなたは己を刈り出していたのか?」
憤慨が胸の内を覆いそうになる。
「そなたには、太政聖冠の位を与えてあるのだ、自重せよ」
それは一重に、その美しく、整いすぎた容貌、。
神の静謐さと偉大さ、聖なる信仰を体現したような、その巨大な二対の純白の羽根の背負いに起因する。
民衆はその姿見に熱狂し、どれだけの重税にも、徴兵にも、文句を言わなくなる。
付け加えれば、教皇とその幹部だけが知る秘密として、彼女は単一の戦力としても強力な面がある。
これは暗殺で儚く散ってもらっては困る、末永い象徴として君臨するのに、必須な要素であった、
さらに蓋を開けるなら、帝国の精鋭の電撃戦時に、彼女の行った、恐ろしいまでの戦果、戦闘能力も十二分にある、
俺もよもや、この眼前の天使が、先ほど思い出た邪神すら上回る、神の真なる使途とは知らなんだ。
「はい、出過ぎた真似を、お許しください教皇様」
「許さん、ハッキリ言ってしまうが、そなたが健在ならば、幾らでもやりなおしが効く、
逆に言えば、そなたが戦死などすれば、イルミナードを滅ぼす機会らしい機会、勝利のカギは永遠に失われるに等しいのだ」
「新規のゲートを拓くのに、既にパス・解除コードは、その制限を永遠に効力として失われましたが?」
「もちろん知っている、我は長い目で全てを視ているのだ。
確かに、既に大帝国イルミナードを滅ぼせるだけの軍備は整えた、だが不確定な要素はまだあるにはあるのだ。
盤上をひっくり返された場合、また長い戦争の時代に逆戻りなのだ。
だがさらに逆に言えば、それは最後方まで撤退し、ゲートの量産体制を、時間を稼げるという事だ。
戦闘狂の、騎士道精神を持っていると錯覚してしまいそうな、かの在りよう、ならばな」
「確かに、そうですね、ワタシも新規属性系統の、天使の降臨が待ち遠しいのです」
ふん、天使敬愛主義者な所は、数少ない欠点とカウントできる所だ。
それで話は、この眼前の彼女は、
天界庁の大陸制覇の、さきがけとしては十分機能した、
だが、まだまだ、やってもらわなければいけないことは、幾らでもある、
戦略の確定した戦場においても、戦術において手を抜いては一切いけない、
攻めきるときに攻めきり、守るべきときに守らなければ、最終防衛線すら抜かれる、俺は半生において知っているのだ。
「そういう事だ、ギリギリまで、どれだけ確率が低くても、未知のゲートを検索するのだ、我の心配など不要、無為無駄だ」
「無駄ではありません、教皇様は、人にして神、我らの主なのです」
「ふん、我はただの神の尖兵だ、勘違いも、ほどほどにしておくと良い」
会話しつつも、マリアは特効薬を持ち、熱い湯と共に、俺はに飲ませようとしてくる。
「勘違いではありません、少なくとも、わたしにとっては、教皇、貴方は神にも勝る威光をお持ちになっている」
「たわ言を」
そう言われて、俺は口ほど悪い思いはしていない。
目の前の女性は、人をおよそ超えた、聖なるを体現する存在である、
それに傅かれるのは、確かに、己が凄い存在、それこそ神になったかのような実感を与えてくれるのだ。
「さて、そろそろ行かねば」
「帝国との、決戦ですね。
わたしも教皇様と参ります、その為に帳尻を合わせて来たのです」
「そうだな、窮したとはいえな、
帝国の物量は、人材の面でも、まだまだ無視できない。
本来なら、そなたを西の後詰に加えたいことだが、今からでは西の決戦に間に合うか、微妙なところだ」
ちなみに、眼前の女は、それすら計算し、帝国との決戦に同行する準備をしていたのだろうがよ。
それは教皇が万一にも戦端で戦死しないために、今回の帰還も、刻限を巧妙に編み出していたと推察している。
「よし万全に万難を排し、三倍する兵力を用意したとはいえ、未知のアストラルゲートの存在の有無もある、
なにより、帝国の剣聖、精鋭、魔法師団に、魔法騎士団、重装騎馬団も健在だ、
もしもの事態も考えるべきだろう、
よかろう、そなたの同行を許可する、帝国との決戦に備えよ」
「はい、おおせのままに」
下がる天使に、俺は一瞥だけやる、
退室後はまた、教会のステンドグラスを見つめ、まだ見ぬ神に祈りを、戦勝の運命を願うのだ、
俺はすべての力は、神が与え、己の行使せよと、圧力と共にその命を感じる。




