アリスとナルディア編‐機械都市幻想忌憚
戦争の大陸に沢山の投資をしたけど、まあまあの投資対効果が出ている、及第点程度の上出来ね。
「どいつもコイツもよえぇーなぁー」
やさぐれたマセガキのような軽薄で変に気取った声でぼやく。
超戦略&戦術級、大規模オンラインゲームで無双しながら、何十回目の世界制圧を達成して、一時の達成感と共にワインを煽り、そして一瞬の高揚の後に醒める、最近はこの繰り返し。
「暇だわ」
大規模軍需産業KDBの実権を握り、世界の全てを直接的にも間接的にも手に入れて、私は完全に人生というものに飽きてしまった、ようだね。
たった一つの超大国の首都、その重層機械都市の中で最も高い要塞のような見た目のビル、その頂点で溢れかえるネオンの光を眺めながら思った。
「大変ですぅ! ナルディア様ぁ!!」
「なに? 面白い事でも起こった?」
私の最愛の部下、エルクがとても慌てた様子、目に見えて血相変えている。
「アリスシステムが叛乱を起こしました!」
ふーん、あれが暴走したか、ちょっと面白くなりそう。
アリスシステム、通称では”アリス達の統制”とか言われているモノたち。
戯れのレベルで運営し養成した、少女達の軍隊のような、明らかに色物や際物めいた集団である。
特筆するメリットは、傍から見ていてとても面白いというか、ソソルものがあるって所だろうか?
「大丈夫、大丈夫」
「何を言ってるんですかぁ!もうビルの周囲を囲まれていてぇ!!」
「いえ、もうこの部屋の前まで潜り込まれてるわよ?」
エルクが振り向いた先、扉の前に金髪碧眼軍服姿の麗しくも凛々しい、しかし華奢で儚い感じの絶世の美少女が剣を片手に立っていた。
「ふっふ、私に勝てると思っているの? アリス?」
立ち上がりつつ言い、腰のレイピアを抜き放ち、正眼に構える。
「勝てるなんて思っていません、ただの時間稼ぎです」
デバイスを立ち上げる、確かに、ここで時間を稼ぐ意義は、ある、残念ながら私にとって些細過ぎる事由だが。
「これは私達のレジスト、貴方の絶対の支配から解放されて、自由を手にする為の、、」
「ふーん、自由を手にして、一体あなた達はどうするの? これから?」
「そんなの知りません、とにかく貴方は私達の絶対の敵、打ち倒さなければ、私達は私達たりえない」
「そう、残念だわ、アリス、貴方は特に可愛がってあげたのに、、ねぇ?」
「くぅっ!」
清楚で可憐、誠実で優しさに溢れた少女の顔が壮絶に憎しみで歪む。
私の嗜虐的な瞳、その他さまざまによって、彼女の心は簡単に揺れる、そのように徹底的に仕込んだ。
「やっ、あ、あっはっはぁあああ!!!
やっぱりっ!!やっぱり貴方を消して、この世から削除しないとぉ!わたしはわたし足り得ないのだわ!かはっはっはぁ!!!」
苦しげに額に剣を持っていない片手を当てて、狂笑して身を盛大に打ち震わせている。
「あの塗炭の日々を思い出した? しょうがないわよ、貴方は隊長として在る為に、誰より優れる必要があったのだもの。
それを、教育した私を恨むのはお門違いよ?」
「しったことかよ!どくされがぁ!! 殺すぅ!!殺してやる!必ずわたしの手でその存在を根絶してやる!!!」
憎悪と狂気と、それ以外にも多様に興味深い精神の臨界を極めた感情の波動。
やはりこの少女は良いな、どこまでもソソラせてくれる熱くて萌える少女である。
「まあいいけど、それじゃ、黙らせて再調教かな、君は殺すには余りに惜しすぎるから、大事にしてあげるよぉ?」
「いってろゴミが、お前は死ぬ、今日この場でなくてもな」
剣を正眼に構い合い、それ越しに双方相手の瞳を見る
「そお、わたしは、何時か必ず死ぬんだぁ、、」
直近で、剣を正眼に構えた少女、戸惑いに満ちた瞳を、それ越しに見た。
少女はもうそれだけで、一ミクロ単位でも動けなくなっていた、何も考えられないほどに、恐怖している。
「ああ知ってるよ、言われなくても。
でも、それだからこそ、私は繁栄して栄光に至った、とも言えるんだよ、ぞんぶんに見習うといいよ」
ていうより、さっき、いたく自信満々だったな、これは何かしら策があるパターン。
まあどんなモノでも絶対に私は私が磐石である自信がある、これは慢心でありハッタリ、何時か私の命を掬うだろう。
でもやめられはしない、この狂気と魔性が、今まで私を救ってくれた唯一の在り方だから。
そして、今の私はハッタリがハッタリ足りえない多様な力の域を所持する存在、故に簡単には私は負けない。
「打ち穿て!ミラージュフォースレイ!!」
首筋に刃を突きつけていたのだが、乱入者の攻勢に対処し、更にその後の直接攻撃に対する為に意図して逸らした。
「動けアリス!!」
「ふっ、無駄むだ、オスカー君。
少女に掛けた私の呪縛は、王子様のキスでも、もっと凄い事でも絶対に解けない、解けてないんだからね」
彼、今は裏に怯えて隠れているエルクの上司、やっぱり彼が内通者だったか、知っていたけど。
「くそぉ、この人でなしが、、」
「最高の褒め言葉だよ、わたしは人であることを嫌悪するのだからね」
アリスは呆然としながらも、多少だが瞳に生気が戻っていた。
ありえない事だ、果たしてどれほどこの少女に彼は、あんなことやこんなことをしたんだろうね、私でも完全には想像できないよ。
「うらやましいなぁー、オスカー君はアリスを男として、異性として力いっぱい全力で精一杯愛せるんだからね」
「なにが言いたい?」
「分かるでしょぉ? 実際に体験体感してるんだし。
わたしは出来ないからね、人でなしでも女ではあるし、どうだったのかな? 私の作った最高傑作の具合は? とても良かったでしょ?」
「下賎が、低俗で下劣なお前らしい無駄口だ」
「またまた、私の芸術創作の腕は確かなはず、君はアリスを獣のように貪り堪能して、犯しに犯しつくした筈、もちろん女として、ね」
「この、、貴様ぁ、」
「あはぁっ、逃げていいよ。
君達はそも殺さないし、殺せないしね、エルクの為にも、君達はどこか遠くの方で適当に幸せにでもなってくれよ」
私の言葉に、こちらを警戒しながらもアリスに近づき、片手で膝立ちの彼女を支えていた彼は多少動揺していた。
「後悔するぞ、ナルディア」
「させてよ、退屈を紛らわすことで、わたしはどこまでも延命する事ができるのだから、ね」
その言葉に苦々しい顔をしながら、現れた時に打ち抜き砕いたビル窓から、颯爽と飛び去った。
「期待できるのかな? 果たして。
今のわたしはほんとうに強いぞ、手持ちの手駒と札的に見て、特に、一個の存在としても、最近の切れの良さは紛れも無く全盛期だ」
何かに対して独り言。
ほくそ笑みながら、私は世界全体を眺めるように見下しつつ、しかしとても期待していた。
眼下に広がる都市に様々に散らばった、別働隊であるレジスタンスの少女達。
それが、あらかた全滅している、悲惨な屍を晒している光景。
その情景を前にしても、その確信は揺らがなかった、信仰のように確信していたのだ。
「さて、楽しませてくれ、楽しめる内に楽しまなければ、その後は、ただ死に接近し続ける日々、衰退と滅亡の時が始まるだけなのだから、ね」
世界も何もかも、回り続ける機械仕掛けの舞台装置だ。
私は世界を手中にして、世界の舞台監督として、最高の支配の果てに、望む物語に臨む為に最善を尽くす。
なにをするでもなく私を私の全てを駆使して、最高の舞台を演出する装置と化す。




