変哲もない雑な談‐灯台の最上階で話すこと
「はーあ全く無駄足だったわね、本当に残念だわ」
「飛び降りようか?」
「典型的な冗談、軽いブラックジョークだったでしょう。本気にしないでよ」
「そうだったね」
彼女は詰まらなそうに周囲を見渡す、ホント殺風景だな。灯台の役割を担う為の最小限のモノしかない。
「ごめんなさいね、こんな変な場所に連れ出してしまって」
「別にいいよ、俺が付いて行きたかったようなもんさ、むしろストーカーだよストーカー」
「あっはは、なんだか心境が変わったわ。先から螺旋階段を進みながら平行して考えてたの、私と貴方の関係性を今一度」
「へえ、かなり難解な話してたのに、平行して物事考えてたのかね」
「そう、それで思ったのよ。やっぱり私は貴方なしではありえない、無限に依存してる、貴方なしじゃ存在できない。そういう存在だってことにね、でも一度その事実を認めて、ちょっと時間は掛かったけど受け入れられたら。胸が晴れるような思いだったわ、素直になるってこんなにも心地好いモノだったなんて。世界が違って見えるわ」
「俺だって全くシャルと同じさ。君なしじゃ存在できない。もし仮に君がいなくなれば、たぶん強制的に生まれ変わらされるようなもので。きっと今の俺とは全く違うものなってしまう、それくらい君は俺にとって絶対必須、なくてはならない存在だよ。とても貴重すぎる生きる意味であり目的であり、価値の根源、本質、根本そういった俺の存在の一部か全部なんだ」
「イツキがいなくなったら、きっと私もそうなる。自分自身が殺されて、全て無くなって、新たに生まれ変わる様なモノ。そんなのもう私でもなんでもないわね、貴方がいなくなったら私は破滅よ」
「自分の完全な複製と自分自身の差異は、自分を自分と認識するその自我そのものって言うしね」
そんななんでもない再確認をしあった。灯台の頂上でする話でもないけど、まあそんなモノはたぶんどうでもいいのだろう。
「それで?これからどうする?今を最大限楽しむんだろ?」
「そうね、どうしたら最大限楽しめるかしら?」
「君の優秀な頭脳が導き出す最高の演算結果に期待したいところだよ」
「いえいえ、貴方の天才的閃きには負けるわ」
「具体的に何かしないとね、そうしないと物語は中々に面白くならないから」
「確かにね、こう話してるだけでは面白さに限界があるわ。楽しくするのが難しくなるわよ」
「それじゃーどうする?これから最大限物語を面白くする方法は?何か名案やアイディアはある?」
「ちょっと待っててぇ、いまローディングしてるから」
そんな彼女の声を聞きながら、俺は灯台からの風景を眺める。
外は前面視界が開けており360度どこまでも見渡せる、大図書館周辺と森林の中の館と無人島群と海だ。
「う~んホントどうしようかね?選択肢が多すぎて決めがたいぜ」
「いつまでも迷っていられるほど、人生は無限の猶予を与えてくれないわよ。費用対効果の限界で考えて最高じゃなくても決断をせねばならない、そうでしょう?」
「そのとおり、それじゃシャルはどうしたい?」
「貴方の意見に全面的に従うわ、でもあえて言うなら、、どうしましょうか?」
「今はすこしだけシャルとお話していたいな」
「奇遇ね、私もそう思っていたところよ、なかなかに趣深い物語展開だわ」
「そうかな?不味い一手じゃなきゃいいけど」
「失敗でもいいのよ、少なくとも私も軌道修正できなかったわけだし、二人の責任。それだけで良い思い出になるかもしれない」
「そんなもんかね、失敗は失敗であるし、出来うる限りしない方が良いと思うけど」
「もちろんね、それも否定しないわよ、失敗は失敗であって決して成功以上の物になりえない、なり難いって感じかしらね」
「だからこそだよ、シャルとの時間をできる限り失敗にしたくない、考えうる限り最高の成功にしたいんだ」
「だったら日々全力で勉強する事ね、色々な分野を、そうすればきっと無限に上手い方法を見つけやすくなるでしょ」
「うん頑張らないと」
「可愛い、わたしの為に日々そうやって尽くすのよ、そうすればもっと優しくしてあげるから」
彼女は慈悲深い聖女のような親愛に溢れた顔をしてくると、俺の頭を優しく撫で撫でしてくる。くすぐったいたりゃありゃしない。
まるで子供扱いだ、まあ確かに俺は彼女と比べれば大分子供だが、こういうあからさまな扱いは無性に悲しい悔しいと様々な感情が渦巻く。
「どう?悔しい?なら嬉しい。もっと貴方が頑張って生を全うする助けになるかしら?」
「シャルにそんな事思われるなんて恥ずかしいよ」
「別にいいわ、貴方にはそれなりに期待してる。全力を尽くす以上の事は求めないわよ」
「それが中々に難しい在り方なんだけどね」
「そうでしょうよ、私の定める所だと真の意味で絶対的不可能な事を可能にしてみてって意味だもの」
「全力を尽くす事がかい?」
「ええ全力というのは意味が深いわね、全ての力なんて誰が決めるわけでもない、自分自身すら定義が難しい、不可能とも言えるわ。肉体的な限界ならある程度分かりやすいかもしれない、それすら難しいのに、精神的な限界になれば己で限界なんて全く決められたものじゃない、無限に妥協せず全力を追及する。そんな事人間に成せる業だと思う?」
「できないだろうと思う」
「そう正解、私ですら今だに完全には成せていない、でもずっと、たぶん生まれた時から成したいと思っている事の一つ。たぶん根本的には人間の不完全な所を完全にしたいって欲望に基づくのでしょうね。人間の不完全は完全に至れないから不完全って言うのにね」
儚いモノを語るような哀愁漂う雰囲気と風情でそんな事を語る。誰よりも完全に至りたい彼女だからこそ、それには深い感慨が感じられる。
やはり彼女は凄いな、誰よりも言葉に感情を乗せる事ができる。これ程までに感情的で且つ理性的で知性に溢れた存在に触れ合えるだけで体が震えるくらい嬉しい。
「ホント、どうしましょう?この状況、どうしたら楽しくなるのかしら、全く判然としないわ」
「こうやってぐだぐだ話してるのも、あんまり賢くないかもね」
「まあいいんじゃないの。私の持論だけど、話す事、やる事、話したい事やりたい事、それら一切合財全部があらかた何も無くなってから真に話したい事ややりたい事、本当に心の底の底からやらなくちゃいけない事が見えてくるし、やる為のモチベーションややる気とか、全力で生きる為の全てが、必要十分以上の全てが一から十まで出揃うって。つまりね、全力を尽くして全部に取り込むの、それが超大事なの」
「それって配信っぽいね、俺の知ってるスマイル生チャンピオンもそんな事言ってた」
「ふっふ、なにその二つ名面白いわね。そう、単純化すれば酷く簡単な話なの、やりたい事を全てやってからじゃないと真に自分のやりたいことは絶対に分からない。だってやれる事全部やってからじゃないと、やりたい事が絶対にコレ!って確信を持って行なえるはずないんだから」
「行動の中にこそ、我々は真の生命の息吹を感じる。どこかの名言じゃないけど、そうだね。俺はシャルとの関係性に置いて、時間とかの許す限り、それを追求し続けたいと思うよ」
「私もよイツキ、貴方との最高の時間を過ごすためにも全力を尽くしたいの」
「なら、俺たちがすこしでもやりたいと思う事を、多少なりとも優先順位を付けて一つ一つやっていこうか。なんでもいいんだけど、でもその中でも最良のモノをやりたいってのは、やっぱ向上心のある人間なら思ってしまうものだよ」
彼女は唇に手を当てて考える、その真剣すぎる顔は見ていて凛々しくカッコよく感じる。
彼女の全てに触れて、存在全ての真理を直接感じて、すこしでも実感の持てる情報として取り込みたいと思った。
「イツキ?何を物欲しそうな顔してるの?私のフィルターを通すと、貴方超絶無限大臨界突破のイケメンになるんだから。そういうの不用意にやらないでよ」
「俺はフィルター通さなくてもそういう風に見える分、きっと二重の合わせ鏡でシャルよりも凄く見えてるんだろうな、実際シャルは神々しいくらい綺麗だよ」
「お褒めに預かり光栄よ、貴方だって別にフィルターを掛けなくても十分綺麗に見えるわ。化粧してめかし付ければとっても美人になりそうな、そんなタイプだし、やっぱ貴方私好みだわ。つまり私だって貴方の真の姿くらい見えてるのよ?」
「見た目なんてどうでもいいよ」
「良くないわ、見た目は絶対の価値よ、紛れもないね、これに価値を認めなくて。なぜ人間の価値を他の方面でも見出せるの?価値を価値と認めない事は、全ての価値を否定する様なモノ。そういう変質的な歪んだフィルターを通して全てを見る事は絶対に間違っている、なぜなら根本のモノの見方、美しいモノを美しいと正等に評価する。人間が普遍的に価値を認める芸術的な美しさ、それを否定する事によってヒトは歪んだ価値しか見出せなくなる。私はそのような愚者連中になりたくないわ、そのような人の美を認められない人間は大概どう考えても精神的にも欠陥を抱えざるを得ない、精神の効率も安定性も何もかも最低一ランクは下がる。そのような愚者的決断を貴方は、まさかしているなんて事はないわよね?」
「ふん、当たり前さ、している訳がない。ナルシストって訳じゃないけど、俺は俺の見た目に超絶な自信があるぜ。こういうと圧倒的多くの他人に全く感情移入されなくなってしまうから、普段は謙虚にしているだけだよ」
「それが正解なのかな、詰まらない人間が多すぎて貴方謙虚になりすぎているわ」
「詰まらない人間ってのはあんまりいい表現とは思えないよ、ただ人としての生命が恵まれていなかっただけだよ。俺もシャルも恵まれなければその詰まらない人間だったんだ。そういう事も忘れちゃいけないと思う」
「もちろん忘れてないわ、私自身が生まれてから幸運と最初からのアドバンテージ、つまり恵まれすぎた果ての極地的存在っていう事も自覚してるわ、偶に傲慢的振る舞いをしたくなること、誰でもあるでしょ?私にだってその権利はあるんだから行使させてもらっただけよ」
「だったらいいんだけどね」
「それに私も自分の容姿の醜さとかも自覚してるわ、価値を価値と認めるってことは、同時に価値に価値がない又は低いって事も、あるいはマイナスって事も同様。同じ様に一切歪んだフィルターを廃して見て、正当に評価し感じ続けなければ、やはり歪んだフィルターを介して物事を見てるのと変わらない」
「思ったんだけど、歪んだフィルターで物事見るって本質的に悪い事なのかな?」
「当たり前よ、何を愚かな事を。この世界は無限にカラフルなの。なのに色を変えるだけのような変なフィルターは基本的に掛けない事が望ましいのよ、例えが悪かったかしらね。違う言い方だけど真にカラフルな世界を知らず、歪んだフィルターで全て見るのが最良と盲目になっているのが最悪なの。カラーテレビを知らずモノクロテレビを見ている様なモノ。カラーテレビを知ってる人が、モノクロで偶に見て楽しむのとはわけが違うでしょう?低次元のモノクロの方がカラーよりも素晴らしいと信じ込んでいる。こんな歪んだ在り方で、その人が人生楽しめてると思う、絶対に不可能よ、根本的に価値のある楽しく面白いものよりも、自分の歪んだフィルターに変質な価値を見出す。そんな独りよがりの人間は絶対に他人にも感情移入を、自分自身と同レベルにする事ができず、どこまでも一人だけの世界に埋没するしか生きる術がない。いま言ってて気づいたんだけど、一切の歪みのない視点を身に付けなければ100%他人に自分と同レベルの感情移入ができない、これが致命的ね、精神的なエネルギーが枯渇する最重要原因、人間の形面学上の病理とも言えるわ。人間は100%歪みのない精神の人間にしか100%自分と同レベルの感情移入ができない。自分の感情ならば歪んでいてもできる?無理無理自分にすら感情移入できないわよ、完全にはだけど。自分の全てを真に感じ取り生きる、そして他人が100%歪みの無い視点で生きている事をまず想像する為にも、自分の歪みの無い視点により、それを起点に始まりとして原点として、他人の心を予想しなければいけない。人間は所詮自分の心と同じ様にしか他人の心も予想したり想像したり考えたり、情報として創造することが絶対にできない。だから歪みの無い視点を持たない限り、絶対に他人も歪んだ視点でしか物事を見ていないとしか感じられない、又はそもそも他人の視点が分からない、創造することすらできないって事態に陥る。歪みのない視点で生きている人間の考えている事がすべてまったく分からない、これでも理解不能な時点で100%、自分と同レベル感情移入する事ができない、さっきから自分と同レベルに感情移入する事を重要かのように言ってるけど、それはまさしく正しくて。誰かに捧げる命として、誰かってのは自分でもいいけどね。自分の境界を越えて無限の精神力で生きる為には、まずこの段階を乗り越えなければいけない」
「かなり適当な事言ってる?」
「ごめん途中からかなり、駄目ね私は。歪んだフィルターでも物事は楽しく見れるし、そもそも娯楽の総量が高くなければ精神力も備わらないし。歪みのない純粋な視点は誰でも割と備わっているものよ、たぶんね」
「それでもそういうモノが大切っぽいって事がわかってよかったよ」
そう言って無駄話を収める。そろそろ無駄話をやりたい。その全ての可能性を追求しきれただろうか、頭打ちになるほどやらなければいけないってのはさっきも言ったが。
どうしても真にやりたい事を見つける為には、自分自身が全ての可能性を費用対効果の限界でやりきれた確信が必要だ。だから常に全力で生き続けなければ行けないのだ。
この無駄話をし尽くした果てに、俺は新たな何らかの確信を持ち、人生をより、俺の物語を今よりも高次元に上位に生きる事ができるだろうか。
無駄にはなっていないと思う、なぜなら俺は今を全力で生きれていると思っているのだ。全力でやりたい事をやっているなら、その確信があるなら、今の俺のこの生き方は現状俺の正真正銘最善手なのだろう、ならば将来的に最良となるであろう、だって全力を尽くす以上により良い幸せなど考えられないのだから。
だから俺のやるべき事は一つに絶対的に無限大に収束する。つまりはただこの道を全力で進むだけだ、その一点に関しては無限の確信を抱ける。
直感的にもこれであり、経験的にもそれだと思えるそういう唯一無二だと感じる絶対的な価値観、まあシャルみたいなモノだ、存在で例えるならな。
その確信だけあれば、俺は無限に精神力を暫定自己の最良限界に高めつつも最大限キープして生き続ける事ができる、今はそれで満足だ。同時に不満足とも思う、前も言ったが矛盾をできる限り最大限抱える事が精神力の源を最大単位化する方法なのだからな。




