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激情を滾らせるだけの蜜会(時限・時期・季節限定☆4?)



「神とは、なぜ私達を作ったのかしら?」


 聖女のよう、そんな陳腐な言葉が、なぜか彼女にはしっくりくる。

 そんな存在自体が幻想のような、彼女は今。

 さきほどの教会一階で、ステンドガラスからの光で照らされる、巨大な十字架を見つめながら敬虔な信徒のように呟いた。


「神。なぜ私を。なぜ私を、、生み出したの?」

「生まれたくなかったのか?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言える」


 彼女は十字架を恨めしげに見つめる。

 おそらくは、彼女のことだ、神でもいれば殴ってやりたいとか思っていそうだ。

 神をも恐れぬ聖女なのだ。


「まあ神なんていないし。怨みの対象にすらなりはしない。本当に使えないクズだわ」

「クズがクズにそんな事言うか」

「なんですって?」


 怒りの視線と声色、十字架に向けていた。

 そんな後姿を、こちらに向ける。

 圧倒的なまでに研ぎ澄まされた、剣のような存在のプレッシャー。

 その圧力は容易く俺を瓦解させる、存在のレベルが違いすぎるからだ。


「クズは、貴方でしょう? そんな情けない也ナリで、何を私にいい募ツノれるの?」

「いや、シャルはクズだ。誰の役にも立てない。そんな使えない女なんだよ、自覚しろよ」


 彼女は瞳に涙を滲ませ、つかつかとこちらに歩み寄ってくる。

 すると手が届きそうな距離で、平手を一回。

 次の瞬間にはポロポロと涙を地面に落とす。

 何から何まで存在美が極まっていて、その一つ一つの瞬間が千金に値しそうなほど眩しい。


「ほら、そんな風に直ぐに直情的な暴力だ。

 どうしようもなくなったら全てを壊す。

 そんな最低すぎる存在だ、死んだほうが世の中の為になる」

「っ!!、、、。。そうよね、

 まあそんな当たり前のこと、今さら貴方如きに言われるまでも無いわよ。

 ええ、そうよ。私は死んだ方がいい。いいえ、死んだ方が良い存在だってことくらい分かってるわ」


 彼女は自らの全てを持って、感情を爆発させていた。

 喜怒哀楽、人の持ちうる感情の全てを、最大効率で生み出し続けている。

 これ程までに生命力に溢れる存在、俺は本当に知らない。


「どうしたの?早く死なないのか?今すぐ死ねるんじゃないか?」

「どうして、、そんな酷い事を言うの?」

「当たり前だろ。こういう事いわれて、悲劇のヒロインを気取りたいんだろ?

 愛する者にも見捨てられた、そんな自分はもう死んでもいいんだと、自暴自棄になりたいんだろ?

 協力してやるよ。

 だが振りだけだ、君がいくら死にたいと叫んでも、最終的な一歩は絶対に踏み出させない。

 君はこの世界でずっとそうやって踊り続けてくれ、見てる分には害はなさそうだ、そうやって生きる事だけは俺が許すよ」


「はっは、、はははっは。そうよね、貴方は私を必要としているものね。私の魅力の勝利なんだわ!!」


 彼女はその場で、狂ったような啜り泣き声を発する。

 まあそれが気持ちいいんだろう。

 感情をだれよりも欲し愛する彼女は、どんな時も全力全開、常に生に溢れている事を望む。

 それがどれほど尊い事か、誰よりも知っているから。

 そんな悲しいくらいに優しくて美しくて、そして残酷でもある人だ。

 生きる為にはどんな、過酷な道でも歩むし歩ませる。

 彼女の美学と価値観はあまりに極端すぎる。

 それは圧倒的に多くの人を不幸にするであろう、そんな事は容易に想像できる。


「で? 貴方は私をどう使いたいの? 言ってみてよ」

「そうだな。全力で生きればいい。見てるだけで楽しめるって言ったろ?」

「そんな言葉じゃわからない、具体的に何をして欲しいの? 主に貴方が」

「何もして欲しくない。

 君は勝手な行動をすれば全てマイナスになる。

 これもさっき言ったろ?だから君に対して何も望まない、俺の為だけに生きればいいんだよ」

「っはっははぁ!何も望まない人の為に生きるって、私の命に価値なんてないじゃない!」

「思い上がるなよ、お前の命に価値なんてそもそもない。マイナスの価値をゼロにしてやってるんだよ」


 最愛の人間からの存在否定。

 そんな矛盾以外の何物でしかない、そんなもので彼女は満足するのだろうか?

 俺じゃーそこまで他人を愛せるのは、彼女ともう一人くらいなものだ。


「私の事が、嫌いなの?」

「好きだと言ったろうが何度言わせる。好きだから見ていたいと言ってるんだよ」

「でも何も望まないと、、」

「そうだよ何も望まないからこそ、マイナスにしかならない。

 そんな美しいだけしか取り得のないお前を、俺だけは囲ってやれるんだ。感謝しろよな」


 彼女は涙を盛大に流しながら、体を限界まで大きく振るわせ続けている。

 何かどうしようもない憤り、その他怨みや負の感情を、やり場のない自分自身の内に落としこんでいるのだ。

 そしてもう耐えられなくなったのか。

 俺の胸に突撃してきた。俺はその前動作で抱える体勢だったので。難なく彼女を胸に抱きとめた。


「うぅ、、ぅううう、、やだ。こんな世界!生きていたくない!!死にたいよ!!

 なんでただ生きてるだけで!!こんなに痛くて痛くて痛いのよ!!」

「しょうがないだろ。

 それが生きるってことなんだって、お前は誰よりも理解してるんだろ?

 大丈夫だよ。一人じゃなければな。

 他人の命に、生命に。無限に夢や希望を見て、その将来に無上の理想を見る事ができる。

 そんなお前は他人を糧に生きていけるんだろ?」

「ばかぁ!そんなのは、貴方以外に気休めにならない!!

 私を真に愛してくれる人以外の!貴方以外のそれは全く意味がないの!!

 なんで!なんで!!みんなを愛せないの!!やだよ!こんな醜く穢れた私自身が!!!」

「いいんだよシャル。そんな醜く穢れたお前を。少なくとも俺だけは愛してやれる。それじゃ不満か?」

「不満に決まってるでしょ!!貴方一人なんかで!私が満足すると思ってるのぉ!!

 こんなくっそくだらない世界で、生きてるだけでとんでもない苦痛がともなうのに!!

 たった一人貴方だけで!なんで満足しなきゃならないの!!」


 嫌々する子供のように、ただどうにもならない現実を拒否する。

 そんな駄々っ子のような彼女だ。

 命が世界を否定しているのだろう。死にたいんだろう。ならば死なせてやるのが慈悲だ。

 生きてても辛いのに、生かすのは必ずしも正しいことじゃない。


「でも、少なくても俺は。絶対にシャルを愛しているんだよ?やっぱそれでも全てがゆるせない?」

「ゆるさないわよ。誰が、誰で、どうしてこうなってるの?

 全てを破壊する灼熱の意志だけが、生きる痛みに打ち勝つ方法。

 私は絶対に死んで負け犬にはならない。

 この世の目に見える全て、宇宙の真理すら打ち壊して全てを終らせる。

 その後に一片だけ残った私を、最後に殺す。

 それが私の人生の究極的勝利の形。

 だからそれまでは絶対に死なないし殺させない。

 何もかも許さない事が。それのみが私の生き方。復讐鬼は誰よりも強いのよ。

 そうたった一人でも、支えてくれる者や残った人がいればね。

 それが貴方だっただけの事。

 別に特別でもなんでもない、たまたまそういう存在が貴方だけ。

 代わりはいくらでもいた、絶対に私は貴方も最終的には殺す。

 その事実を良く覚えておきなさいね。

 だって許さないんですもの、貴方を含めた全てを。

 全てを殺しつくした暁に、私を殺す前の前菜が貴方。

 私の次に許せない存在なんだからね。

 私を生かす最大のピース。私以外でたった一人、ギリギリで私の生命を繋いでくれた恨むべき人なんだから」


 野獣よりも、神話の竜すらも。

 彼女の人間だけが抱えうる無限の矛盾の螺旋から生じる、そんな混沌からの殺気に恐れおののくかもしれない。

 ただ絶対の愛を彼女から感じる。

 俺だけがこんな彼女を、受け入れられるし愛したいとも思える。

 こんなどうしようもない様を見てると、改めてそう思った。

 だってこれは余りにも、歪ユガみいびつに壊れすぎている。

 その破綻までのギリギリを保ち、最低限整合性を維持できるのは、

 彼女が永遠に夢見、理想の姿を希望に持ち続けられる存在が、この世に最低限一人は居るからに他ならない。


「それでも恨みながらも、感謝してるんだろ?俺に命を繋いでくれてありがとうって」

「もちろん、愛しているわよイツキ。

 それと同じくらい、恨んでもいるけどね。

 愛憎ってまさしく私の感情ね、まさしくまさしく極地と実感できる。

 貴方を生かしつつも殺したい、生かさず殺さず。

 私とともに生に、苦しんで欲しいって思ってるんですもの。

 同時に幸せにもなってほしい、誰よりも。

 そう他ならない私よりも。

 貴方だけは、この世界で私以上の生命の輝きを持って欲しい。

 だからきっと私は口ではああ言いつつも、最終的には貴方を殺せないでしょう。

 他の全てを許せなくても、貴方だけは許してしまう。

 そして言うの、最後は貴方の手で終らせて。

 銀のナイフを貴方に渡して最後の介錯を頼むでしょうね。そう私が許せるのは貴方だけだわ」


「それは嘘だな。どう考えても。シャルは欲深い。自分も生きて俺と一緒に生きる選択をするだろうよ」

「どうかしらね。貴方が私を殺さなければ、もしかしたらそうもなるかもね」


 まあ、これも一つの真理だ。


「そうだわ、御話ししましょう、トキが終わるまでの、暇つぶしに」


 彼女は途端に、おどけたように笑うのだった、時間が跳躍したような、ぽかんとした感情にさせられたのだった。


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