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クロムハザード編‐暗雲世界と蒼の騎士

「何時の間にか、此処で暮らすみたいになってんな」


「しょうがないでしょ、化け物に包囲されてるんだから」


 町に化け物が襲撃してから一週間が経過した。

 その数は万を優に超えるが、町の住民全てが何かしらの武術を嗜むこの町。

 その特性によって攻勢は無理でも、今のところ絶対の防衛には全く不自由しない程度。

 完全なる均衡膠着状態がこの先もずっと続きそうな按配だ。


「この町の戦力は、純軍事的にいえば鉄壁ね」


 青髪の少女は言う。

 現に、今も化け物が町を包囲しているのに、全住民の数%がそれに当たるだけで完全に防衛が完結しているのだ。


「全く身にならない、化け物退治に駆りだされている奴には、心底同情するがなぁ」


「そう? 化け物を爽快になぶり殺して、それが仕事になる、それでお金がもらえる、最高の仕事でしょ?

 むしろぜんぜん、喜んで私が換わってあげたいくらい、嫉妬の対象でしょ?」


「どうだかな。

 話は変わるが、この先、ずっと防衛が成功するとは限らない、そうは思わないか?」


「それこそどうだかね。

 今のところ私は、己の命に、一切の危機を感じていない」


「大物だな、突然の原因不明の化け物の来襲に、一切危機を感じないとはね。

 俺なんかは明日辺りといわず、一瞬先に死ぬんじゃないかと、気が気じゃないわけだがぁ」


「羨ましいわ。

 命の危機的状況に居る、その環境を現実として感じれる事ほど、素晴らしい存在、魂の在り方は絶対にないんだから」


「俺はお前の全くブレない有様の方が、素晴らしく価値あるものと思えて羨ましいがな。

 どうすればこんな状況下でも、そんなに楽観で在れるのか、コツとか教えて欲しいものだが」


「ううん? まあ、何時もいつでも、日常レベルで己の命が吹けば飛ぶ、常在戦場って思い込んでるからね。

 そういう感じで、日常の最小単位の死の可能性でも、最大限恐怖して不安がってれば、それを常時意識してやってれば、いいんじゃないかなぁー」


「俺は臆病者なんだね、そんな発想はできそうもないな」


「私も臆病者だよ、死にたくないから、こういう事してるのよ」


「なにか一周回った、ただの臆病者じゃない、超越的臆病者って感じだけどな」


「超越って、なんか馬鹿っぽく聞こえるんだけどぉ?」


「感覚が麻痺するのは、ある意味でそんな表現するときがあるなぁ」


 適当に雑談しながら、町中の戦線を見て回る。

 この町の面白い所で、全員が仙人のような悟ったような奴らで、常軌を逸した戦いを繰り広げていた。

 彼女はそれらを酷く興味深く、まるで知的好奇心を満たしてくれる研究対象を眺める学者のような、関心に溢れる瞳で見ていた。


「面白いね。

 みんな無駄に強くて、力を持とうと頑張っているようだけど、もっとやるべき事があるように、私には見える。

 つまり単純な武力を信仰しすぎだと、見える。

 まあその愚直なまでの信仰が、この町の人々の強さや力みたいなのを、思想とか根底根本のレベルで支えているのかもしれないけど。

 でも、これは世界における自己の価値を最大化する、そのような観点から見て、間違っている、全く正しくないと言わざるを得ない。

 生き方としては非効率的に過ぎる、もっと効果的に他の強さや力を極めるべき人間が散見される。

 この町は、不条理に理不尽が溢れていて、不合理に生きる事が美徳とさもされているかのようだね」 


「そうか? 奴らにとっては、これ以上に最高の生き方は無いと、俺は心の底から確実に確信できるがぁ。

 奴らを良く見てみろよぉ、あの眩しいくらいの自信、覇気に溢れた感じ、だが?

 人間の臨界を極めたような奴らは、奴らの全力を十二分に尽しているように、俺には見えるがぁ」


「そうかしら? 彼らは歪な信仰に囚われ縛られた、哀れで愚かな連中に、私には見えるけど?

 多分、一度も真の不幸や困難を知らないから、生き方が間違っているって、気づけないんでしょうね。

 私はこの機会に知るべきだと思うわ、彼らは目覚めれば光り輝く原石よ」


「酷く恵まれた奴の言い草だな。

 誰も彼もが、己の信じる生きたい生き方に真に絶望して、己を真に矯正できるほど幸福で恵まれてはいねーんだろうよ」


「あら分かっているじゃないの、最悪の犯罪組織の人間だけはあるみたいなのね」


「まあな。

 ああ、今まで散々、最悪もしてきたし、最善をも潰してきた。

 そんな中で己の価値観なんざいらねえ、無くなっちまう、そんな恵まれたような恵まれない経験をしてきたからな」


「最上級の価値観、人生観を身に付ける為には、必要な過程なのでしょうね」


「お前も、経験してきた口だな」


「ええ、己を滅私しないとやっていけない、そういう極限でしか語り尽くせない現実」


「お前は、自分が無いのか?」


「あるわよ、世界の中にも、もちろん私がなんれかの比率か分からないけど、確実に存在しているのだから。

 実際やった事も、この世界という広大無辺に続く無限空間、その無限大に己を溶け込ませるように拡大させる。

 世界こそ、他ならない自分自身だと、確実に信じ、直感的にも理性的にも感じれる、俗に神格と呼ばれるレベルに至る過程よ」


「神格なんて大仰な言い方をしなくても、ただ単に、世界を糧に、自己を補完、補強させる技だがな」


「そうね、私自身が高みに至る為に、世界の全てを踏み台にしている感じよ」


「そんな卑下する必要はねぇーと思うが。

 世界だって、お前を踏み台にして、より高みの階層、上位の概念次元世界に至れているんだろうしな」


「私もそう思っているわよ。

 私が私を理想の極地、焦がれて止まない存在に至らせる為なら、世界なんて一切合切不要だモノ」


 不遜に尊大に不敵に、そういうあらゆる強さと力を宿らせる瞳。

 それは、とても見ていて清清しい輝き。


 ホント、俺が助力を多少なりとも貸したくなる価値は久々だ。

 コイツを一度くらいは折ってやって、そしてより個性を高めさせてやりたいな、そんな風な事をも考えれる。

 恐らく、研ぎ澄まされた日本刀のようなコイツは、そういう過程を今まで散々なんてレベルじゃなくしてきたと、そう思ったが。

 だが、見違えるほどの個性の伸びを、直接この目で実際に見てみたい、そう思えるのだ。

 できれば俺が、あるいは上手い事この状況とかが、それを達成できれば言うことなしだな。

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