自警団員と姫騎士イデアと黒騎士アラヤ
「アラヤ、思ったのだが、外道鬼畜オーク討伐記、これは最近の流行、トレンドを慮った、小説のタイトルにならないか?」
「さあな」
「我は、今回のオーク種最大のドラゴン級の討伐を記念して、なにか書きたいのだがな」
「いいんじゃないか」
「そっけないな、やはり、わたしが実際にオークの慰み者にならないと、いけないのか?
ちょっとちょっくら、その辺のオークに純潔を捧げてみようかぁ?」
「おいやめろ」
黒のダンジョン呼ばれる場所がある。
俺の住む村の、目と鼻の先、ってわけじゃないが、割と近く。
村と言ったが、半分町かもしれないね、規模的にも人口的にも。
さて、別に黒のダンジョンを攻略したいとか思わない、少なくとも俺は。
偶に冒険者が村の宿に泊まって、黒のダンジョンに挑戦する話を酒場でしたりもするがね。
俺はそういうのと違う、ただ日々を平穏に過ごせればいい。
ダンジョンの宝とか、モンスターと戦いたい戦闘狂とか、
奥深くに待ち構える、超絶美少女と噂の黒の魔女を生け捕りにしたいとか、そういう野心染みたの色々思わない性質なんでね。
俺が思うのは、一つだ。
黒のダンジョンから無限沸きする、馬鹿強いオークが、日常生活を脅かすレベルで、うざい、だ。
俺は、村を守る、自警団に属する。
保守的であり、革新派のダンジョン攻略して、オーク無限湧きを無くそうとか、別に思わない。
そんな事を計画する暇があれば、他の事をする、そういう奴でいたい。
だいたいダンジョン攻略てっ、超面倒臭そうだし。
ぶっちゃけ、日々の勤務、シフトだけで手一杯であるってのが正直な実情になっているのだった。
オークとは、言うなら魔物だ。
剣で戦って、倒せるレベルかと言われて、ちょっと微妙じゃねえか?って疑問抱く程度の強度。
ある程度鍛えて、錬度が高ければ、集団フルぼっこで、死傷率ほぼゼロで勝利できる。
だから、大抵は集団で待ち構えたり、集団戦法で漸減したりして、やり過ごすの常套手段。
ここで問題、だが、最近、それが危うくなってきた。
別に危機的問題じゃない、致命的なレベルじゃないって事。
金をはたいて傭兵雇ったり、賃金上げて募集を広く掛けたり、幾らでもやりようは、ある。
あるにはあるのだが。
村は別に裕福じゃない、貧しくも無いが、無用に自警団に金が回せない程度には、清貧を強いられている。
だから、当然のように皺寄せのようなモノは、責任と共に自警団に流れてくるわけだなコレが。
「やってられないな、今月中になんとかしないと、自警団を抜ける奴が出てくるレベルだ」
独り言を呟く、今日は朝から寝ていない夜だ。
月明かりを頼りに、家に向う。
自警団は宿舎もあり、村に自前の住処、家が無い人間は其処に向うが、俺はそうじゃないというだけのこと。
先ほどの言の補足説明。
今月のシフトは地獄である、毎日出勤レベルといえば分かり良いだろう。
そうしないと、オークに対する、最低限の数的有利を保てない。
それが保てないと、決して無視できないレベルの、死傷者を生み出すからだ。
実際、毎年死ぬ奴はいる。
だが、そいつらについては、黙認されるのが平常だ。
事故で死ぬ、明らかな怠惰、実力不足で死ぬ奴だ、誰も文句は言うまいよ。
そうでなければ? そういうことだ、事態はそういうレベルってことよ、最悪に次くらい。
歩いていると、目の前に、道の真ん中辺りを歩いていない、隅だ、それなのに前。
馬を駆る、二人の人物に向き合う。
「おぬしは、この村の者か?」
「ああ、そうだが」
やばいね、一瞬で惚れた、一瞬後には冷静になって、醒める程度だが、これは凄い美女だ。
金髪の長い、流麗な星の棚引きのような、艶やかな何か、
言語で表現できないのだが、髪が本隊かって言いたくなる感じ。
そして、力強く、一瞬で切り裂かれて、空気粒子を震わせてるんじゃないかって、錯覚する眼光、蒼の目。
どこかの姫か、公爵家の令嬢のように、凛々しくも高貴な、類稀に傾国的な美貌も付加されている。
そして、後ろには、なんか、全身真っ黒な、巨大な騎士風の、馬に乗った奴いる。
「そうか、すまんが、泊めてくれ、腹が減って死にそう、断れば殺す、
ああ、うそうそ、疲れてて冗談言った、金なら腐るほどある、さっさと家に招待して、飯をつくれ、さもなくば殺す」
「おいおい」「おいおい、イデア」
同じ様に、相槌を打ってくれる、後ろの黒い全身よろいの男。
てか、そんな超重量装備で、よく馬が根を上げないものだ。
良く見ると、女の乗る馬に比べて、黒いよろい、黒騎士の馬は、なんだか一見にして強そうだ、だから大丈夫なのだろう。
「イデア、物には頼み方、順序があるだろう、常識を弁えろ、いい加減な、大人だろう」
「そうですね、常識大好きさん、
つまらない理屈ならべる暇があったら、わたしを楽しませる芸の一つ、話術でも披露しろ、穀潰しの用無し、死ね」
酷い言い草で、黒騎士を一蹴し、俺に向う。
「さきほどは御免ね、お願いよ、お腹ぺこぺこ、満たしてくれたら、お礼として、お礼言ってあげる、
さて、さっさと行くわよ、道案内しなさい、ほら、駆け足っ!」
俺は一瞬ぽかんとしたが、ほうほうの体で、道案内せざるを得ない。
その場のノリとテンションと勢いで、何事か問われるが、もうなにをか言わんや、緊張するのだ。
「ほお、これがお主の家か」
「はあ、そうですが」
「立派なモノだな」
黒騎士の方に礼を言い、案内しようとするが、
そのとき、自警団の方角から、最近は慣れっこになった伝令が走ってくる。
案の定、溢れ出るオークに対処能力が間に合わず、増援のお達しだった。
「どうした?」
「ああ、俺は用があるので、すこし離れます、家の中のものは、ええと、好きにしてください」
少し戸惑ったが、もう面倒だ、別に惜しいものはない。
俺の様子にいぶかしむ様に、女騎士は迫ってきた、ビックリするやん。
「太っ腹であるな、しかし、お礼は何が良い?
少し話を盗み聞いたが、どうやら戦力の不足と聞く、我は特級の戦力なのだが、どうする?」
とか言いながら、既に行く気満々、付いて来る気満々、俺を先導するようにする。
困っていると、黒騎士が話しかけてくる。
「不信があるかもしれないが、どうだろう?
同行を許可してくれれば、例え竜が相手だろうと、一掃するが?」
なんかこの人も、微妙に乗り気というか何と言うべきか、もうどうにでもなれという心境に至る。
「ふむ、オークか、雑魚過ぎて、話にならないな」
自警団の道を歩みながら、事情説明、開口一番これでした。
「ええとしかし、敵は小型種でなく、タナトス級、サイクロップス級と、混然一体な感じでして」
「最大級の、ドラゴン級でも、問題ないが?」
ドラゴン級? なんだそりゃ、? なにか神話で出てきたような、どうだったか、とにかく意味不明、オークどこいった。
「そうですか、頼もしい限りです」
適当に答えつつ、自警団に付く。
事情聴くに、前線で人が足らないので、部隊を一度帰還させ、増援を入れて、再度前線に復帰するらしい。
既に帰還して、一時の休憩に浸る部隊が待っていた。
「さて行くか」
「ちょ、そうなると思ってましたよ」
部隊と合流せずに、単身で行くと思ったが、やっぱだった。
「なにか、問題が?」
「いやいや、オークといえば、一部の種類除いて、集団ですって、単身で乗り込めば、袋にされます」
「なるほど、、、、それが何か問題が?」
「問題ありまくりですよ」
どう言えば通じるのか、ちょっと考えていると。
「大丈夫だ、コイツは、心配するだけ、気配りの無駄になるような奴だ」
黒騎士が、どっから声だしてるのか分からない、超常現象みたいに響く肉声で言う。
「む、なんだその言い草は、だいたいお前もだろうが、アラヤ」
「はっは、相違ない、イデア」
なんだか砕けた調子で話されて、調子が狂うのだが。
「さて、行くか」
「ちょ」
「止めるな、止めるなら斬る」
なんで、そうなるねんっ。
というわけで、早急すぎるというか、即断即決というか、迅速果断で美徳になるか微妙であるが、
いや早計で尚早で悪徳の限りなのか?
よく分からないまま、俺がお目付け役みたいな感じで同行し、
部隊行動を無視しての、単騎、いや二騎プラス俺だが、突入が許可された、自警団隊長融通利き過ぎ、
「さて、どこだ? 見つけた!」
その掛け声と共に、金色の糸が翻り、一直線にオークの群れに向っていった。
ズバーンっと、一線で、像ほどの巨体が両断されて、腕が吹き飛ぶ、血が斬りきり舞う。
目視だけでも十体は下らない、しかも大型種、
なるほどこりゃ前線部隊が人手不足と嘆くわけだ、今夜は厄日だ。
ズバーンズバーン、なんだか何度も聞くと爽快なくらいの音を響かせて、
オークが、人知を超越した存在が、蟻のように踏み散らかされるように倒れていく。
「助太刀する」
「いらんっ!」
いつの間にか黒の騎士すら、戦線に加わ、いや共闘している。
巨大な剣、飾りのように初見で思ったが、やはり普通に扱うらしく、
軽々と、それこそ、あんな巨大な質量誇る物体が、黒騎士に掛かれば細剣のように、、、しなっているっ?
シュィーン! と、聞いたことも無い音がした、見たことも無い異様な、壮大な風景と共に
凄い光景であるが、あんな像みたいなオークを、なぜか一刀両断した、なんで一刀両断するしと思った、
非効率だが、多分、爽快なのだろう、それくらい切れ味鋭く、オークはやっつけられたのだから。
「さて、次は?」
辺りがオークの血で濡れまくり、本人達は綺麗なままである。
「もう、今日は終わりですよ」
「はあ?」
「いや、だから、、終わりなんですぅ」
「、、、そうか、それは残念だな」
剣をしまって、ムスっとした表情、なんだか悪いことしたみたいだ。
だが次の瞬間には、二カッと笑い、話しかけてくる。
「さて、お主は飯が作れるか? 作れないのなら、我が黒騎士の腕の見せ所なのだが」
「おい、俺は飯など作るつもりは無いぞ」
「なんだ、黒騎士、お主は一泊の礼に、料理すら振舞わないのか、不敬な奴だな」
「お前以上に不敬な奴がいるか」
なにやら楽しげに話しているが、
俺はこの二人をどう報告し、どのように歓待するべきか、今もって頭悩ませているのだった。




