解放者の工作員‐解放するだけのゲーム
観測者は、秩序に属する、世界のエントロピーを最大化させて、全てを最高に成り立つようにする。
解放者は反対に、混沌に属する、世界のエントロピーを拡散させて最低化させて、全てを最低に成り立つようにする。
「どちらが正しいも無い、ただ俺達は、絶対存在の欲望の限りを調教された、操り人形でしか無い」
だが作者存在は違う、絶対の調教も、絶対のバッドステータスも、所詮は物語の設定として、やり過ごす。
精神操作が効かないのだ、この存在にはおよそ、物理的な鎖と枷でしか、その実態を拘束できないで知られている。
「貴様達は何者だ?なぜこの城を襲った?どの勢力だ?」
「ふんっ!一度に質問しすぎ!質問攻めする男は嫌われるわよ!まずアタシにね!」
「まあワタクシ達、ただの盗人よ、それも無所属の」
「嘘を吐け、貴様ら只者ではないな。我の手を持ってしても止められぬ。そのような輩がそうそう居てっぐぅ!!!」
そんな彼、初老の魔術師のような、黒のローブを全身にまとう翁に、
何のためらいもなく、口上の途中だというのに、金色の剣を振り上げ落とすリリ。
「はん!!貴方はここで死ぬ!それだけ分かれば!あんたにとっては十分でしょうがぁ!!」
「くっ貴様達!我々に歯向かう事が!どういう事か分かっているのか!」
「ええ。十分に承知した上で、今回の件は実行させていただきましたわ。それではさようなら。観測者さん」
そう言って、レイアは漆黒の拳銃で、初老の魔術師の眉間を打ち抜いた。
その瞬間VRゲームのアバターが弾け飛ぶように、大量のポリゴンを撒き散らして、男は砕け散った。
「口ほどにもないわ!どうよ!これがアタシ達の力よ!」
止めを刺してもいないリリが、超大威張りで胸を張る。
超ムカつくから、後ろから蹴り上げてやろうかと、すこし検討し、
右手のスパークして稲光る、神々しい黄金の剣を見て、ちょっと今は止めておこうと思った。
「呆気ないわね。観測者といえど、現界してまもない。更に下位ならこの程度なのかしら?」
「観測者?こいつがかぁ!?」
「あっれ?イツキ知らないで来てたっけ?」
俺はイルミナードの工作員として、この世の絶対的な外側、解放者として潜伏しているのだ。
だが実際は、ずっとゲームを遊んでいるだけの日々だった、てっきり今日も、ただのプレイニングだと思ったのだ。
「お前ら一度も説明してなかっただろうが!」
「まあねぇ~イツキ説明したら来なかっただろうし」
「なんで!?なんで観測者を殺したんだ!!」
観測者殺し、そうだ、この世界のゲームマスター、KP、
異次元の存在だ、つまり、異次元の存在である事が、ばれた瞬間だ。
「ちょっ殺したって!人聞きが悪いことぉっ!ただアバターを失って観測者がここから居なくなっただけでしょうが」
「そうよつー君、殺したって表現は悪いわ。
まるでこのゲームが、生き死にの関ったデスゲームみたいじゃない、二次元に浸かりすぎよ」
超次元存在である俺達は、だ。
実際にこのゲームの、普通のプレイヤーは、死んだらそれまで、データすら残らない、場合が多い、のだ。
「ああっそうだったな。でもなんでだ?なんで観測者って分かってるのに、こんな事をしたんだ?」
「ねえレイア?そろそろ話してもいいんじゃない?」
「そうね、つー君にも。そろそろ本格的に手を貸してもらいたくは、なっていた所だし。いい機会だわ」
なんだか俺を抜きにして、黒幕の語り口調を展開する二人、微妙にハブの気分を味わう。
「やったわね!イツキ!あんた私達の仲間になれるわよ!」
「一体何の話か、、もっと分かる様に説明してくれ」
「私達はね、観測者に反抗する者。リベレイターズ(解放者達)の一員なのよ」
解放者は分かる、世界の外側から、なにかしら暗躍する、真なる世界の調律を行うのが使命とされる存在だ。
それはつまり、観測者により最大化される世界を抑制するモノ。
エントロピーの最大化に対抗するモノたち、際限の無い世界の一点化を、極点化を抑制する、
世界の中心を囲み、全てを均衡にならす、天秤の役割を果たす、とかなんとか諸説あるが、だいたいはこの方向性だ。
「解放者達?なんだそれ?!一度も聞いたことないぞ??!」
「そりゃね、今まで水面下で動いてて、
このイルミナードの、大観測者達がてんてこ舞いの今しか、離反のタイミングが無かったしね。
誰もまだ、状況の実体、味方の大部分プラス離反した工作員の私達の派閥、実際二割程度で纏まって、
大まかすら、把握していないでしょうね」
「どういう事だよ、、意味分からないんだが」
そこでやあやあと、超絶グラマラスお姉さんこと、レイア、俺の肩を撫でてスキンシップがてら、なぜか耳元で甘く言う。
「つー君は、この世界の事情のこと。知っていたかしら?」
「ああ、かよから結構な内情は聞いてるぜ。まあその前までは全く知らなかったんだけどな」
「じゃー、今のこの観測者が、この世界の勢力の均衡を、完全に支配しコントロールしているのも、知っているのね?」
佳代、大観測者の更に上、超観測者、絶対存在と同レベルの図書館の主、四つしか無い創世のカギの所持者。
「そうだな、そうしないと色々と成り立たないんだろ?」
「その通りだわ。
だから、私達は、観測者は運営のような立ち位置で、ゲームを絶対的な力で支配するだけ。
そりゃどうにもならなくなって、リセットする事はあっても、追い詰められる、そんな事はありえない。
これって詰まらないと感じないかしら?」
「そうよ!!下らなくてやってられないわよぉもう!!だから私達は、周到な計画のもと離反したグループってわけぇ!」
「まじでかぁ、お前達そんな、、、てか観測者だったのかよ!一度もそんなこと言ってなかったじゃないか!」
「まあつー君に話したら。かよちゃん経由で計画が、バレてしまうかもしれなかったから。ごめんなさいね」
いやいや、てーか、俺はもともと、解放者の、大いなる欺瞞、嘘、工作員だったわけだが、言わないが華だろう、この場合において。
「、、、そうか、だいたいの状況は理解できたが。
何の為に?もう世界を管理するのが嫌になったのか?」
「いいえ、そうじゃないわ。
私達は新たな管理法を、観測者もゲームを、
この世界を真に楽しめる、手に汗握る有意義なモノにしてあげる為、立ち上がったという事よ」
「そうよそうよ!私たちだって、この世界を愛しているわ!。
でも私たちもゲームとしてもっと楽しみたい!そういう話よぉ!悪者にしてもらっては困るわぁ!」
「新たな管理って?具体的には?観測者の存在なしで、この世界が成り立つのか?
無理だから、観測者が今まで裏で操ってたんだろ?」
「ええ、その通り。管理者が居なくては、この世界は根本から成り立たない。
でもね管理者が、勢力を均衡させる必要まではない。
確かに世界は混沌とするかもしれないけど。それはそれで面白いと感じる人種もいるってことよ」
なるほど、リベレイターズ、観測者から離反した、作者存在を併せ持つ、真なる観測者達は、穏健派って事か?
解放者の真の狙い、俺は知っているが、際限の無い無限大に世界を拡散させる事は、たぶん反対。
俺達の、解放者の勢力すら世界に組み込み、混沌としながらも、ギリギリの状況を作り上げる事で、
観測者ですら、ゲーム要素が絡む、世界の命運を賭けた戦いをすら望んでいる、節があると、今のところの俺は観た。
「面白いじゃないか、、、だが混沌??、
でもそれを避けるために、今まで観測者は総力を注いできたんだろ?何でまた、それを妨害することを?」
そう混沌だ、観測者は世界の運営・管理において、ひたすらに潔癖に高潔に、形容が正しいか知らないが、混沌を嫌う。
もちろん作者存在級ならば、多少はこの潔癖症を緩和するだろうが、俺は今一度、その件について突いて様子を見る事にしたのだ。
「だ・か・ら!つまり私達がその状態に飽きたの!
多少混沌を楽しめない人が居ても、知ったこっちゃないわ!混沌を楽しみたい人がいるんだから!
観測者だって私達のような、管理する上での不確定要素が生まれれば。よりゲーム的になって面白いでしょうがぁ!!」
「んなぁ、はた迷惑な、つまりお前達は私利私欲の為に、この世界で暴れまわるってことか?」
俺はレイアに聞く、横にキスできそうなくらいだったので、意識を向けてけん制する為にもだ。
「いいえ、そういう訳じゃないわ、
建前としては、観測者もゲームを楽しめるようにする為、あくまでそれを忘れないで欲しいわ」
「じゃー本音はどうなんだ?」
「もちろん、この世界を混沌の渦に叩き込んで、ワタクシ達がこの世界を支配し管理する、まあ掛け値なしの物言いをすればこうね」
俺はレイアの目を、観る。
ふうむ、どうやらクソ外道、悪女、如何わしいほどに女傑、
女王のような大輪の薔薇のような、悪の心象風景が、壮絶に華麗に荘厳に、果てなく無上に無双の神々しいほどに観えた。
「やっぱりそんなとこだと思ったよぉ!!」
「いやいや、レイアの言ってる事は冗談ってか過剰な考えだけど、
私達は本当に、この世界の事を思っての事を言ってるし、やってるのよ?」
「どういう事だよ!ここからどういう言い訳する気だ!」
「うっさい馬鹿!すこしは人の話を聞きなさいぃ!!!!」
大上段からの叱咤。縮み上がるような一括、
で、俺はちょっと条件反射で涙が滲む目頭を、全力で押しとどめた、条件反射は調教の成果だな、クソが。
「わかったわかった、全部話を聞いてから判断する」
「よろしいぃ!じゃー説明するけど、この世界は危機を迎えているのよ、存続のね。
なぜだかわかる?
一言で言えば観測する事が暇なのよ、つまり管理する人間が減ってきてるの、
今までは増える一方だったのによ?」
それは知っている、観測者は無限大に居るように見えて、実際の全世界に存在する存在は、もちろん有限だ。
所詮は無限大の世界と言っても、物理的な事象なのだし、有限だ。
もちろん掛け値なしに無限大と表現できるくらいに、天文学的に加速度的に、億の億の億の超超倍で一杯いる訳だが。
「みんな、観測者の枠割を捨てて、勢力に参加して、
観測者が徹底管理する絶妙に勢力バランスが均衡する、そういう戦場を楽しみだしたの。
ここから推測される事実は?」
「えと、観測者をする人間がいなくなって、この世界が崩壊するってか?」
「そのとおり!だから私達は解放者、つまり観測者の目的、
この世界を秩序的に保つ勢力に対する、この世界を混沌に陥れる陣営勢力、解放者リベレイターズとして立ち上がったのよ」
「なんでまた、解放者なんだ?やってる事はまるっきり悪者じゃないか」
「それも建前なのよつー君、
この世界では観測者という存在が、それなりに認知されているわ、
この状況に不満を持ってる勢力のプレイヤー、
更にこの世界特有の上位NPCに、この解放者という響きはとても甘美に聞こえない?」
ふうむ、イルミナードには、まあまあ居る。
まあそのほとんどは、プレイヤーが、NPCのヒロインをゲーム内キャラだと馬鹿にして、それで勝手に真理が広まった感じだろうが。
「自分達を箱庭に閉じ込める存在に対する、明確な敵対勢力、喉元に差し向けた刃になるんですから。」
「うーん、どうなんだそれ?
今現在勢力に参加してプレイしてる奴らも、状況は理解してるんだし。あんまり支持されないんじゃないか?」
「そういうあれこれも!全て含めて!問題が山積みな状態くらい理解してるわ!
でも行動を起さないと、何も始まらないじゃないの!
いいのよいいのよ、もしこれが失敗に終われば。また別の手法を探せばいい!
致命的な失敗にはなりえないんだから!軽い気持ちでやっちゃえばいい状況だったのよ!」
「なんだかなー、不安要素が一杯で、どうにも俺は乗り気になれん」
「つー君は、この計画が不満?妹が観測者だからかしら?」
「いや、別にそういう話じゃない。聞いたところ今現在、真面目にやってる観測者にもメリットはあるんだろ?」
「ええ、もちろん」
「だったら俺は文句ないよ、
でもだなー、これによって勢力均衡が崩れて大戦争が起きるんだろ?
確定はしなくても可能性としては高まるんだ、本当にそれでいいのか?」
「ふっふ、やっぱり其処に気づいたわね、優秀な証拠よ。
そう、これで戦争が起きる、かつて発生した事のない未曾有の、
ただただ、夢を第二の現実として楽しむ人間には傍迷惑な、だからこそ、良いのよ」
そうゲームの世界だ、滅茶苦茶になるのだ、ゲームの世界の住人は可哀そうだ。
俺の建前は無しとして、この世界を真にゲームとして楽しむ奴らが、本当に可哀そうなのだ。
「観測者も本気で世界を死守する為、我々解放者をどうにかしようとしてくる、
それこそが真の楽しみ、悦楽でなくてなんていうの?」
「うっわ、やっぱりお前達は悪の組織だ。そんな組織に協力はしたくないな」
「ふん!イツキは私たちに絶対服従の!揺すりの材料を山ほど握られている事を忘れたの?!」
「ちっ知ってるよ、どうせ協力するしかないんだろ。
わーたよ、勝手にしろ。
俺は嫌々だが、まあお前達のやってる事の建前の偽善を、俺だけは頑なに守る為にも、俺がお前達をどうにかしてやる!」
そうだ、どう考えても、俺はこの二人に逆らえない、イツキならともかく、つー君程度の呼び名で弟分な俺は無理だ。
「あら。これはこれは奮起してすぐだと言うのに、もう内部に不穏分子を抱えてしまったわ。面白い」
「はっはぁ!イツキ!?
あんたが私たちをどうにかできると、本気で思ってるのぉ?無理無理無謀な試みよ!まあやれるモンならやってみなさいよぉ!」
「ああ!お前らなんかに!佳代がみんなの為に管理してる世界を!滅茶苦茶にさせてたまるかよぉ!!」
そうだ、あの妹が、佳代が、己の理想の為に立ち上げた、この世界だ、俺は信念として想うのだ。
こんな分けで、俺の第二の現実。セカンドライフは大変な事になりそうだ。
俺はただ。この世界をファンタジーゲームのように、楽しみたかっただけなんだがな、、ちくしょうが!!




