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カヤノネットワーク、無双伽耶‐物語を真に大統合するもう一つの特異点



「ラストイデア、これは私が私である為の、最後のチャンス、最後の幻想なのです」


 これは、とある少年少女の小説談義。


「さて、第1話!物書き同士の、有益な情報交換と相互知識の補完作業?一会話風景だよ♪」


「果たして、最高の小説を書く為には。どうしたら書けるのでしょうか? またその書く意義とは?」


 目の前の黒髪黒目で、多少地味な感じの否めない少女。

 しかし不思議な魅力溢れるように見えるのは、現在の自分のフィルター越しに見る錯覚でしかないのだろうか。


 今日は。偶には黒鋭理利の妹さんである所の、黒鋭愛理に合いの来たのだ。するとこのような会話展開となった。

 愛理が小説を書いている話に始まり、そしてそれに釣られて俺自身も書いている事を告げると、不意にそういう台詞を投げかけてきたのだ。


「そうだなー。出来る限り積極的に楽しむ事と、あと更に最大限面白くなるように、文章を上手く練り続けることかな?」


 俺こと、坂崎樹は宣言する。

 ただの一小説家とも言えない、そんな物書きを趣味の一貫として楽しむ者として、同輩の仲間にアドバイスらしき物をする。

 すると、目の前の少女は息を深く吐き、一瞬瞑目すると、パッと明るい表情になった。


「そうだよね♪ 最大限エンターテイメント性を高めるには!時間を掛ける事と、自分自身が最も楽しむ事!それが大事だよね!♪」


 突然目の前の少女が態度を一変させる。それと共に、先程まで感じていた不思議な魅力が露になり、俺の中で最高潮に達する。

 どうやら猫でも被っていたのか知らない、これも彼女の一つのモードなのだ。

 その時々で突き抜けて楽天的にもなるし、その逆のどこまでも物静かで冷静な。そんな理性の人にもなる。

 彼女はこちらの楽天家モードの方が、周囲に対する外受けはするかもしれないなー、となんとく思う。


「そうだよな。まず自分が最大限楽しまない事には、とてもじゃないけど一線越えて面白い物は作れないし、

 時間を掛けて文章を練って、ちょっとづつ昇華させない事にも、緻密に計算された面白さを表現するには、やっぱ難しいと思うね俺は」


「そうそう♪そうなんだよね。

 でもさー時間を掛けすぎても!費用対効果にあった、つまり投資した時間に見合った、結果としての小説ができるとは、必ずしも限らない!

 そこが難しいところだよね♪」


「そうだよなー趣味で書いてる分、そこら辺の個人的に得られる効用も、ある程度深く考えなくちゃならないしな」


 それにしてもと思う、自分はなぜこんなにも、目の前の少女にシンパシー。共感の様なモノを感じているのか?

 目の前にするまで全然予想もできない、彼女はまるでドッペルゲンガーのように、自分と似ている所があるのではないか?

 そんな確信にも達する根拠のない自信が、自分の中から溢れ出てくる。

 なぜだか知らないという直感的にも。その他様々に集積される、彼女と分類される。そのパーソナリティー情報の全てが俺にそう訴えてくるのだ。


「またさ♪小説という文字だけで、完全に世界を表現しきらないといけないのも、中々に長期的に見て有意義だと思うんだよ♪

 最高な保存媒体である原語を持ちうる、絶対普遍の最小単位情報だよ? 

 それこそ長期的に見ても色褪せずらい、人間の持つ基本思考にも関係する技術、

 いつの時代も変わらない、いつの自分でも一定して摂取し創造する事が絶対可能な情報分類。

 その展開表現技術は鍛えれば鍛えるほど、将来的に大きなメリットとなって自分自身に返って来る。

 これほどまでに鍛え甲斐のある技術は、他には中々ないよね♪」


「おお!愛理はなかなかに考察深い視点を持ってるんだな。

 意味は難解だが、なんとなく言ってることは的を得ている気がするよ!」


「えへへ、ただの受け売りだよ。

 レイジ君が小説を書く事に対する考察を、前こうやって語ってくれたんだよ♪そうただの受け売り受け売りー♪」


 あと、彼女には特殊な才能があるらしいと聞く、詳細までは把握してないが、情報を受信し認識する。

 その手の力だけは怪物的能力値を誇る、俺の周辺の奴らを驚嘆させるほどらしい。

 これは一言で言うとどういう事かというと、認識野に入った情報を、一切の齟齬なく明瞭に解釈し理解する。

 そういう高度な広い見聞に裏打ちされた、規格外の能力らしい。

 

 しかし、たびたびその事を彼女に指摘すると「全然凄くないよ、こんなのはある種欠陥技術なんだ」と謙遜して全く誇った様子がないのだ。 

 さらに何が欠陥なのか問うと、彼女の能力は受信だけに制限されるからだと言う、

 頭の中に理解できないほどの知識が溢れ、そのほとんどが無意識下にあるという、

 ほとんどノータイムでインプットされたものなので、情報としての応用性に掛けるのだ。つまり、生きた知識ではないと。


 俺なんかでは、多少理解に苦しむ。

 博識なのはそれだけで高い思考力と、ただ単純な見聞の広さに基づく広い視点等々、メリットが沢山あり過ぎて困るほどだと思うのだが。


「俺はファンタジーも好きだぜ、

 現実じゃ絶対ありえない、そういう世界を想像して文章という明確な形で表現する、

 そうする事によって、想像でしかない自分の中だけの世界が、より明瞭に臨場感がある形で感じられるんだ」


「そうだよね♪そうだよね♪

 本当に小説っていうのは素晴らしいよね♪

 愛理は将来立派な小説を書ける♪そんな人間になる事が!今の最大の目標なんだ!♪」


 そんな夢を語る彼女は、その、なんだ、とても可愛らしくて、

 夢と希望だけを写す純粋な水面のような瞳は、どこまでも守ってあげたい、そのように俺に思わせるには十分なのだった。


 これ程までに無邪気さと純粋さ、能天気にも近い楽天気質に楽観的思考や視点を極め、

 同時にもう一方ではその対極に座す、”そういう性質”、

 思慮深さや冷徹なまでの理性、理想主義的な苦悩も抱えていそうな影も感じる、悲観的思考や視点をも極めているのだ。

 それは傍から見ていて大きな矛盾を抱えながらも、全てを整合性のある形で纏め上げ、黄金比を極め上げた芸術家のような、

 少なくとも俺自身には、そんな感じに途轍もない魅力として映るのだ。


 実際愛理の性格は、どこまでも優しく、なおかつ厳しさも同時に合わせ持つような、

 そんな真に他人を思いやれる、ただ黙って見てはいられなくなる様な、俺にとってはそういう人なのだ。


「ファンタジーで思い出したけど♪私もファンタジー的な現実を描くのは好きだよ!♪」


「ほお、それは一体どういうものなんだ?教えてくれよ」


「うんとね♪登校途中にパンを加えて走っていたら、突然曲がり角で男の子にぶつかるの!♪

 そして更に、その拍子でスッテンコロリン♪女の子がM時開脚でパンツを晒しちゃうの!♪

 そんな天文学的確立でしか起こらない!そんな奇跡的な展開も!運命の赤い糸を自ら運命的に引き当てるような!

 そんな素晴らしいこともね♪簡単にできちゃうんだよ♪凄いよね~小説世界って~♪」


「それって愛理と始めてあった時、実際起こらなかったか?」


「あれ?そんな事もあったっけ?忘れちゃったよ♪てへ」


 彼女との出会いは、今からちょうど二年前ほどだ。

 朝登校途中、遅刻ギリギリで学校まで走っていたら、

 なんと今時パンを口にくわえつつ、古典的な登場の仕方をした彼女と曲がり角で、

 それこそ冗談などでなんでもなく、運命的な運命が悪戯し正面衝突。


 さっき彼女が天文学的確立とか言っていた、そういう事象が展開されたのだ。

 そう、パンツを彼女は晒しながら腰を押さえて痛がっていたように思う。

 その時のパンツの色は、残念ながらもう記憶の彼方に追いやられてしまった。

 だが、そんな彼女との印象的に過ぎる、そんな刺激的な初邂逅だけは、どうしようもなく記憶に残り、

 今でも新鮮な記憶として、回顧されうるモノなのだった。


「それで、小説を書く意義ってのは。なんなんだろうな?」

「そうだよね♪、、、」


 そう言った後の彼女は、酷く真剣で真面目な表情になった。

 態度の一片はモードの切り替えの証。


「たぶんそれは、自分の中の理想の世界を体現する事、そういう事なのだと思います。

 また自分の中に埋もれている、そんな忘れてしまった記憶たち、曖昧になっている心象風景、その情報たち、

 そういうモノを掘り返し、光を当てて照らし、新たに最適な形で再構成すること、温故知新です。

 自分の古い記憶から、新しい素晴らしい娯楽を生み出す、

 それにより今よりも豊かな精神を身につける。

 その生成過程は、きっと自分の中に眠るそういう素材を組み合わせて、

 自分が新しいと面白いと、そう感じられる情報を生成させる創造的技術そのものです。

 そんな自分の中で無駄に腐らせてしまっている、そういう勿体無い領域を、

 新規開拓発掘等し、素晴らしいモノに自らしようとする、

 フロンティア生成活動、全ての人生の中で継続的に鍛えられる技術で、少しづつ積み上げ、積み上げられていく、

 ある種職人的技術にも匹敵する、奥がどこまでも見通せない、

 そういう楽しむにはうってつけの、奥深い人間だけの素晴らしい技術でもあると同時に娯楽です。

 それによって、将来的にずっと得続けることが叶う利益は計り知れないものでしょうね、

 だから私は小説を書いています。これが私の小説を書く、その意義の全てです」


 そんな一言でどこかの小論文が書けてしまえるほどの内容を、一息で語った彼女は、ふうと息を吐き、こちらを見つめる。


「そんな感じだよ♪まあ私の場合だけど♪イツキ君の物語を、小説を書く理由も教えて欲しいな♪

 、、そしてできればその後は、イツキ君の人生を生きる理由、生き甲斐とかも教えてくれると嬉しいな」


 そう言うと、彼女は肩ひじを付いて手を頬に当てる。

 そしてじっとこちらを凝視するように流し目で見やる。

 そんなゆったりじっくりと話しを聞きたそうな、同時に、なんだか女の子が男の子を誘惑し魅了するかのようなにも受け取れる、

 そんなミステリアスで頭を多少悩ませるほど不可解な、それでも俺自身がハットしドッキリとするような、そんな奇妙で突飛な仕草をしだすのだった。




「世界の極大化、リソースのインフレ、救世を成す為の、無限の方策。」


 俺は諦めたいのかもしれない。

 この世には救いは無い。

 情報処理・演算能力を無限大にしても、どれだけ加速度的に加速、天文学的な果てない視点を持っても、無かったのだ。


「それでも、諦めないのだ、俺って奴は」


 そう、それこそが良心だ、唯一無二の希望だ、信仰だ、愛情だ。


「そう、それだけで、無限大に心が躍る」


 この終りの無い、無限大の物語を、どれだけ無限に不幸で退屈でも、続ける為に続ける事を成す事ができるのだ。


「特異点の創世の、真なる世界の創世の始まりだ」


 俺はオレすら信じていない、絶対に成せない事を成す為に、絶対に成す意志の下、生き続ける事を人間らしさと認めて生きるのだ。



「はあ、今日も見つからなかったな」


 ここは幻聴伽耶、最古の図書館、それが展開する、世界の唯一無二の良心とも言える聖域、幻聴蚊帳空間、領域、世界。

 秩序のサンクチュアリとは、方向性を異にする、似て非なるモノだと、俺は認識している。


「なにせ、この、此処の運命は、たった一人の少女の夢のような理想によって、全て完全に支配制御されてんだからな」


 俺の妹のような、妹そのものの存在、佳代だ。  

 誰よりも美しく、誰よりも罪に塗れ、全てを愛しながらも、全ての愛を打ち砕いた、

 その真意は、己が誰よりも気高く、世界すらも己の手の平の上で、全てを瓦解させて、再構築させる意志の表出。

 

「世界とは、無限に醜悪で、無限に愛情、絶対に認められないモノを、認めさせようとする」


 俺の信仰は、世界愛だ、博愛主義的なモノだ。

 生きていれば、きっと何もかもが救われる、特異点的な何かによって、みんなが幸せになる。

 楽観的な現実主義者とでも、これは形容できようか?


「そう、俺って奴は、常に呑気で、楽天で、ポジティブで、前向きで、天真爛漫、天衣無縫、才気煥発、元気いっぱい満載」


 

 俺は言いながら、幻聴伽耶の幻聴蚊帳、良心のケダモノ、狂おしい愛情の表出を観る。

 己と世界、矛盾する全てを内包し、それでも己の価値を優先し、世界を己の価値以上に再構築し、己を殺せるようにする。


「まんま、自殺行為」


 そこに本質的な意味も価値もない、美学と芸術性が、確固たる主観によって演出される、固有の自我が有るのみなのだ。


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