猫の国-バースト物語-ウサギです、こんにちは☆☆
「、、、です」
「ええ? はい、こんにちは」
猫の国にて。
あれ? こいつ、どう見ても兎じゃないか?
見た目のヴィジュアル的に、とてもじゃないが猫に見えない、もちろん擬人化してる感じは変わらないが。
「お前、猫じゃないみたいだが、、」
早速の疑問を切り出してみる。
「猫じゃないと、ココに居ちゃだめでしょうか?」
ウルウルした瞳を上目遣いで向けてくる。
なんだか萌えアニメに出てきそうな、”典型的な乙女の仕草”だな。
俺は気を良くして、近づいて上から頭を撫でてやる事にした。
くすぐったそうにして、目を瞑ってされるがまましている様、愛らしい事この上ない。
「、、、浮気か?」
通路から首だけ出し、銀の女王猫が、そんな二人を見つめていた。
「バースト様、あの者を今すぐ切り伏せますか?」
その隣で、従者のように付き従う、キリカ、腰ほどまである黒髪の少女が、剣呑な口調で質問する。
騎士服に身を包んだ、カッチリとして、スラリとしたプロポーション、それに映える銀色の長刀の、その鞘を片手で掴んでいる。
「はっはぁっはぁ! 剣呑過ぎるでしょぉ~やめやめ」
それを制するように、レイア、黒ローブの美女が片手で進路を塞ぐように、中空に手を掲げる。
「まあ、いい。
べ、べつに、私はどうでもいい、、そんな風に思っているのだからなぁ」
そう言って、未練がましくない感じで、女王は、そしてその従者二人は、その場を離れていったのだった。
「俺はアキノだ、名字は此処では必要無いらしいから言わんが」
「ウサギのウサギです」
「ふーむ、君はこの国の、客人みたいなものなのか、だったら俺と似たような境遇だな」
城の中庭、幾つかの噴水や森林に覆われた、そんな風流な場所にて。
「そうです、それなんですぅ!」
縋るように、俺の腕に抱きついてくる。
「どうしたんだ? なんだか、言葉は悪いが、さきほどから酷く情緒不安定っぽいが」
そうなのだ、この少女、見た目の成熟度と精神年齢が、酷く乖離しているような気がする。
見た目は15~17、いやもしかすると、人によっては18~21くらいに判断するかもしれない、そんな容姿容貌である。
肩口ほどの桃髪で、お姉さんっぽい見目は整っており、先輩風を最初から吹かされていれば、十中八九、俺は敬語を使っていただろう。
しかし、会ってからの全ての行動全般、酷く子供染みているのだ、それを俺は疑問に感じたのだ。
「あうぅ~~、わたしぃ、ウサギですからぁー、寂しいと死んじゃうのにっ!
ココのみんなは私が兎ってだけで、猫じゃないから、誰も相手してくれないんですぅ~」
う~ん、それは可笑しい。
まず第一に、寂しいと死ぬなら、今まで誰にも相手にされず寂しい思いをしたなら、もうとっくの昔に死んでいるはずである。
第二に、ここの馬鹿な猫たちが、そんな陰湿なイジメみたいな事をしていたとは、俺の視点からは絶対に認められないこと。
「うそ、ついてないかな?」
「ありゃ、ばれっちゃってたぁ?」
「当たり前ですよ、だいたい、行動が一々ワザとらしすぎですよ」
舌を出して、自分で自分の頭を小突くような動作をする、演技だと分かっても、可愛いものは可愛かった。
「でも、ここの人たちに馴染めてないのは本当なんだよぉ? 所詮は余所者だからね、それも兎だし」
「馴染む以前の問題でしょ、ここの奴らは馬鹿すぎて、ハッキリ言ってしまうと、どうしようもないんですから」
「そうなのかな?」
「ええ、そうでしょ、だから、俺と一緒にいるのは、いいと思うんですが」
「わたしと、友達になりたいの?」
「そういう事だと、思ってもらいたいです、ちょっと話してみて、貴方がまともな人だと、直感しました」
「君の直感は、、、間違ってるね。 私をマトモと思うなんて、とても見誤ってる気がする」
「なら、これから改めて行くだけですよ」
目の前の兎は、ふっふと、面白がるように笑う。
「実はね、私も君みたいに、ある人に召還されていたんだよ、少し前までね」
「ほお、それは興味深い話ですね、俺にとって。 どうやって戻ってこれたんですか?」
「、、、召還者が、、、死んだんだよ」
俯き、表情が読めなくなった時、暗い声色で、それだけをゆっくりゆっくり発した。
「死んだ? それが、召還されたモノが、元の時空に戻る方法なんですか? 唯一の?」
「うん、だね、私の例の場合だけど」
顔を上げて、先程からの普通の表情で告げる、沈痛な感じは、今はとりあえずしない。
彼女がどんな心境か、俺には察して余りあるが、あまり気を使いすぎる必要は、もしかしたら無いのかも知れないな。
「君は、どうするの?」
詰問するように、どこまでもシリアスさが伝わる、そんな声色で質問されて、俺は密かに緊張を大きくした。
「どうすると、言うと?」
「殺すの? それとも謀殺かな? それともそれとも、彼女が自然に死ぬのを待つとか? 又は開き直ってココで生きるつもり?」
「そうだなぁー、ココで暮らす、そんな暮らしも悪くないとは、ギリギリ思えるしなぁ~。
でも、やっぱり元の世界の方が魅力的だし、俺は戻る方法を、既存の方法以外で見つけるつもり、ないなら潔く諦めるかな」
「ふっふ、なら、一生ここで暮らす事になるだろうね」
「それもいいかもなぁ、だって、貴方みたいな人も居るみたいだし、退屈しないなら、俺は基本ドコでも生きていけるんですよ」
巨大な城に幾本も生えるように存在する、特段大きな鉄塔をふり仰ぐように見上げながら告げる。
「順応性が高いね、良い傾向だと思うな」
「いやいや、多少恵まれた環境で生きてきたから、心が少しだけ豊かなだけですよ」
そう言って、彼女を見つめると、向こうも微笑むようにして見つめ返してきた。
その後。
桃色の兎と雑談してから、適当に散歩した。
この世界の季節感なんて分からないが、ただただ鬱蒼と深い緑が生い茂る、そんな城内庭園みたいな場所は見所があるのだ。
そして、頃合を見て城内に帰り、通路上から部屋の扉を開けると、待ち構えるように人が屹立していた。
「君、彼女とは、何を話していたんだ?」
「いや、特には」
女王の部屋にて、いや、もう俺の部屋だと思って寛いでるし、認識的にもそんな感じなんだけどな。
銀髪赤目の猫を見る、拗ねたような顔してるし、もしかして、嫉妬?
メンドクサイので頭を撫でようと手を伸ばすと、跳ね除けるように逃げられた、猫のような素早い身のこなしだった、小動物っぽくて可愛い挙措だ。
だがしかし、この手が通じないとなると面倒だ。
コイツは、頭を撫でるだけで、ふにゃんとなって、俺の虜にする事が出来るのだ。
それから、そんな御した感じで、甘い、俺にとってやり易い雰囲気の中、ゆっくり絆すのが上等手段だったのだが。
どうやらこの様子だと、そのようなやり口は、手口自体が不服だったらしい。
プライドの高いこの子のこと、尻に敷かれるような真似は、とうとう我慢すらできなくなって対抗する気にでもなったか、面倒くさい事この上ない。
「特には、なんて事はないであろう? なにをしたのか、教えてもらいたいんだ」
「分かったよ、でもその前に答えてもらいたい事がある、彼女は何者なんだ? または何をしている人なんだ?」
「この国の、守護者だよ、、やってる事は、、国の暗部、暗殺者まがいの事だと、私は認識してる」
「はぁぁ、まあ、そういう事だと思っておくよ」
突然の説明に、意味が分からず混乱した。
「そうしてくれ、別に悪い人でもないし、適度に付き合うのは構わない」
その言では、適度な付き合い以上は、認めない風であるな。
「おいおい、バースト」
「なんだ?」
「俺を縛りたいのか?」
「縛る?」
「プレイとか、そういう話じゃなくて、行動を縛りたいのか、そういう意味だ」
女王は少し間を置いて、考えるようにしてから。
「そうだ、私はお前を縛りたい。 率直に言うと、他の女と、あまり接して欲しくない、そう思ってるんだ」
「なるほど、もしかして、俺に恋でもしてるのか?」
「っ!!べ、べつに、誰もそこまで言ってないであろう?」
「なら、どうしてそんな事を思うんだ? 理由もなく、俺は束縛されるってわけか?」
「ち、ちがうぅ、ただ、これから、、、そういう関係になりえるかもしれない、だから、、、」
顔を赤くして、なんだか焦ったような冷や汗を見せる少女と化した女王、見ていて面白い、いつも新鮮で飽きない奴である。
「わかったわかった、お前の気持ちはわかったよ」
「ならぁ」
「うん、もっとお前を必死にさせる為に、沢山ほかの女と関わってやる、それがイヤなら、お前の方から俺に突っかかってくるんだな」
唖然とした表情をする。
俺はこれを機に立場逆転を目論む、いつもいつも、忙しいとかで、最近は相手をしてくれなかったのだ、コイツは。
「お前という奴は、、、」
悔しそうな顔して、歯軋りするように、奥歯を噛み締めてるような表情で睨んでくる。
「おいおい、そんな顔するなよ、冗談なんだからさ。
バーストが、最近はまったく釣れないから、拗ねてただけだよ」
「最近? ああ、あ、、、、、。
ごめん、最近は、お前といると苦しくて、、苦しいほど変になっちゃう自分が嫌で、なにかと理由をつけて避けてただけで、嫌いとかじゃないんだ、ごめんなさいぃ、、、」
「なんだ、そうだったのか。
なら、これからはどうする? 俺と一緒にいてくれないなら、俺は寂しくて、他の女かどうか知らないけど、関わる事になるかもしれない」
「それはやだ、だから、反省する、一緒にいるようにするからぁ」
「ふっふ、ありがとう、バースト」
「別にっ、お礼を言われるような事は、なにもしてない」
可愛い奴だなホント、そう思いつつ頭を撫でようと手を伸ばすと、、、またも逃げられる。
「やだ」
一言、明確な拒絶の感情を適当に織り交ぜたような音声。
「わたしは、それを厭イトう」
「なぜ?」
「やだからだ、頭を撫でる、、、いやそれだけじゃない、肉体的接触は、全部すべからく嫌だ、だから触らないでくれ」
「感じすぎちゃうから?」
ふざけてそう聞いてみる、すると、顔を羞恥で赤くして、肩を怒らせるように震わせる。
「っっ!!! このぉっっっ、、、ふぅーーーう、はぁ、、、、。
ふんっ、、私の嫌がる事はしないでくれぇ、ただそれだけの話だ、まさか理解できないとは、言わせないぞぉ!」
「わかったわかったって、しないよ」
「うそだ、そんな事言って、隙を見せたら、撫で殺して、私を服従させるつもりなんだろう!」
「俺に、服従させられるのは、いやか?」
「ぅ、、、別に、、、いや違う、、、、、、なんというか、、、そんなチョロイ女、飽きちゃうんじゃないかって、、、」
なるほど、それが本心か、面白いな、実に面白い発想で思考回路だ、出来た娘というか、できる女はこういう所が違ってくるわけだ。
そのあと、言葉巧みに迫って、無理矢理頭を撫でて、女王を腑抜けにしてやったのは、言うまでもないだろ。
次の日、口を聞いてもらえなかったが、まあ大丈夫、コイツとは、もう一線越えて仲良くなってるし、少し下手に出れば許してくれるだろうしな。




