最愛で狂おしいナナちゃんに俺の作品を見せてあげたいよ
ただそれだけの事をしたいだけ
「このロクデナしの、脳なしの害悪、どうしようもないクソ男!」
俺は最愛の幼馴染に、殺されるほど睨まれていた。
そりゃそうだ、俺はナナちゃんの小説を公募に出して、出版して百万部だからだ。
「貴方のせいで! わたしの個性が! 手垢のついたモノになった! どう責任とってくれる!」
「ごめんようぉ、結婚するから許して」
俺は惜しいと思っていた。
だってナナちゃんは、有り余るプライド、自尊心、自己愛で雁字搦め、救いようが無いほどでなければ、
書く小説は、百万部だからだ。
「気色悪い、私は貴方の事を気持ち悪いと思っています!」
「嘘だ、だってナナちゃん、俺の小説が好きで、初めて見た面白い小説が切欠で、
そもそも、俺に見せる、俺に好かれる為の利器として、小説を書いて百万部、だもんね」
ナナちゃんの小説は刺激的だ、だって百万部だもの。
でもナナちゃんは、俺の事が好きで、大好きで、狂おしいくらいに愛していて。
俺の書く小説でしか、絶対的に刺激を感じないくらいに、俺に入れ込んでくれている。
「くぅうう! だから! わたしは貴方に、貴方が小説を書く理由として、その為だけに!
本当に、それだけの為に、わたしは小説を書いていたのに!」
そうだ、知っている、ナナちゃんは、俺が小説を書くモチベーションの為、それだけの為に書いていた。
つまりは嫉妬なのだ。
俺が知る、俺だけが知るナナちゃんによって、誰よりも魅力的に見えるオレ、故の自己愛と自尊心と、プライド。
「絶対に許さない、絶対の個性を無限に汚された! 一生貴方は、わたしの書く小説の代替として、小説を書く事を言明します」
「望む所だよ、俺だって、ナナちゃんだけに、俺の小説を読んでほしい。
だってナナちゃんだけだよ、俺みたいな矮小な作者の、どうでも良いような内容の小説を、
自己内で、果てしないほど、創造を絶して余りある、遠い場所で、遠くまでスケールを増大・増幅・拡張して、刺激的に感じてくれる、嬉しい読者は」
「うるさい、絶対的な強度で好きなら、そう成るだけの事なのに、何をドヤ顔をしていますか!貴方!」
「俺も、ナナちゃんの事が、絶対の強度で、好きだよぉ」
世界は二人だけで構成されているのだ。
ただ俺は、嫉妬しているナナちゃんが見たかっただけ。
世界には一切合財の興味がゼロで無い。
俺の興味関心は、絶対的に、未来永劫、この少女だけ、彼女だけのモノなのだから。
「俺は嫉妬しちゃうよ、ナナちゃんは、二人だけの世界なのに、書く小説は百万部レベルだもん」
「関係無いでしょう? 世界なんて相対的なモノは、わたしは絶対的に、貴方を見るのだから、観えるのだから」
「うっぅう、俺だって、ナナちゃんはナナちゃんだよ、世界で百万部の評価を得ていても、嫉妬したりしない」
そうだよぉお、真の愛とは、こういうモノだ、俺はずっと昔から、理解はしていたけど、実感が無かったのだった。




