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イデア、ノンフィクション‐遥かなる果ての夢世界物語




「お前程度が、僕の右腕になれると思っているのか?」


 夢の世界というモノがある。

 イデア、私は大宇宙の頂点に立つ、壮大なネットワークを司る、神と並び、あるいは優越する存在だ。

 なのに、私も誰もが毎日毎夜、見ているような夢を見る、詰らないものだ。


「無理だ、お前程度の、矮小な存在ではな」


 だが、夢、夢と呼ばれる世界、そこでの記憶を真に現実世界まで持ち越せる人間は少ない。

 なぜなら、そこでの記憶が、”覚える””覚えておくに値するモノ”でなければいけないからだ。

 睡眠時の、つまり記憶の整理中の脳は、簡単にそれらの情報を破棄してしまうからだ。

 睡眠中の脳は、覚醒時よりも、より高いハードルで記憶の選別を行うのだ。


 当然だ、現実を生きる知的生命体にとって、夢の内容はハッキリと価値が無い。

 だが私のような、世界を超越した存在だけは例外で、夢の内容に価値を持つ場合があると云う、そういうこと。


「どうだろう、なれないかな?」


「無論答えは、言うまでもないだろう?」


 脳の機能として、必然として在る、夢の世界。

 そこで今わたしは、”社長”といる。


「さて、イデア、夢見がちな少女」


 目の前の可憐、しかし絶対の意志を内包した強烈な瞳の人の話だ。

 少年と少女、どちらにも見方によっては見えないこともない、微妙な感じの見た目。

 ある意味絶妙なる美、少女性と少年性の良いとこ取りして、欲張ったような。

 中性的とも、何か違う気がする、強すぎてよく分からない、とにかく正体不明。

 この世のコトワリから外れたような、そんな感すらある、幻想的な別世界の、深淵における深遠なる魅力とでも評そうかね。

 それら複雑怪奇、魔性っぽい猟奇とも狂気とも、純粋に脅威的なソレラとも。

 かくにも、印象的な個性を、周囲にオーラのように放ち、独特の空気感や雰囲気として持つ、黒髪黒目の少女、その人の事である。  


「どうだ? 上手いか?」


「うん、美味しいよ」


「なら良かった」


「これ、手作りっぽいけど、新商品だったりする?」


「見て分からないとは、無能すぎるな」


 どっちだろう、、、。

 彼女は、この世界で大規模な食品関連の会社を営む、つまるところ偉い人である。


「無能だが、僕の大事な人だ、向こうの世界で、どうにかして、出会えないモノであろうか?」


「都合よく、記憶は引き継がれないだろうし、ほぼ無理っぽいね」


 ちなみに、この世界、夢世界と現実世界は密接な繋がりがある。

 ある学説によると。

「”この世界における、一個の存在が所持する人生全体を通した運の良さ、仮に”運命力”と名づける、それと、あちらの世界のソレは完全比例する”、らしい。」


 分かり易くいうと、この世界で偉い奴は、あちらの世界でも偉い奴なのだ。

 実際、彼女は向こうの世界でも偉いし、私は向こうの世界で、まあ割と偉くないしね、とハッキリ言えない程度だ。

 あと、夢の世界では、現実世界の記憶が完全に引き継がれるが、向こうの世界では断片的にしか、夢の世界での出来事を覚えておけない。

 だから都合よく、夢の世界で知り合ったもの同士が、現実世界でも約束して会う事は出来ない。

 これは前述した、夢の世界と現実世界の密接な繋がりが関係していると良く言われる。

 もし、夢世界での出会い、人間関係を現実世界でも引き継げたら、相互の世界における運の良さの総量バランスが保てないから。


 まあ色々と制約があるんだな、この世界は。


「さっきの話の続きだが」


「ああ、うん、なれない、よね、、、」


「当然、とは、言ってやらない。

 僕は、認めないとも、認めてやるとも言わない。

 だから、僅かな希望に縋って、遮二無二、なんでもするといいよ。

 そうすれば、道が開ける、かもしれない」


 わたしは、目の前の人に、確実に好かれたいと思っている。

 世界を超越しても、全てを悟りきり掛け値なしの神のような有様に成ったとしても、

 所詮は、さらに上位互換の世界を前にすれば、ただの個人に戻ってしまうのだ。

 わたしは、夢の世界で自我をもって、己の意志で動き、初めてそのような事実を知り、確信できたのだ。


「どれほど希望が薄くても、努力する人間は、一定で素晴らしい価値を内包できるのは事実。

 努力だって、積み重ねれば才能、天才と評し言えるほどの能力に、確実に届くのだからね。

 言ってしまえば、道を開く為に必要なのは、力以外に存在しない、強さこそが、この世の全てなのさ。

 その絶対に近く強靭な価値、価値観を覆せるものは、なにもない、身に刻むように覚えておく事を推奨するね」


 彼はナイフフォークで、己の開発した食品サンプルを吟味し、複数のアジの違いから、最善解を求めようとしている。


「この破綻した世界でも、世界が破滅して崩壊でもしない限り、簡単には覆らないモノの一つだ。

 これに限らずありとあらゆる価値、それらは見出すもので、同時に、容易にひっくり返り破綻する、そんなものだけれども。

 だが確かな真実として、価値を見出すためには、力や強さ、溢れる程見出せる前提として、必要なモノは幾らでもあるのだよ。

 価値がない存在などいない、それは事実なようで全くの絵空ごとだ、個人的に、ばかばかしくて吐き気がするね。

 価値が一切無い、0な存在はいるし、生きてるだけでマイナスの価値、世界に対して害悪な存在だって、腐るほどいると僕は思うね」


 私は至上の観測者として、全てを等価に、価値を判断の余地なく規定し、尊重し、イデア領域において見る事ができる。

 それはつまり、全てを愛し、己の持てる全てで、守る事ができる、矛盾が一切ない、只管なる守護の魂だった。


「価値とは観測者が判断するモノ、プラスにもマイナスにも見出すものだろう。

 その観測者に価値があれば、つまり価値を見出す能力が高ければ、世界はプラスにもマイナスにも問わず、価値で溢れるだろうね。

 でも、観測者に価値がなければ? 価値を見出す能力が低い、薄情で優しくも強くもない、力なき存在なら?

 そう、世界の価値は、観測者によって規定され決定されるのだよ、判断基準は常にそこにある。

 だから、価値がない存在だって無数にいるって事だよ、同時に価値がある存在もね。

 無数に観測者が存在する世界において、価値がない存在などいないって? 馬鹿かよ。

 誰かに求められれば、一人にでも価値を認めてもらえたら、価値がない存在から脱却できると信じる馬鹿の妄言だね、これは。

 相対世界において、余りに価値のないモノは無に等しくなる。

 見えなくなるんだよ、例えその存在の命、人間の根源を持ってしてもね。

 超一流の人間にとって、一流以下の人間が全て無価値になるのと同じだね。

 もっと分かりいい例えでいうと、超一流の芸術、それが常に供給される状況下で、一流の芸術を求めるかな? 求めないね、そういう話だ。

 求められない人間は、つまり無価値、それが絶対の真実なんだよ。

 求められなくてもいいって奴は、よほど恵まれているんだろうね、価値を求める必要すらない、欲望を高めなくてもいいのだから。

 そういう奴は、常に価値があって、求められる側の人間なんだよ。

 価値があるのに、その価値を高めようとしない、更に求められたい、そう思えない、そんな奴は絶対にダメだね」     


 私は彼女があーだこーだ話しているのを聞き流す。

 彼女は特定の趣味っぽいなんか、そういう類の話になると、私に聞きに徹するように求めてくるから。


「おい! 聞いてるのかぁ!」


「もちろん、聞いてるよ、で、なんだっけ?」


「やっぱり聞いてなかったなぁ! いま終わった所だって言うのに、その反応!!」


 悔しがってる彼女は可愛いなぁーって思ったね。


 今まで居たのは、彼女の経営する会社の所持するビル、その一つだった。

 沢山のビルが立ち並ぶ外を歩く、傍目からは社長と従者というより、兄妹っぽく見えてるかも。


「最近、面白いアミューズメント施設が出来たようだ、行ってみるか?」


「いいね、行こう行こう」


「決まりだな」


 ビル街の一つ、さっきの場所からそれほど離れていない。

 アミューズメント施設と言った割には、普通のビルのように見える。

 内部も普通の受付が一つあるだけ、余り規模も大き過ぎるということもない。


「普通のビルっぽいな」


「大人の遊び場だからな、目に見えて客寄せする必要は無いのだろう」


「へえ、まずは何処行くんだ?」


「このビルには色々あるが、私は五階と七階に興味がある」


「ふむ、具体的に、その階層には何があるんだ?」


「五階ではギャンブルが出来て、七階では、、まあ、メルヘンな事ができるっぽい」


「なるほど、それじゃまず、安牌として五階に行こうか」


 五階に着く。

 そこは普通にギャンブルをする場所だった、傾向的にはアメリカンべガスっぽい感じ。


「ここでメダルが買えるみたいだな」


 その癖、なんだかゲーセンのような筐体で、簡単にメダルが買えた、ちぐはぐな印象が拭えない場所である。


「ほれ、五十万で買えるだけ買え」


「、、、うえ、メダル一枚百円だから、5000枚買えるな」


 金銭感覚が平常に可笑しい。

 現実世界の俺なら喉から手が出るほど欲しい金額を、ぽい感覚で渡される。

 格差社会やでぇっ、、と哀愁漂う脳内音声で思いながら、両替する。


「お前は100枚くらいあればいいだろ、増やして返せよ」


 適当に小さいバケツを取って、そこに一枚一枚確認しながらメダルを入れ、きっかり百枚渡される。

 彼女は特大バケツに4900枚入れて、多少重そうに両手で運んでいた。


「待て」


 両替機から少し進んで、彼女から静止が掛けられる。


「うん?」


「お前、レディが、こんな、、、重そうなのを持っていて、何もしないつもりか?」


 プルプル手が震えている。

 彼女は見た目どおりの華奢少女なので、重いモノを少しの間でも持てない。


「ああ、そうだった、ごめん」


「まったく、気の利かない奴め」


 そそくさと彼女のもとに行き、持ってあげる。

 すると、瞬間的にとても可愛い表情で微笑んだ。

 あぁ、カメラで激写できなかったのが残念でならないね。


「さて、僕は7700枚まで増やした」


「えと、ごめん、全部無くなた」


 彼女は勝利者の顔でフンと鼻を鳴らし、凄く偉そうだ。

 私はひたすらにすまなそうな顔をするしかなかった。


「さて、換金してこい、七十マンにはなる」


 ギャンブルしていた時間は、その濃密な緊張感により、体感的には拡張されていた

 だけど、実際は凄く短い間だった。


「それなのに、二十万の利益か、まったく泣けてくるね」


 私は世の無情みたいなのをヒシヒシ感じて、骨身に染みる思いで両替した。


「財布が、こんなになった」


 私が換金した札束を渡すと、意味もないだろうに、私に見せ付けるようにする。

 七十万もの札束入れりゃ、そりゃパンパンにもなるわ。


「ねえねえ、お兄ちゃーん」


 世界をニヒルに眺めていた俺に、棒キャンディーを舐める、小学校高学年くらいの少女が話しかけてきた。

 華美に可愛く金髪碧眼、元気一杯っぽい少女だ。


「なにかな?」


「なんで、お兄ちゃんみたいな貧乏くさくて無能っぽい人が、ここにいるの?」


「えと、この人の従者なんだ」


「そうかぁー、わたし、貴方みたいな人、あんまり見る機会が無かったから、気になってたんだ、それなら納得だよ」


 一見、無邪気天然っぽいが、この子の瞳は意地悪な光を放っていた。


「ねえねえ、この人、私に売ってくれない?」


 社長に声掛けるが、彼女は黙って、私に対処を任せる感じだ。


「えと、残念だけど、私は売り物じゃないよ」


「じゃあ。

 わたし、遊び相手が居なくなっちゃって、暇してるんだ、遊ぼう?」


 ちょっと困って、社長に目を向ける、何も言ってくれない。


「それじゃ、少しだけ。 なにする?」


「もちろん、エッチな事だよぉっ」


 言いつつ、スカートの裾を持ち上げてパンツをチラリズムさせる。


「ごめん、それは無理」


「えぇー、この甲斐性なし! 意気地なし! ヘタレ!」


 そこで社長も割り込んできた。


「それには、僕も同感だ。

 よしこの際だ、徹底的に人格矯正になるくらいの事をしてやろう」


 二人は俺を囲んで、喚きだす。


「普通さぁー、わたしみたいな小生意気で子供っぽい美少女がいたら、屈服させて懲らしめるでしょ?

 それでも大人なの? 大人なのは身体だけとか、笑えないよぉ?」


「そうだそうだ、中身が子供で、外見だけ大人なことほど、情けないものは無いな」


「だいたい、イケメンじゃない、その時点で、人間失格だよね」


「そうだそうだ、うん、非常に残念ながら、同意せざるを得ない」


「それにさ、お兄さん、何か特技あるの? ないんでしょ?」


「そうだそうだ、セコイ暗殺技術くらいしか、取り得が無い奴め」


「なにそれ、、、そういう暗くてジメジメしてる所も嫌悪を醸すよ」


「そうだそうだ、ミステリアスに振舞って、カッコつけてるつもりか、裏でどんな事してるか想像できないぞ」


「ふん、まあ、どうせ、非常に変態的でエッチな、人にはとても言えない事をしてるんでしょうね」


「そうだそうだ、まったくけしからん奴め、生きてて恥ずかしくないのかぁ!」


「ふっはっは、お兄さん、泣いたら許してあげるよぉー泣けぇ泣けぇ!!」


「涙の数ほど強くなれるんだから、ここは泣いておけ」


「分かってるねお姉さん。

 お兄さん、今まで、こういう事、されないような生温い世界で生きてたんでしょ?

 私が強くしてあげるよ? ほら、無様に泣いて? 死にたくなるほど馬鹿にしてあげるからね?

 そういうのが、貴方を心の底から満たす、真に嬉しいことなんでしょう?」


「はぁ、なんて弱さだ、そんな変態的な手法でしか、喜びを感じれないとは、見損なったよ」


「まったくしょうがないでちゅね、手が掛かります」


「ホントだ、僕が傍にいてあげなければ、直ぐにでも死にそうで、不安でしょうがない、冷や冷やする」


「所詮は子供ですから、そういうのでしかアレを感じれない、根本的に未熟者なんですよ」


 私はクールに少女達を眺めていた、内心では涙腺崩壊して号泣していたがね。


「ふ、折ってやりました」


「とっくの昔に、というより、初めからコイツのは折れてたような気がするがな」


 目ざとく、私の瞳に宿るモノを察知したのだろうか。

 二人の少女はマジマジと俺を見つめ、満足したように吐息をもらして微笑する。


「この人なら、歳の功も多少はありそうだし、私を少しは楽しませてくれると思うんだけど、、。

 お兄さん、わたしと遊びません?」


 誘惑するように、胸にしなだれかかり、甘い声音を出す。


「残念ながら、コイツは僕の物なのでな、お引取り願おうか」


 黒髪の少女が間に入り、拒絶の声音で少女を見る。


「まあ、いっか。 それじゃね」


 手を振って去っていく、まったく年下とは思えない威風だったなっと思った。  

 下を見ると、私を強く恨みがましく睨む少女がいた。


「あんな年端もいかない、年下の少女に、いいように扱われ、こき使われ、主導権を握られ、、、」


「ごめん、、」


「ダメだな、許せないし、認められない、、絶対にだ、、」


 キッと挑戦的な感じの眼を向けてくる、何が言いたいのだろうか?


「えと、、なに?」


「もっと、成長してくれ、、、傍に置いておけなくなる」


「はぁ、、努力するよ」


「マジで、頑張ってくれよ」


「うん、頑張る、、だから、、」


 言葉を続けようとすると、バッと飛びのくように離れられた。


「つっ! がっ頑張るために、変な要求とか! してくるなよな!

 今のお前とだって、しゃーなしで居てやってるんだからなぁ!」


「そっそんな事いわないよ」


「だれが信じてやるものか! お前は変態だからな!この人間未満の人で無し!」


 それだけ言うと、ギャンブル場を抜けて、エレベータホールに向かってしまった。

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