とある旅人
ロング注意報出てます。
私は旅人。
これでも世界中を旅して回っている。
世界には魔物がいて、そいつらをやっつけて過ごしている冒険者とも言えるのかな?
最近、魔族の魔王が復活したとか、それで、超バカ帝こ....ティファイン帝国が勇者召喚をやってしまったとか。
色々と怪しくなってきたな。
というわけで、私は早々にトラブルに巻き込まれないように、帝国を出たというわけだ。
帝国は恐ろしいところだった....。
酷い物価に困窮する国民。
ギルドも荒れてる。
しかも、1度入った者はかなりのお金を払わなくては国を出れない。
私が払ったのは80金貨だ。
もうスッカラカンのすっぽんぽんだ。
おっと、失礼。
すっぽんぽんではないな。
全く、勇者とやらは可哀想だ。
一応、お金もたくさん稼いであった私は魔法学院というものに入ってみた。
まあ、ひどいな。
低レベルだ。
君らは初級の魔法しか扱えないのかい?って聞きたいね。
是非とも。
私は今、帝国の隣の島国。
トアル王国へと行くことにした。
聞いたことのない国だ。
噂が全くないのが恐ろしいのだが、やはり冒険心は疼く。
はやる気持ちを抑えながらも、船に乗っているのさ。
ところで、うっぷ。誰か酔い止めはないのかい?
「兄ちゃん。緑色の羽付きハットに緑色のマント。もしかして、『緑の奏者』かい?あの戦闘を音楽のように美しく終わらせるという....」
なんか、いかつい男が私に話しかけてくる。
確かに『緑の奏者』は私だ。
気持ち悪いため、親指を立てて答える。
うっぷ。
「おお、まじか!俺は運が良いらしいな」
男は私の様子に気づかずに言った。
おお、どうにかしてくれ....。
「ほらよ」
ふと、男は手に飴玉を持っていた。
なんだ?
舐めろと?
この気持ち悪さで?
「この飴はな、これから行くトアル王国で売ってるものなんだ。なんでも船酔いに効くってよ」
そこで私の目がカッ開く。
なんだと!?
私は男を見る。
男は笑いながら飴を俺の手に握らせる。
おお....なんていう人だ。
目の前にいるのは神なのか?
おっと、早く飲まなきゃ。
私は飴を舐める。
不思議なことに本当に酔いがなくなった。
私は目の前にいる男の手を握る。
「ありがとう!」
男は笑いながら言った。
「気にするな。それより、この船はトアル王国だろ?
「何か知ってるのか?」
「トアル王国は化け物王国とも言われている。とよく船長が言ってたな。俺は行ったことねえ」
男はカラカラと笑った。
なんと....化け物王国!?
大丈夫なのか?
男は私の表情から察したのか笑って答えた。
「なあに、『緑の奏者』なら大丈夫だろ。おっ、もうすぐ着くな」
ピーという笛の音が聞こえる。
見ると、目の前には島があった。
「俺の名はディック。しがない船人よ」
男が名乗る。
ディックと言うのか。
「私はアルバー・サム・ウィルデン。『緑の奏者』です」
私も名乗る。
お互いに笑い、握手を交わす。
熱い友情が生まれた瞬間だった。
ここで1句。
向こうには化け物島
こっちには友情
どう考えてもこっちがいい
なんとかして残れないものか....
しまった。
俳句とかではなく、欲求になってしまった。
おっちょこちょいだな、私は。
おや?
そこの君、引いてないだろうね?
友達ディックとの握手を名残惜しくも終えた私は上陸の準備を始めた。
何が何でも生き残ろう。
帝国じゃあるまいし。
きっと、いい国が....。
化け物島なんかじゃない!
噂だ!
ちなみに私はこっち系ではない。
断じて。
しばらくして、地に足をつけた私は、血の涙を流しながらも船を見送った。
残念ながら降りる人は私以外いなかった。
悲しいかな。
桟橋から砂浜に出るとすぐに鬱蒼とした森に入る。
きちんと道はあるようで大丈夫そうだ。
途中で、チーターのような魔物に会う。
見たことないし、速い。
けれど、『緑の奏者』は伊達じゃない。
タクトのような杖を取り出し手に構える。
一応、レイピアでもあるそれは魔法も使える優れもの。
強化魔法『身体強化』。
魔法で体を強くし、やつが飛びかかってきたところを突く。
成功だ。
瞬殺した魔物をどうしようかと思うが、引きずることにした。
塀はもう見えていた。
人が立っているところへたどり着く。
外壁は大きかった。
どっかから巨人が出てきても大丈夫そうだ。
門は閉まっていた。
まあ、大きいもんだからな。
巨人が通るような門から目線をその横に向ける。
小さい少年が立っていた。
「あの....」
私は声をおずおずかける。
間違ってたら恥ずかしいからね。
「この国に入りたいのか?」
少年が上から目線で言ってくる。
ここで門番の機嫌を損ねてはならない。
これが旅の教訓だ。
そもそも、門番なのかもわからない。
少年がふと私の手を見つめる。
ああ、これか。
「森の途中で襲われてやっつけてしまったのですが、大丈夫でしたか?」
森の主だったらアウトだからね。
これほど強いと森の主でも間違いではないと、私は知識から確信する。
「ああ、雑魚ね。気にしないでいいよ。好きなだけ狩って。あんたこの国は初めてだよね?」
why!?
雑魚ですと....。
心の中で動揺しながらも言葉を発する。
「ええ。旅人です」
少年はそれを聞くと、大きい門のすぐ隣にある小さい扉から塀の中に入ると、紙を持ってきた。
「ここに名前と、出身国、年を言って。人間でいいんだよね?」
待て待て。
突然にそんなに聞かれても....。
と言いながらも、門番のゴキゲンを取るように私はスラスラと答えていく。
「人間です。名前はアルバー・サム・ウェルデン。出身国はナカタ王国。年は23です」
「了解。とりあえず、これ」
少年はポッケから丸い円盤のような物を出す。
私はそれをおずおずと受け取る。
『ピンポーン』
甲高い音が鳴り私は思わず背筋を伸ばす。
「嘘はなしっと」
待って。
今、嘘とか言った?
もし、さっき嘘を言ってたらどうなってたんだい?
「よし、この紙を持ってここを潜って。そうすれば塀の中だから。くれぐれも悪さはしないようにね。治外法権は認めてないんだから」
お、おお。
ちが....なんとかはよくわからないが、とにかく悪さをしたら罰せられるのだろうとわかった。
私は頷き、お辞儀をする。
「あと、念のためこれ」
指を差されたのは門の隣の木々。
「もし、俺に逆らってればこうなってた」
「!?」
ちょっと待てよ。
木々の中に何か見えないか?
私は少し屈んで目を凝らす。
そこにはたくさんの....
「墓石だぁ!?」
おっと、まずい。
恐る恐る少年を見ると少年は笑っていた。
「....なぜ笑っているんですか?」
「いや、別に。あんた面白いね。名乗ってあげる。俺はシュン・アボイルド。暗殺者だ」
「!?」
少年は再び私の反応を見て笑った。
「安心してよ。俺は門番。害のない旅人を殺すなんてしないよ。それから、アボイルドの名前は覚えときな。アボイルド家は代々暗殺業系をやってる。ちなみに、俺は15歳の化け物だ」
ば、化け物!?
シュンくんはまた笑う。
「ああ、やばい!あんた面白すぎ!まあ、あんたの考えている化け物と俺達の言う化け物は違うかもしれないけど」
化け物....変形するのか?
なんか強い主みたいに。
「ミシシッと....」
はっ、また声に出ていたか。
シュンくんを見ると彼は地べたで悶えていた。
なぜに....。
「もう、もう俺の腹筋がやばいからっ。入って、くくっ」
おう....。
何故か釈然としないまま小さな扉を潜った。
すると、後ろから大きな笑い声が。
むう....。
中に入ると別の人がいた。
金髪に青い瞳。
よくある人だ。
ちなみにシュンくんは黒髪に紫の瞳ね。
私?
私は茶髪に緑の瞳。
ちなみに髪はちょっと長いので一つに縛っている。
私は紙を渡す。
「えっと、アルバーさんでよろしいですか?ここからは本名でなくてよろしいのですが....」
シュンくんと違って彼は礼儀正しく言った。
本名じゃなくてもいいのか....。
「では、グリーンでお願いします」
「わかりました。グリーンですね。滞在目的はなんですか?」
「旅の途中での立ち寄りですかね....」
「わかりました。観光にしておきます。あとは....この国について説明させてください」
「わかりました。あと、これは?」
そう、忘れていたよ。
このチーター魔物を。
「ああ、雑魚猫ですか。こちらで買取りましょう。銀貨3枚ですね」
おお....雑魚、猫?
しかも銀貨3枚か。
どうやら本当に雑魚らしい。
あの森は脅威だと思いながら私は銀貨を頂く。
金髪くんは雑魚猫を雑魚のように、カウンターから扉に向かってほん投げた。
雑だなぁ。
どん!とドアにあたり雑魚猫は落ちる。
哀れ。
私に出会ってしまったばかりに。
「よし、説明ですね」
何事もなかったかのように金髪くんは言う。
「まず、私は今回の説明をさせていただきます、トアル王国の騎士、ラストニア・キープです。ラストで言いです」
「よろしくお願いします、ラストさん」
ラストさんはにこりと笑い説明を続ける。
「はい。この国は実力主義でございます。兵も扱っております。兵士1万、騎士千人です」
他国と比べて少ない兵力だ。
小国なら当たり前か。
「ちなみに、毎日トーナメントという試合が行われており、来年の兵士や騎士を選抜しております」
ほお、面白いシステムだ。
「旅人ということで、これらの試合を見ることができます」
それは面白いな。
「ですが、この国民ではないため、少し制限がございます」
ラストさんは少し悲しい顔をする。
素晴らしい表現力だ。
芸術に値する。
「この国は3つの区画に分かれておりますが、グリーンさんは第1区画にしか入ることができません。さらには、お城の中にも入れません」
ほほお、それは想定内だ。
お城の中もだ。
でも、国民が入れるなんて聞いたことがないな。
「あとは、学生にもなることができません。もし、外で獲物を狩るなどの時はここで魔物を買取りますのでここへ来てください」
ラストさんはそう言うと、扉を指した。
「長い説明を聞いて頂き有難うございます。出口はこちらですのでお進みください。面白い観光が出来るとよろしいですね」
私はラストさんにお辞儀をして部屋を出ていこうとする。
おっと、猫さん失敬。
私は雑魚猫を越えて部屋を出る。そこは再び部屋だった。さっきの部屋と同じような作りだ。今度は美しい女の人が待っていた。
「すみません、一応最終確認をさせていただきます。つきましては、ここで追い返される可能性もあることを知っていてください」
なんと....。
ここで追い返される可能性もあるのか。
女の人はショートの髪の片方を耳にかけている。
「では、最後に。あなたは種族に関してどう思っていますか?」
女の人の質問は正直わからなかった。
なぜ、いきなり種族?
「....なんですか?種族なんて別にどうでもいいのでは....」
瞬間、女の人は笑顔になる。
わあ、男の私としてはたまらない。
「ありがとうございます。あなたはこの国へ入れます。この国には多種多様の種族がいます。ですが、あんまり気にしないでいてくれると嬉しいです」
「わかりました」
この国はとても不思議だ。
多種族共存なんて考えはほかの国にはない。
私はそのまま、女の人に案内されてようやく、陽射しの元へ出た。
「おお....」
思わず声が出た。
女の人はお辞儀をして中へ戻っていった。
石レンガ作りの家々、よく舗装された道。
所々に生える木々は自然との調和だろうか?
おっと、いけない。
最初に宿探しだ!
宿は『ビス』という宿にした。
とても手頃な値段で朝昼晩飯つき、部屋も綺麗なところだ。
なんでも、魔術で部屋をロックするらしい。
防犯は完璧だ。
早速、私は荷物を置いてルンタッタ。
違う、探検だ。
宿の人の話だとここはまだ王都ではないという。
王都は、ほんの少し歩くと言われた。
門から北へ、宿から北へ向かうと王都の塀が見えた。
相変わらずでかいな。
今度の門は開いていた。
王都への門へと近づくとチラホラと人も増えてきた。
門へと着く。
門の所には兵らしき人達が警備をしている。
守りは大丈夫そうだ。
こういうところは帝国と大違いだ。
帝国なんか城門を閉ざして、来るなオーラが半端ないったらありゃしない!
....できれば案内が欲しいな。
ぼっちほど寂しいものはない。
まあ、最初からぼっちだけど。
「すみません」
だから、門番へ話しかける。
門番は敬礼をし、返事をする。
「何でしょうか?」
さっきの国の門を守るシュンくんとは大違いだ。
鉄装備に鉄の剣。
シュンくんは布の服....。
おっと、話がそれた。
「えっと、旅人なのですが、誰かこの国を案内して下さる人はいないのでしょうか?」
門番はニコリとして言った。
「それでしたら、王都へ入ってすぐ右手にガイド屋があります。そこへ行っていただければ、ガイドは雇えますよ」
ガイド屋!?
聞いたことないな。
そもそもガイドってなんだ?
「ガードマン?」
ん?また声に出てたか?
見ると、門番はニコリとした顔をさらに笑みを深めながら笑いに耐えているように見える。
「も、申し訳ありません。ガードマンではなく、案内人です、くくく」
前言撤回。
笑ってますね。
私は恥ずかしながらもなんとかは取り繕って答える。
「そうでしたか、ありがとうございます」
さあ、さっさと去ろう。
門をくぐり抜けると、大きな笑い声が聞こえた。
....このやりとり多くない?
とりあえず、右手を見る。
右手には大きな看板に『ガイド屋』と書かれている周囲の建物よりも大きめな建物があった。
ここだな。
私は堂々と店に入った。
「いらっしゃいませー!」
店内には店員がにこにこ顔で佇んでいた。
早速聞こう。
「案内人を雇えますか?」
「はい。今、いるのはノンという男性ですが、よろしいですか?」
「よろしくお願いします。いくらですか?」
「銅貨5枚です」
安っ!!
破格の価格に私は驚いてしまった。
帝国に見せつけたい。
私がお金を渡すと店員は店の中へと消えていった。
「ノンさん、ノンさん!仕事です」
「おお、仕事か。めんどくさいなあ....」
「そんな事言わずにやってください!お客さん待ってますよ!?」
そんなやりとりが耳へと入る。
....大丈夫かな。
しばらくすると、店員さんとノンさんらしき人が出てきた。
ノンさんらしき人はロングの青い髪を無造作に垂らし、黒い瞳をめんどくさそうに歪めている。
腰の剣はいかにも適当。
....どうしよう。心配になってきた。
「どうも、本日は我が店をお使いいただきありがとうござーまーす」
綺麗な棒読みだ。
無駄に。
「えっと、よろしくお願いします」
私は不安ながらも挨拶をする。
「じゃ、早速....」
「ノンさん!騎士にだけはイチャモンつけないでよ!」
ワオ、ますます不安が....。
「わかってるって....。かかあじゃねんだから」
ノンさんは耳をほじりながら答える。
うん。
今からでも解約しようか....。
「んじゃま、行きましょうか。お客さん」
私の心の声が聞こえたのかノンさんはにやりとしながら言った。
「は、はい」
人生終わったな....。
ノンさんは案外丁寧に国を紹介してくれた。
「ここが、試合通りな。ほら、試合場が十個見えるだろ?ここで、兵士を決める大会が常に行われている。審判を務める騎士は溜まったもんじゃねーよな」
たまに、ノンさんは騎士なのではという発言が聞こえるけど。
「試合通りを抜けると、大商店街に出る。まあ、お土産なんかに店によるといい。今はそのまま行くぞ」
凄い美味しそうな匂い。
人が溢れているような状態。
どうやら、潤っているようだ。
「はぐれるなよ。ここを抜けると、騎士の試合場が3つ。建物の材質なんかは城と同じものを使っているな。中は引くほど豪華だ。後で見てくれ」
騎士の試合場は驚くほど綺麗だった。
私が詩人だったら歌に残しているだろう!
「それから、その次は城前広場だな。ど真ん中に大きな噴水があって、偉い来賓さんが偉いお金を出して泊まる宿が右だ。左には不思議な花屋がある」
確かに、右の建物は豪華だ。
材質なんかは帝国の城と一緒じゃないか?
花屋は....後で行ってみよう。
「目の前のが城だ。高さはそうだな、300メートルは軽く超えてるんじゃないのか?」
300メートル!?
私は思わず、上を見上げる。
なんということだ。雲で天辺が見えない!
「ぐぬぬ、雲め....」
....また声に出てしまった。
ノンさんはそれを軽く無視して城を見つめている。
その目は若干影が差している。
ふと、私の目線に気づいたのかノンさんは私の方を向いた。
「よし、次は塀を見るぞ」
さっきの顔では考えられない明るさでノンさんは笑った。
「ここを抜けると第2街だ。残念ながらあんたは無理だかな」
なるほど。
きっと、国民でないと知られてはまずいところなのかな?
「とりあえず、こんなもんだ。あんた、なんか他にあるか?」
「あんたでなく、グリーンと呼んでください。ノンさん」
「....あんたどこで俺の名前を....」
「店で店員さんが叫んでいるのを聞きました」
「ああ....」
思い至ったのかノンさんは頭に手をやり上に目線を向けた。
「まあ、特にないなら俺の試合でも見てくか?」
「はい?」
ノンさんは急に私の方を向いた。
「しばらくサボっていたが、出ようと思う。まあ、兵士からだがな。今ならまだ間に合う」
「ノンさん、兵士だったの!?」
「はっ、まあな」
ここでドヤ顔。
ノンさん素敵!
っていうことにはならない。
俺はしばらくこの街にいようと思う。
ノンさんにシュンくんとか、たくさんのいい人たちがいた。
帝国とは全く違ういい国だ。
ただ、化け物国とか、シュンくんが化け物だとかはよくわからないけど。
「化け物ってどういうことだろう....」
「化け物?ああシュンか....」
「知ってるのか?」
「同僚だったからな」
「同僚!?」
「ま、あんまり知らなくて大丈夫だ。ちなみに、俺も化け物な」
ふぁ?
私が間抜けな顔をするとノンさんが笑う。
「グリーン。さっさと行くぞ」
「え、あ、はい!」
どうやら、この不思議な国に私はすっかり魅入られたようだ。
『緑の奏者』も形無しだね。