とある兵士
俺はトアル王国のとある兵士。
この国はとってもいい所だ。
なんたって、市民平等。
他国と違って貴族なんかいない。
国王?
まあ、一応いるさ。
だが、国王という役職に就いている平民だ。
王は本当にイイヤツだ。
なんたって、他国でよく聞く悪政というものをやったことがない。
さらには、この国で一番強い。
それはもう俺にとっては自慢だね。
俺?俺はしがない一兵士さ。
いつも、守る場所は王都前。
よくたくさんの他国の人がこの国にやってくる。
だからいろいろ質問されたりすると答えるのも仕事だ。
きちんと、危ないやつがいないかも見てるがな。
まあ、この国は本当にいい国だ。
大事なことだから二度言ったぞ。
お、そろそろアイルと交代か?
「おーい、交代だ」
「了解。よし、休憩だ!」
俺が楽しそうにそう言うと、アイルはぽかんとした顔でこちらを見た。
「お前、今日は試合だろ?」
「....げっ」
そうだ。忘れていた。
今日は試合だ。
俺がブルーな気持ちになっているとアイルが笑いながら背中を叩いてきた。
「おい、がんばれよ!負けたら、剥奪かもよ」
「いたっ!まあ、なんとかやるさ」
俺はガッツポーズをして、立て掛けてあった剣を手に取る。
よし、勝つぞ。
そう決心しながら王都前の門をくぐる。
そうだ。
そういえば、説明してなかったな。
この国には兵役があるわけではない。
兵は応募制となっている。
しかし、兵はやはり給料がいいので、供給過多になるほどの応募者が殺到する。
そのため、兵の人数は決まっている。
一万人だ。
まあ、この国は人口はまあまあなので、二十万人くらいだという話だ。
そして、約半数は常に兵士という座を狙っている。おおよそ十万。
その中で一万人ということは十人に一人しか受からない。
狭き門だ。
そんなこんなで俺は勝ち組ということだ。
しかし、兵になったからと言って勝ち組でも何でもないとも言えるのは確かだ。
この国の兵士は階級がある。
騎士と兵士だ。
もちろん、騎士の方が地位が上だ。
給料もいい。
さらには、兵と違って騎士は動き回れる仕事に就けるということも大きい。
悪いが、さっきの一万人は兵士の人数だ。
騎士はその十分の一。
千人だ。
つまり、この国の実質軍隊は一万千人。
俺はその中の1人だ。
まさに、とある兵士。
嘘嘘!俺はレオン・グライアットという名があるんだ。
歳は十五歳。
....話がそれた。
そう、兵士と騎士は誰もが狙う憧れの職業だ。
だから、なのか?
年に一度、開かれる試合というものがある。
この試合は、国民であるなら、全員に出る許可がある。
もちろんベビーにもだ。
まあ、本人の意思と同意がないと出れないのだが。
そして、その中で勝った一万人が兵士となれる。
俺は今、二年兵士をやっている。
まあ、トーナメント制なんだが、だいたい、兵士の中では下っ端なのだろう。
一つだけ言う。
最下位じゃないぞ?
ちなみに、俺と交代したアイルは俺より上だ。
うん。
歳も上だからしょうがない。
うん。
まあ、そんなこんなで、兵士は日々訓練をして努力を怠ってはいけない。
そういう教訓が込められているような気もしなくはない。
兵士はとても忙しいが充実した毎日だ。
朝から昼まで王都の前で衛兵を。
午後からは用事がなければ、城の隣にある訓練所で剣を磨く。
暇があれば魔法も磨く。
まあ、兵士は試合で魔法を使ってはいけないし、剣は木剣だ。
騎士は手加減が出来るので、真剣だし、魔法も許可されているが。
俺はいつか騎士になりたいので魔法を磨いている。
まあ、騎士は狭き門だよ。
1度、騎士のトーナメントに参加したが、敗退だよ。
1回戦で。
しょうがないよな。
兵士の殆どが参加してるもんな。
弱者の俺は無理だわな。
さらには、勝ち残った二千五百人には筆記テストが待ち構えている。
騎士は学力も必要なのだ。
騎士はまじで憧れる。
ふと、俺の横を颯爽と通り過ぎる騎士を見る。
俺達兵士と違って軽やかな服装。
騎士は強いから、防具なんて必要ないって話だ。
全く、早く騎士になりたい。
おっと、見えてきたぞ。
王都の大通りをまっすぐ進むと、目の前には大きなコロシアムのような建物が十軒ほど並んでいる。
相変わらず何度見ても壮観だ。
どう並んでいるかって?
大通りを横断するように並んでいるんだ。
横に!
まあ、全部、木と石でできたものだけど。
ここが、試合通り。
試合をするところだからという意味がそのまま名前になっただけ。
俺達兵士はここで試合をする。
兵士は、だ。
騎士はもっと奥に綺麗な建物があり、そこでする。
俺は去年初めて入った。
まさに神殿。
建物すべてが大理石に覆われ、柱の彫刻は芸術品。
選手入場のドアは純金で作られていて、色んな色の宝石が散りばめられていた。
そこで試合ということで緊張してドアの前に立っていたが、ドアの綺麗さと高級さに驚いて緊張が飛んでしまったよ。
あれには驚いた。
しかもドアは本物の金をそのまま使ったみたいだな。
金箔でないのは確かだ。閑話休題。
とにかく、俺は第2試合場で試合を行う。
相手は、獣人のマリア・スケルツォ。
まあ、お安い御用さ。獣人は強いと言っても、素早いだけだ。
どれだけ攻撃を見切れ、体力があっても頭は悪い。
だから、獣人には負けたことがないんだ。
フラグではないよ?
マリアは女だ。
この国は男女差別がない。
まあ、国王が女なくらいだからな。
他の国は結構うるさいらしいぞ。
この国は強さがすべてとも言えるからな。
よし、第2試合場到着だ。
ちなみに1番遠い試合場は第1試合場。
大通りに近いのは第5試合場と第6試合場だ。
「あら、レオン・グライアットさんですね。対戦者は既に来ているので、あちらの扉からお入りください。すみませんが、荷物をあずけてもらってもよろしいでしょうか?剣はこちらをお使い下さい」
受付嬢が、そつなく仕事をこなす。
もう慣れたが美人だよな。
だいたいどこの試合場も美人だ。
服装はウサミミカチューシャに青いブレザー、青いタイトスカート。
タイツに黒いピンヒール。
うーむ。
芸術だ。
この服装を法律に定めた王よ。
感謝だ。
俺はそんなことを考えながら、荷物をすべて預けて、剣も渡し、木の剣を貰った。
そして、お辞儀を一つして、観客とは違う、粗末な木のドアを開けて入る。
中は待機室だ。
無論、物はない。
強いて言うならば、木の椅子が1つ。
どうやって作ったのか接合部分が全くない椅子だ。
釘とか抜かれたら大変だもんな。
しばらく、椅子に座っているとアナウンスが流れる。
これは音魔法『声量アップ』だ。
『皆様、本日はお越しいただきありがとうございます。本日もお日柄がよく、絶好の試合日和となっております』
まあ、雨が降った日は試合場の屋根を閉めるんだがな。
ちなみに、このアナウンスは試合の度に流される。
今日は三回目のアナウンスだ。
突っ込みたいけど、我慢だな。
『さて、本日の試合は、現職業、狩人のマリア・スケルツォさんと現職業、兵士のレオン・グライアットさんで行われます。審判は騎士階級3級のハルトシオ・バルカンさんが行います』
狩人は森で狩りをする職業だ。
主に獣人に多い。
まあ、自然と共存できる獣人にはぴったりの職業だ。
審判は常に騎士がやっている。
どういう規則でどの騎士がやるのかはわからないが、毎回、同じ人だったり違ったりとしている。
3級は騎士の階級。
10級が下っ端、1級が神だ。
神と言っても本物の神じゃなくて、手が届かないの意味だ。
1級の上に存在するのが騎士団長と副騎士団長、宰相、国王だ。
まあ、俺の手に負えない。
将来国王になりたいやつは、彼らを全員倒して国王になるんだな。
ちなみに、宰相はしょっちゅう国王に試合を挑むが手足も出ないらしい。
国王....化物すぎだろ。
ちなみに、この国で上の輩の悪口はOKだ。
どこかの悪国は不敬罪とかいうものを法に入れてるらしいな。
3級はまあ、上の方だ。
騎士にはなったことないのでよくわからないが。
この国は他国には化け物王国と言われていると聞いている。
無理もない。
そりゃあ、国王から騎士のどこら辺かまで不老不死だからな。
年を取らないことが化物らしい。
この国では普通だ。
まあ、俺はなりたくないがね。
『では、選手の方に入場してもらいましょう』
おっと、つい話しすぎた。
気がつけば、アナウンスが終わり、扉が開いていく。
俺はその中、緊張を解くように伸びをした。
直前緊張というやつだ。
陽が差し込み思わず目を細める。
大きな歓声が俺達を歓迎する。
大方、騎士の方へだがな。騎士に目をやる。
騎士は黄色いロン毛をたなびかせ、水色のマントを来ている。
試合場の服装の決まりだ。
騎士は手を挙げ、大きな声を出す。
と言っても音魔法『声量アップ』だけどな。
「赤コーナー、マリア・スケルツォ!」
大きな歓声がマリアを歓迎する。
マリアは熊系の獣人だ。
白い髪に褐色の肌が映えている。
白い動きやすい、Tシャツに、ショートパンツ。
靴は黒いブーツ。
まあ、俺が観衆だったら叫びたくなるな。
美少女だ。
歳は十三ぐらいか?
マリアはぎこちない動作ながらもおじきをする。
さらに、騎士は手を挙げ叫ぶ。
「青コーナー、レオン・グライアット!」
再び大歓声。
俺は慣れたように歩き出す。
服装は青い服に黒い七分丈ズボン。
え?
ショートパンツはって?
男が履いて何のサービスになるんだい。
ちなみに、赤コーナーで青コーナーは意味無い。
そういう規則だ。
国王....いるのか?それ。
俺はお辞儀をしながらも国王に突っ込む。
俺がお辞儀し終わったのを見ると、騎士はまた手を挙げる。
真剣な所悪いんだが、どう見ても、学校で先生にわかる人?って言われた時に挙げる挙手にしか見えないんだよな。
「構え!!」
あたりが静まる。
俺は剣を構える。
マリアも息を吐いて剣を構えている。
土にぽたりと落ちる汗。
周囲の熱気に包まれた石レンガ。
その上の観客席に座る人々。
誰もが構える。
そして、開始の合図を誰よりも高いところから言う騎士。
「はじめ!!」
先にマリアが動き出す。
マリアは剣を素早く俺に向けてくる。
俺はそれを確認し避ける。
紙一重の避け。
先手必勝を狙っていたのかマリアはそのまま前にバランスを崩す。
チャンス!
俺は剣を素早くマリアにうちつけようとする。
マリアはそのまま地面に突っぶすようにして剣を地面に刺し、その剣を中心に弧を描くように回った。
そして、その勢いで、剣を抜き、俺に迫る。
俺はそれを剣で流す。
「ちっ、さすが兵士!トーナメントで勝ち残るわけだね」
マリアは楽しそうに言った。
俺はそれを横目で見つつもバク転からの宙返り。
避けたように見せての攻撃だ。
「きゃっ!」
マリアは俺が引いて、責め時だと思ったのか、まんまと俺の策にはまる。
俺の剣は綺麗にマリアに当たった。
まあ、木の剣だが。
「勝負あり!勝者青コーナー、レオン・グライアット!」
観客からの喜びの声と拍手が聞こえる。
そしてたくさんの花が落ちてくる。
これは賭けに勝った観客が投げる花だ。
観客は入場料を払うと同時に賭けをする権利が与えられる。
まあ、賭けは賭けても賭けなくてもいい。
賭けられるのは入場料。
だから、破産はないさ。
とりあえず、入場料を払い、どちらに賭けるか決める。
そして、花を貰う。
もし、賭けに勝ったら花を投げ、受付からお金を貰う。
負ければ受付に返して帰る。
それだけだ。
俺はそれを拾い集め、マリアに一礼する。
これが礼儀だ。
マリアは木の剣でついた頬のかすり傷を撫でながらお辞儀をした。
少しでも早く悪いことをしてしまったな。
これだから兵士止まりなんだよな。
頭を掻きながら扉を潜り、受付へと行く。
受付は二つある。
会計受付と選手受付だ。
会計受付はすごく混んでいる。
まあ、観客は八千人くらいいるからな。
その中には俺の追っかけもいるらしい。
恐ろしい話だ。
俺は選手受付へと行く。
「レオン・グライアットさんですね?おめでとうございます!今回の報酬は銀貨8枚でございます。荷物をお返しします。次回は3日後です。それでは、ご武運をお祈りしています」
受付嬢はそう言い、次の選手へと話しかける。
銀貨8枚は結構お得だな。
俺はそう思いながら、銀貨をしまう。
この国の貨幣は銅貨、銀貨、金貨、金塊となっている。
ちなみに、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、金貨100枚で金塊1つとなっている。
普通の生活費は1人あたり銀貨1枚。
つまり、この銀貨8枚で8日分の生活が出来る。
俺は、弟がいるから4日分だが。
ちなみに、兵士の給料は金貨10枚だ。
....人によって違うらしい。
俺はトーナメント下位層だからな。
そして、人ごみをかき分け、家へと戻る。
この国には、第1街と第2街、第3街がある。
この国は島国で丸い島に建っている。
そして、そこに丸く覆われ、3つに分割して街は成り立っている。
俺が仕事をしていた王都の門は2層目の塀のところにある。
2層目は城へと続く王都を守る塀だ。
第1街は塀が2重なんだ。
俺は第1街に住んでいる。
この国の門は1つ。
そして唯一の出入口にあるのが第1街だ。
この国の中ではもっとも繁栄しているところだ。
そして、城も円形で、第1街、第2街、第3街の3つの分け目の真ん中にある。
城からはどこの街へも行くことが出来る。
第1街には試合場や訓練所、大きな店、ホテル、観光などにも向いている街となっている。
そして、街の少し端に住宅通りがある。
ちなみに、住宅通りには必ず兵所がある。
第2街は主に、木の建物が多い、失礼だけど、田舎というような....。
主に作物は第2街で作られている。
木の建物にも白塗の家があったり、道場や剣道所がある。
そして、唯一のレンガ造りの建物が、剣聖大学。
今まで多くの兵士や騎士を育成し、今でも名門は衰えない。
そんな大学がある。
第3街は魔術都市だ。
何から何まで魔術尽くし。
魔法組合なんかも第3街だ。
聞いた噂だと、怪しい実験もしてるとか。
そこは石レンガや赤レンガの建物が溢れていて、夜も明るいとか聞いた。
俺は行ったことない。
そしてもっとも異質な建物が、魔法大学。
そのまんま。
魔法を使う人を育成する大学だ。
結構騎士や兵士も出ている。
特に、騎士になって才能が開花する人が多いらしい。
そりゃあそうだろうね。
だって、魔術が専門だろ?
そして、異質な建物は常にどこかで魔法陣が光り、建物は常に色を変える石、魔石を使っているらしい。
まあ、異質だ。
そして、城の中には俺が卒業した大学。
王都大学がある。
城の二階にそれはあって、城の学生図書館なんかも結構面白かった。
そして、騎士や兵士で卒業生がいっぱいだ。
もちろん倍率は高い。
俺は歩きながら、児童学校を見る。
この児童学校は城から800mごとに作られていて、すべての子供に入る義務がある。
俺も入ったぞ。
そして、弟も今入っている。
懐かしみながら通り過ぎると自宅だ。
ちなみに、2件先には兵所。
悪いことは出来ないぜ?
家は二階建て。
よくある普通の家。
今日はもう疲れたので、寝ようと思う。
「あれ、レオン。おかえり。どうだった?」
弟が俺を迎える。気づけば夜だ。
「勝ったよ」
「さすがレオン!」
弟は嬉しそうに言った。
俺は頬を緩ませながらも家に入る。
明日からまた頑張ろう。