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chapter.6 夜、宿屋にて



 案外スムーズに大会へのエントリーが終わり、ミナは宿に戻ってきていた。組み合わせなどは明日当日に発表されるらしく、それまでは特にやることもない。


「そういえば……」


 宿屋の一室から夜空を眺めながら、ミナはぽつりと言葉をもらした。


「あの人、明日くるのかな」


 あの人、とは今日あったあのお人好し青年のことだ。

 名前はヴィクトル・ノルディーンだったか。少しの間だけしか一緒にいなかったが、妙に気になってしまう。理由はわからないが、人の優しさに触れたからかもしれない。


『なんやなんや、まさかたったのあれだけで惚れたとか言わんやろな? いくらミナがウブやからって、そりゃないで』

「ち、ちが……っ! 私はただ、気になっただけで……っ」

『それが恋心じゃなくてなんなんや? 男のことが気になるちゅうことは、それすなわち恋ゴフベア!?』


 気づけば、ミナは問答無用でルクシオンを殴っていた。

 恋だ恋だと、人の気も知らないで言われては困る。

 第一、ミナは元男である。前世の世界で男として生きてきた記憶と経験が全て残っているのだ。だから、さすがに男性に惚れるなんてことはありえない。


『よ、容赦ないなホンマ……』

「今度変なこと言ったらさっきの3倍で殴る」

『ひえ……。さっきのまだマジじゃなかったんか……』


 戦慄するルクシオンは置いておいて、ミナは再び窓越しから夜空を見上げた。

 この世界に生まれ落ちて、たくさんのものを失った。

 家族、友人、故郷。全て、大陸最大の国家であるケヴィオン帝国にだ。

 だから、ミナは決めたのだ。

 ケヴィオン帝国を倒す。いや、帝国の成り立ちを潰す。その中心にいる人物に報復をする。村を破壊した実行犯の4人は、何があっても殺す。それがミナの生きる意味なのだ。


「強すぎる力はいずれ身を滅ぼす、か」

『なんや。それ』

「私が皇帝陛下に言われた言葉」

『ああ、なるほどな。魔剣の適合者として育成したはいいが、あまりにも凶悪な力だったんで破棄した……んやったな。ホンマ、身勝手な話やで』

「向こうは私を殺したと思ってる。でも、私は死んでない」

『それだけはホンマによかったわ。せっかく封印も解けたっちゅうのに、主人が死んでまたお蔵入りは勘弁やからな』

「私も、あの地下室はもう嫌だ」


 思い出すだけで怖気が走る。

 だが、そのおかげでミナは力を手に入れた。皇帝陛下曰く、ミナの中に宿る力は、単騎で国を滅ぼしかねないものらしい。

 だがしかし、ミナはその特殊な力を使う気はない。その力は反則技チートだし、敵の手によって開花させられた力などミナには必要ない。それになにより、禁忌の力は代償を伴う。リスクが大きすぎるのだ。


『まあ、あのクソ陛下もただのビビりやったちゅうわけや。ミナの力を制御できひんおもたんやろな。いつ飼い主に噛みつくかわからん駄犬は早々に殺処分……。臆病者チキン以外の何者でもないわ』

「でも、賢い選択だったと思う。私の憎しみまでは、彼らは抑えつけられなかったから」

『ま、せやな。その点に関しては、ミナの精神力の賜物や』


 当然、帝国の研究機関では洗脳の実験もなされた。

 だが、ミナの精神力のおかげで、完全な洗脳は防ぐことができた。もしミナの中の憎しみが弱かったら、きっと帝国の手に落ちていたことだろう。そうなっていれば、今頃帝国はもっと凶悪な力を手に入れていたことになる。大陸全土を戦場に変えかねない、最悪の力を。


『復讐を果たして、少しでもミナが報われればワイも嬉しい』

「なにそれ? なんか、ルクシオンらしくないセリフだね」

『うるさいわい。あさんは知らんやろうけどな。ワイはミナが寝てる時に泣いとる姿を何度も見とんのや。さすがのワイも、心が痛いんやで』

「珍しいこと言うんだね。でも、私泣いてたんだ……」


 確かに、悪夢を見ることはよくある。昨夜だって、悪夢を見たばかりだ。

 でも、泣いていたとはミナ自身知らなかった。


『ああ。なんだかんだもうミナとは長い付き合いや。それに、ワイの使い手なんやからな。そら幸せでいてもろた方がええに決まっとる』 

「る、ルクシオン……?」


 いつものルクシオンらしくない言葉に、ミナは戸惑いを覚えた。

 さすがに、復讐の時が近いと感じているのか。あのルクシオンも、感情的になっているのかもしれない。


『いつかミナにも、守るべき相手が出来るとええな』

「私は、別に……。ルクシオンがいてくれれば、それでいいよ」

『――……そか』


 相棒は小さく呟くように言った。

 そして、ミナが聞こえないくらいの念で、ルクシオンはこう呟く。



『――でもな、ワイは所詮剣や。こんなナリじゃ、お前を抱きしめることはできひんのやで』



 その日の夜は、悪夢を見ることなく、心地いい気分でミナは眠ることが出来た。

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