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chapter.5 黄金の獅子



「――ん? ここは子供の来るところじゃないぞ」


 ミナが騎士がいる場所へ近づくと、1人の騎士がこちらに反応した。


『かかったな。ええかミナ。手筈通りにやるんやで』

(……わ、わかってる)


 覚悟を決め、ミナは心の中で深呼吸した。

 今から行う作戦に、正直ミナは乗り気ではなかった。だが、これも情報のためだ。割り切るしかない。


「ここには気性の荒いやつばかりいるからな。お嬢ちゃんは帰った方がいいぞ」

「――え、えっとね、わたし、騎士様に憧れてて、それでお話がしたかったんだ。ダメ、かなぁ?」


 甘ったるい声音で、ミナは騎士に声をかけた。

 これは当然、ルクシオンの作戦である。子供を演じて、騎士の警戒を解く。簡単そうだが、ミナにとっては相当厳しいものがある。見た目は子供だが、中身は色々と大人だからだ。

 ちなみに、ある程度の言葉の内容はルクシオンがその度脳裏に語りかける手筈になっている。ミナだけではどうやって騎士をたらせばいいか判らないので、フォローしてもらわなければどうしようもないのだ。


「ううむ? そ、そうか。そう言われると無下にはできんな。だが、少しだけだぞ?」

「うん! ありがとう、騎士のお兄さん!」


 作り笑顔で、ミナは騎士を垂らし込む。

 どうやら、今話している騎士はミナのことをチラチラ見ていたらしく、ルクシオンの見立てでは子供好きなのではないかということだったのだ。


『よし。ええ感じや。やっぱこの騎士は子供好きやったな。ロリ体型のミナは見た目が幼いからな。だからこそこの騎士の気を惹けたっちゅうわけや』

(なんだか複雑なんだけど……)

『気にしたらあかん。使えるものは使うんや』

(……わかってるよそれは)

『なら演じきるんや!』

(……仕方ない、か)


 内心、ミナは取り繕う自分が気持ち悪かった。そもそも、こんなキャラじゃない。情報を得るための手段じゃなければ、絶対にこんな甘えた声は出さない。


「それで、何を聞きたいんだ?」

「えっとね、騎士様ってここで何をしているの?」

「護衛だな。偉い人を守っているんだぞ」

「へえ~! でも、偉い人って誰なの?」

「それは簡単に教えられないな」

「そんなに偉い人なんだ! でも、誰なのか気になるなぁ」


 言いつつ、脳裏に響くルクシオンの指示で、ミナは騎士に上目づかいした。慣れていないので、多少ぎこちなくなってしまったが、効果はテキメンのようで、相手の騎士はコホンと小さく咳払いし視線を逸らしてきた。


「こほん。じゃあヒントをあげよう。私が護衛しているのは帝国で黄金の獅子と呼ばれているお方だ」

「黄金の獅子? なんだろう、それ……」


 言いつつも、ミナにはそれが誰なのか知っていた。

 黄金の獅子の名で呼ばれている男は、四元帥であるリシャールしかいない。そこらへんにいる子供は知らないかもしれないが、ミナにはわかる。


「帰ってお父さんにでもきいてみることだ」


 言って、騎士はミナの頭をターバン越しに撫でてきた。

 鳥肌が立ち、一瞬殺気立ってしまったがどうやら勘付かれてはいないようだ。

 これがターバン越しではなく直だったら、ミナは刀を抜いていたかもしれない。


『お、落ちつくんやミナ。冷静に、冷静にやな……』

(……わかってるから)


 不機嫌にルクシオンに応えながらも、ミナは作り笑顔を絶やしてはいなかった。これも復讐のためだ。今は我慢する他ない。


「うん、わかった! ありがとう、騎士のお兄さん!」


 最後に元気よく手を振って、ミナは騎士から離れた。

 足早に闘技場の休憩室らしき所まで行き、ミナはイスに腰掛けた。


『最後はちょい危なかったが中々よかったで』

(私は最悪だったけど)

『ええやん? そのキャラの方が萌える思うで? 男からも好かれるんちゃうか?』

(……しらないよ)


 ツンとそっぽを向き、ミナは反攻の意思を取った。

 作戦だったとはいえ、ああいう媚た態度は気に食わない。もう絶対しないとミナは心に誓った。


『せやけど1つ情報は手に入れられたやないか』

(黄金の獅子……。やっぱりリシャールが来てるみたい)

『ああ。問題はどうやって近づくか、やな。ミナとワイやったら騎士程度どうってことないやろうけど、騒ぎになると面倒やしなぁ。何かいい策はないもんか』

(明日、リシャールがここに来ることはわかった。やるにしても、明日しかない)


 期限は短い。四元帥というケヴィオン帝国屈指の重鎮。ずっとその場に居続けられるほど暇ではないはずだ。闘技大会が終わればすぐにでもメロウシティを発つだろう。その前にケリをつけなければ。


『そうや、参加者として紛れ込んでみたらどうや?』

(私が? 闘技大会に?)

『せやせや。んで、パパっと優勝して、主催者に頼んでリシャールに会わせてもらうんや。あいつかてお忍びで闘技大会見にきとんのやから、優勝者が会いたい言うたら無下にはせんやろ』

(それはそうかもだけど。でも、お忍びならどうして私がリシャールが来ていることを知っているのかってことにならない? 疑われそうな気もするけど)

『そんなん、疑われた時に考えたらええ』

(ええー……)


 適当な相棒に脱力するミナ。


『まずは行動あるのみや。ほな、いこか』

(行くって、どこへ)

『決まっとる。大会の受付や』

(……強引だね、ルクシオンは)


 嘆息しながらも、ミナは口元に微笑みを携えていた。

 こうして時には行く道を切り開いてくれる相棒。今ではもう、ルクシオンはミナになくてはならない存在になってしまった。当然、これから先も一緒だ。

 それから、ミナは闘技場の受付へと向かうのだった。


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