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chapter.4 遭遇




 ミナの予想通り、ヴィクトルは冒険者らしかった。歳は23らしいが、それにしては顔が幼い。18くらいに見える。まあ、どうでもいいことだが。

 想像通り、ヴィクトルは今時珍しい良い人だった。こんな見ず知らずのミナを案内してくれるだけでも相当だが、受け答えが一々優しいのだ。顔もかなりのイケメンで、きっと女性にもてるのだろうなとミナは思った。

 しばらくヴィクトルと話しながら街中を歩き、気づけば中央通りにまでやってきていた。久しぶりに人とたくさんお喋りして、ミナは少しだけ疲れてしまった。

 ミナは人と話すのがどちらかというと苦手なのだが、ヴィクトルは次から次へと話題を提供してくれてすごく喋りやすかった。受け答えが単調なミナにも常に笑顔で、優しく接してくれた。ここまでお人好しだと、逆に不安になるレベルだ。


「ここまでくればもうすぐだよ。っと、話は変わるけどさ。そういえばミナちゃんって何歳なんだい?」


 唐突に訊かれ、ミナはふと思い至った。

 自分は今何歳だったか。歳をとらない身体になってから、年齢を数えるのを忘れてしまっていた。


「えっと、確か……」

『25やな。外見年齢は当時の15のままやけど。ま、ミナはその時から幼いからぶっちゃけもっと若くても違和感ないわな』


 脳裏にルクシオンの声が響いた。

 言われてミナも思い出した。帝国に囚われた時が13歳。2年間を帝都の地下実験室で過ごし、それから10年が経った。足せば、確かに実年齢は25歳だ。

 だが、この見た目でその年齢は怪しまれる可能性がある。ルクシオンが言ったように若干幼く見えるが、ここは15歳と言った方がいいだろうとミナは判断した。


「15です」

「そうなんだ。もうちょっと幼く見えるけど、ミナちゃんがそう言うのならそうなんだろうね」


 疑うことなく、ヴィクトルは年齢の話題を終わらせた。


「それでずっと聞こうと思ってたんだけど、剣を持ってるってことはミナちゃんも冒険者なのかな?」

「旅はしてますけど、この剣は護身用です」

「へえ。結構業物っぽかったから、もしかしたらって思ったんだけど違ったんだね」

「はい」


 業物だと言ったのは魔剣のオーラを少しでも感じ取ったのか、それともお世辞のつもりなのか。今の段階では判らない。そもそも、一目見て魔剣と判る人間は、相当な手だれである。まあ、直感で感じる人もいるかもしれないが。


「闘技場は中央通りを北に進んだ先にあるんだ。大きくて目立つから、見れば一目でわかると思うよ」


 表通りを歩きながら、ヴィクトルは通りの先を指差した。

 その先を見れば、確かに大きな建物がある。あそこがヴィクトルの言う闘技場なんだろう。独特な雰囲気も出てるし、間違いない。

 しばらく歩き、ミナとヴィクトルは無事に闘技場に到着した。

 会場を見上げると、円形になっているのがわかった。さらに、コロシアムの外壁には竜の石像が彫られている。昔から、竜という生き物は強さの象徴だ。武芸を見せあう場という意味合いで彫られているのだろう。


「もしかしなくても、ミナちゃんは明日からの闘技大会を見に来たのかな?」

「そんなところです」

「奇遇だね。実は僕も同じなんだ」


 微笑みながら、ヴィクトルは言った。

 ミナはヴィクトルの人の良さに少しだけ心を痛ませた。決して騙しているわけではない。それでも、本心を隠して人を頼るというのは気持ちのいいものではなかった。


「どうしたの?」

「いえ、なんでもありません」


 と、ミナが言った直後。

 通りの向こう側から、見覚えのある恰好をした連中が現れた。

 赤色を基調とした騎士服。忘れるはずもない。あれは、ケヴィオン帝国騎士団の制服だ。ミナが憎む、ケヴィオン帝国の手先である。


「あれ、帝国の騎士だね。何かあったのかな?」

「どうやら誰かを護衛しているようですね。それが誰なのかまではわかりませんが」


 言いつつも、ミナの中では確信に変わっていた。

 恐らく、騎士が護衛しているのはケヴィオン帝国四元帥の1人、リシャール・サニエだ。明日行われる闘技大会の視察に来たとかそんなところだろう。

 しかし、これは絶好のチャンスである。このまま見過ごすわけにはいかない。上手くいけば、この場でリシャールを葬ることも出来るのだ。そのせいか、ミナの中に焦りが生まれた。


「ヴィクトルさん。案内はここまでで大丈夫です」

「そう? 闘技場の中は大丈夫?」

「はい。ここからは1人で行ってみます。さすがにこれ以上付き合わせたら悪いですから。ありがとうございました」


 言って、ミナは小さく頭を下げた。

 だが、意識は騎士団の方へと向けている。

 どうやら、騎士達は闘技場の中に入るようだ。急がなければ、見失ってしまうかもしれない。


「どういたしまして。ミナちゃんとはなんだかまた会える気がするよ」

「そう、かもしれませんね」


 ヴィクトルのまた会えるという言葉に、何故だかミナも自然と同意していた。あわよくば、また良い形で出会いたいものだと、ミナは思った。


「それじゃあね」

「はい。本当にありがとうございました」


 ヴィクトルを見送り、振り返った時には、騎士達は全員闘技場の中へと消えていた。

 すぐさまミナも闘技場の中へと進んだ。

 向こうは10年経ち、多少は外見も変わっているだろうがこちらはあの時から容姿に変化がない。なので、昨日買ったターバンを頭に巻いた。これでだいぶ雰囲気は変わったはずだ。


『このためやったか、そのターバンは』

(備えあればなんとやらってやつだよ)

『さすがワイの相棒や。でも、焦るんやないで、ミナ』

(わかってる)


 相棒に返答し、ミナは先に進んだ。

 闘技場内は、さすがの壮大さだった。

 石造りの場内は、その大きさに圧倒される程だ。加え、腕が立ちそうな武芸者たちが場内にはごろごろしていた。どいつもこいつもかなり強そうだ。闘技大会には腕に自信がある者ばかりが参加するだろうから、当然ではあるのだが。


『連中、2階に行くみたいやな』

(ちょっと待って。護衛対象から騎士達が離れるみたい)


 様子を窺っていると、護衛をしていた騎士達がばらばらになった。場内だから、もう護衛は必要ないと判断したのだろうか。


(あ……っ)


 数人の騎士達が階段の前に立ち、2階への道を塞いだ。

 どうやら上の階に上がらせないようにする段取りだったようだ。


『どうすんねん? 階段前抑えられたらもう進めへんで』

(強行突破……はまずいかな。他の道を探そう)

『いや、ちょい待ち。冷静に考えたら、今のミナはただのガキや。そんな相手に、騎士が警戒するやろか』

(……どういうこと?)

『せやから、あいつらに直接訊くのはどうや? もしかしたら案外素直に教えてくれるかもしれへんで』


 ルクシオンの意見に、ミナは賛成も反対もしなかった。

 一見、無謀な行動に見えて、理には適っている。今のミナはただの小娘。そんな人間相手に天下の騎士様が警戒するだろうか。子供だからと油断するかもしれない。

 だが、懸念要素は少なからず存在する。まず、騎士に何を訊くかだ。質問内容によっては、逆に怪しまれかねない。自然を装って訊ければいいのだが、ミナはそこまで柔軟じゃない。


(……上手くやれるかな)

『なぁに、ここはワイに任せとき。必勝の策があるさかい』

(……ほんと?)

『もちのろんや。ここは騙されたと思ってやってみようや』 


 騙されたら元も子もないのだが……とは言わずに、ミナは頷いた。

 ルクシオンもバカじゃない。言葉通り、何か策があるのだろう。

 ならば、今はそれを信じる。そう決め、ミナは相棒の魔剣と共に騎士のいる所へ向かうのだった。

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