chapter.19 ギルドにて
この世界には、冒険者ギルドというものが存在する。
その名の通り、旅をする者達をサポートする組織だ。ギルドに属する者はもれなく人々の依頼を受注でき、達成すれば報酬として金がもらえる仕組みになっている。さらに金融機関や情報屋としても機能し、旅をするならとりあえず登録しておいて損はない組織だ。
この中部都市ガローンドにも、ギルドの支部がある。ひとまずそこでお金をおろそうということになり、ミナ達は冒険者ギルドガローンド支部にやってきていた。
「はい、確かに。それにしてもあなた、ランクも低くて身体も小さいのにお金持ちなのね。お姉さんびっくりしちゃったわ。それで質問なんだけど、本拠地はどこなのかしら?」
「ここから遥か東にある島国にある支部です」
「東で島国っていうと、ワノクニかなぁ。確かに田舎といえば田舎だけどねぇ~。でも、ミナちゃんは帝国出身なんだよね? カードにはそう書いてあったし」
「そうですね。出身はこっちで、暮らしが向こうでした」
気さくなギルドのお姉さんに若干苛立ちを覚えながらも、ミナは丁寧に受け答えをしていく。まあ、正直な話、お金は貰ったのでさっさと退散したいところであるのだ。
「へぇ~、そうなんだ。ミナちゃん、なんだか小さくて可愛らしい顔なのに大人な感じだから気になっちゃって。服も長袖長ズボンだしね~。首に巻いてるそれ、暑苦しくなったりしない?」
「……特には」
「でも、この街は蒸気とかで暑苦しいよ~? あ、でもメロウシティから来たのなら暑苦しいのには慣れてるのかな? あそこ日焼けするから逆に厚着するって話だもんね~」
「……はぁ」
受け答えが徐々に空返事になっていく。
受付のお姉さんに悪意はないのだろうが、人のコンプレックスを一々抉るのは止めてほしいところだ。小さくて可愛いとか、暑苦しそうな格好だとか、ことごとくピンポイントである。
さすがに往来の中でキレたりはしないが、心は穏やかではない。というか、さすがに踏み込んでき過ぎではないだろうか。ミナが普通の子供じゃないと言うが、冒険者には幼くとも異質な連中はごまんといる。大して珍しいことでもないはずなのだ。
『言っとくが、ミナは異質中の異質やで』
(……心読むな)
『おおぅ。ドンピシャかいな』
(……そんなことより、抜け出す策でも考えてよ)
『策て、そんなんミナが無視すりゃええだけやないか』
(……あ。その手があった)
『気付いとらんかったんかい……。まあ、そんな気はしとったが』
念からでもルクシオンがため息をついてそうな雰囲気が感じ取れた。呆れているのだろう。まあ、今回ばかりは仕方がない。
念話をしている間にも、受付のお姉さんからの質問は止んでいなかった。当然、念話をしながらなのでミナは空返事を繰り返していただけだが。
「ミナ」
と、そんな中、声をかけてきたのはヴィクトルだった。
ヴィクトルも同じく冒険者で、他のカウンターで用事を済ませていたのだが、終わってこちらに来てくれたらしい。
「あら、あらあら? やだイケメンじゃない。もしかしてミナちゃんの知り合い?」
「……一応は」
「あーん! ミナちゃんの不思議度がうなぎ上りだわ!」
1人でテンションアゲアゲの受付嬢。
このままでは埒が明かない。ルクシオンの言うとおり無視して去ろう。そう思った直後。ヴィクトルが口を開いた。
「すみません、僕ら急いでますので。また立ち寄るので、その時にでも続きをしましょう」
「そうなの~? ならまた来てちょうだいね」
受付嬢は笑顔で手を振り、同じくヴィクトルも笑顔で返す。
これが社交性か。などと柄にもないことをミナは思った。
まあ、社交性など特に必要ないだろう。昔から、というか、前世からミナはそういう考えだった。
「――な!?」
ミナ達がギルドから出ようとした瞬間。
事件は起きた。唐突に。
鳴り響く銃声。
音はギルドの外から響いている。
銃声だけじゃない。様々なモノが割れる音や、人々の悲鳴も混じっている。明らかに、異常事態だ。
「な、何事だ!?」
「様子を確認しに行くぞ!」
「緊急クエストってやつか、おもしれえ!」
「おっしゃあ! 腕が鳴るぜ!」
ギルド内にいた冒険者達がぞろぞろと外へ飛び出していく。
正義感の強い冒険者達であれば解決へと導くのが使命だと、恐らくはそう思っているのだろう。
「ミナ、僕達も!」
「はい」
どうやらヴィクトルも同じ意思を持つ者のようだった。
ミナ1人であれば無視してもよかったのだが、ヴィクトルが行くというのならば同行する他ない。無駄な戦いはなるべく避けて通りたかったが、この際仕方がない。
そうして、ミナとヴィクトルは急ぎギルドから出た。




