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chapter.17 少しだけの再開



 メロウシティで一泊し、ミナ一向は東へ向かった。

 中部都市ガローンドを経由し、帝都スオネタルに行く。これが今現在のミナ達のプランだ。もちろん、何事もなくいければの話である。寄り道する可能性がないとは言い切れない。


 メロウシティの駅から列車に乗り、ただ今絶賛移動中である。

 四人掛けのシートを2人で陣取り、やることもなく外を眺める。ミナとヴィクトル、互いに口数は減っていた。


『暇やのぅ。リシャールを殺して復讐も順調。世界は大きな戦争もなく平和。ワイの力が必要になる場面は来るんやろうか』


 先ほどからうざったい程に念を飛ばしてくる相棒の魔剣。

 そんな相棒のひとり言にうんざりしながらも、ミナはいつも通り無視を決め込んでいた。無論、下手に反応するとルクシオンが調子に乗り始めるからである。


『なあミナ無視せんとお喋りしようや』


(……)


『まーたミナの恥ずかしいエピソードを語らなければならんようやのぅ』


(……それはダメ)


『ならお喋りしようや。いつもなら冷たくも返事してくれるやん』

 

(今はヴィクトルがいる。下手に念話は出来ない)


『ばれへんて。もしくはワイの声をヴィクトルにも聞こえるようにするか?』


(そんなことしたら私が魔剣を持っているとばれるから却下)


『つれないのぅ~。てか、魔剣使い手ってばれたら何か不都合でもあるんか?』


(あるでしょ)


『別に良いと思うんやけどなぁ』


 くだらないやり取りをしつつ、列車での旅は過ぎていく。

 ぼーっとしていると、前世の記憶が思い浮かんできた。

 地元を出て1人で暮らし、毎日毎日仕事をして過ごしてきた日々。趣味は最早仕事と家事全般。生きることに精一杯な人生。だがそんな中、唐突に訪れた死。向こうの親は、あまり息子に関心がなく半ば放置気味だった。会うのも年に一回くらい。恋人もおらず独身。そんな寂しい暮らしだった。


 この世界の両親は特殊な体質のミナを愛し、育ててくれた。何一つ疑わずに愛情を注いでくれた。だが、そんな大好きだった両親を殺された。両親だけじゃなく、故郷も全て。絶望の淵に叩き落とされてなお、屈辱を味わった。思い出しただけで狂いそうになる。


「――あら、また会ったわねぇ」


 艶美な声に思考が停止する。

 何者かがミナ達のシートに顔を出してきた。

 いや、何者かではない。彼女は知っている。つい先日世話になったばかりだ。


「あなたは、あの時の……」


 怪しい神官。

 名は名乗っていなかったはずだ。


「ミナ、知り合いかい?」


「ええ、まあ。というか、そうでした。ヴィクトルは寝ていましたね」


 あの時、神官少女がヴィクトルを治療した。だが、ヴィクトル自身は眠っていたので、彼女のことは知らない。


「もうだいぶ良くなったみたいねぇ。ねえあなた、大丈夫かしら。異常はない?」


 言いつつ、神官少女はヴィクトルに近づく。

 まるで誘っているかのような接近に、ヴィクトルは若干困惑しているようだった。


「あ、あの、話が見えないんだけど……」


「あらあら、そうだったわね。あなたは眠っていただけだものね。私があなたの中から邪気を抜いて上げたのだけど、覚えていないわよね」


「え、それはどういう……」


 困惑するヴィクトルに、あの時の出来事をなるべくわかりやすいようにミナは説明した。


「そんなことがあったんだね。そういうことなら、ありがとうございました。道理で怪我の治りが早いと思ったよ」


「本当は骨にもダメージを受けていたようでした。ですが、この方のおかげで事無きを得たんです」


「ふふ、それが仕事でもあるから。でもよかったわ。ちゃんと元気みたいで」


 微笑むと、外見に似合わず大人びた雰囲気に見える。

 本当に、この神官の少女は何者なのだろうか。一筋縄ではいかなそうだが、それにしては好意的だ。何か打算があるかもしれないとミナは思いつつ、警戒だけはすることにした。


「この列車に乗っているということは、目的地はガローンドかしら?」


「そうですね」


「それならまた会うこともあるかもしれないわね。何はともあれ、恋人同士仲良くしてくださいな」 

  

「こ、恋び……!?」


 神官少女の急な発言に、ミナは息が詰まりかけた。

 というか、恥ずかしながら実際に詰まった。


「ふふふ。それじゃあ良い旅を」


 そう言うと、自分はさっさと姿を消してしまった。恐らくは別の車両に向かったのだろう。


「――僕達、そう見えるのかな?」


「それは知りませんが……。というか、どうして嬉しそうなんです?」


「いやだって、ああ言われて嬉しくない男はいないよ。まあ、ミナからしてみれば迷惑かもしれないけどさ」


「迷惑とかでは……。ですが、まあ、反応には困りますね……」


 恋愛だとか、そういった経験に乏しいミナは、同じくそういった免疫がない。男の時の記憶もありながら、その一方で肉体は女。精神肉体共にあべこべなせいか、こういう時にどうすればいいのかが判らないのだ。 


『良い反応やの~。初心のミナらしいわ』


(ルクシオンは黙ってて)


『ぬぅ。わいのご主人様はつれないのぅ』


 ルクシオンとの念話を早急に終わらせ、ミナはこほんと咳払いした。


「気にしないことにしましょう。というか、そうしていただけるとありがたいです」


「わかったよ。僕もミナを困らせたいわけじゃないしね」


 笑みを携え、ヴィクトルは言った。

 ミナも、これ以上この話題を大きくするつもりはない。それに、もうそろそろ次の駅に到着する頃合いだ。目的地はガローンドだが、今日はここらで一泊した方が良い。


『そういやまたあの女の名前聞きそびれたのぅ』


(……ああ。まあ、別に必要な情報じゃないし、いいよ)


 神官少女の名前。確かにまた訊くのを忘れていた。

 だが、だからといって何か支障があるわけでもないので、ミナは特に気にすることはなかった。

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