#3.そして皆に好かれていたのだ
「なんか引っかかるものを感じるが……まあよい。まずは姫よ、お前の望みは何か。言うてみよ」
頬をぽりぽり搔きながら、それでもぎりぎりヘソは曲げずにいてくれた。さすが王様懐が深い。
お姫様は、真面目な面持ちで王様を見つめる。
「今回の事件、私以外にも功労者がおりますわ。その方をこのお城で働かせて欲しいのです」
「ほう、その者とは……?」
「……お父様もご存知の方ですわ。その、かの――者の末裔の、――」
途中からぼそぼそと小声になってしまう。頬も赤い。考えてる事が丸解りだ。
「あー、なんとなく察しは付いた。まあ、実際に功労をあげたと言うならそれもよかろう」
「ありがとうございますっ」
「ただし監視はするからな。ワシの眼鏡に適わんようなら即刻処刑してれる」
王様直々の兵隊さん監視体制が待っているらしい。頑張れ兵隊さん。
「大丈夫です。あの方はそんなやわな方ではありません。必ずやお父様の眼鏡に適うはずですわ」
お姫様は強気だが、俺は知っている。
あの人は確かにスペックは高いんだが、あんまり自分に自信を持っていない。
そこだけが心配材料というか何というか。
まあ、気になる点ではあった。
「して、カオルよ。そなたの望みは何だ?」
お姫様の望みは叶うようなので、俺も安心して告げる事が出来る。
「それじゃ王様、俺の友達になってくれませんかね?」
俺のちょっとした野心が華開いた瞬間だった。
「む……? ワシの友達とな?」
「そうそう」
豆鉄砲を喰らったような顔の王様。まあ、多分そんな顔になる気はしてた。
「友達と言うのは、共に酒を飲んだり、苦難を語り合ったりする、アレか?」
「それであってる」
「……むう。この歳でこんなに若い友人が生まれるとは思いもせなんだが。そなたがそれでよいなら、ワシは構わんぞ」
「よっしゃ。これで面白い土産話が出来たぜ」
思わずガッツポーズ。王様が友達なんて、この上ない名誉なんじゃないだろうか。
話題性も抜群だ。今回、こういう話の重要性を痛いほど思い知った。
信じてくれるかは別としても、人を愉しませられる・飽きさせない話を知ってるっていうのはすごい大切なんだ。
「先ほども言ったが、英雄や勇者や異世界からきた女神の遣いは、食卓の場でワシに土産話を聞かせるのが務めというものじゃぞ?」
王様、嬉しいのかにやりと笑っていた。
勿論その話に全力でのっかる。
「ああ勿論だ。俺がこの世界にきてから今までのこと。一食や二食じゃ語りきれない位沢山ある。全部話すまで帰らないからそのつもりで頼むぜ!」
「うむ、よし。お前はよき友になってくれそうじゃ。いや、最近は隣国の姫君と食事を取る事が多かったゆえ、年甲斐も無く緊張してしまってのう。歳を取ると話が続かなくていかん。話題豊富な者は大歓迎じゃ」
王様はノリノリだった。抜け目無いが、こういう大人はかっこいいと思う。
ただ優しいだけではないのだけど、腹黒いという訳でもなく。言うなら気持ちの良い人だった。
「隣国の姫というと、ラナニアのリース姫ですか?」
お姫様は別の部分が気になったのか、首をかしげながら王様に問う。
「いいや。隣国と言っても、逆隣のエスティアじゃよ」
「エスティアと言うと――」
「実はのう、此度の事件、そのエスティアの姫君も解決に一枚噛んでおるのじゃ。その者の進言あって、カオル、そなたの言葉を聞く気になった」
結構重要人物なんじゃよ、と、突然話に出たその姫君と、真相を話し始める。
「そのお姫様って――」
誰なんだソレ、と、言おうとしたところで、王様は席を立った。
視線は俺達を見ていない。その後ろを見ていた。
「おお、来たのか。待っておれんかったか? シャリエラスティエ姫」
王様の言葉を聞き、俺達は振り向く。
「――ええ。カオル様が心配で心配で。寝不足で仕方ないものですから」
そこには、純白のドレスに身を包む美姫がいた。
黒髪黒目。猫を思わせる耳が頭についていて、顔立ちは幼いけれど髪色の所為で妙に神秘的に感じさせる。
口元の紅はうっすらと引かれていて、それでも眼を惹かれどきどきしてしまう。
――紛うことなきサララであった。見慣れた猫耳娘が、お姫様のようなドレスを着て、お姫様をしていた。
「シャリエラスティエ様! お初にお目にかかります。ステラと申します」
「ええ、初めましてステラ様。よろしくお願いしますね」
お姫様同士の朗らかな会話であった。
サララも、普段とは全く違う態度、振る舞いでしゃなりと対応する。
「シャリエラス……様! お初にお目にかかります。異世界からきた英雄のカオルと申します!!」
お姫様を真似てみた。
「人の名前もきちんと言えないような英雄殿は陛下にお願いして牢屋送りにしてしまおうかしら?」
悪魔でもしないような笑顔になっていた。そして洒落にならない事を言っていた。
「ごめんなさい」
「……ん。分かればよいのです」
素直に謝った俺に、何が嬉しいのか偉そうに腰に手をあて、無い胸を張っていた。
「あれ、もしかして、パーティー会場で女好きとロリコンの二人にしつこく言い寄られた友好国の姫君って――」
「言うまでも無く私の事ですよ?」
なるほど、体験談ならそりゃ自信満々に語れるよな。
しかし二人同時にとは。しかも二人とも横面叩くとか。お姫様してても気が強いんだなあこいつは。
「その件に関しては本当にすまなんだ。まさか我が国の者がそなたに迷惑をかけておったとは思いもせなんだ」
「もう昔の話ですから。それに、今回の件では陛下にも無理を聞いていただきましたし――」
苦笑しながらもあっさり流す辺り、サララにとっては何でもない記憶に過ぎないらしかった。
「それよりカオル様、どうですか私のこの格好。あ、もう今更かもですけど、私実は獣人族のお姫様でして――」
こいつがお姫様だったなんてとっくの昔に知ってたことだった。
それに、『似合いますか?』なんて聞かれたら、答えられるのは一言しかないじゃあないか。
「馬子にも衣装だな」
「あらひどい」
俺の照れ隠しに、サララもちょっとだけ驚いたように目を見開くが、すぐにまた華の様に笑う。
「まあ、カオル様特有の照れ隠しだと受け取っておきましょうか」
クスクス、と可愛らしく微笑むのだ。勝てない。今のこいつには絶対に勝てない。
「良い仲のようだのう」
そんな俺達を見てか、王様もにやにや笑いながら呟く。
「ええ。なんたって私の救い主様ですから。あ、ステラ様。この人は私のだからあげませんからね?」
取らないでくださいね、と、初対面だったお姫様にまで念を押す。
自然と腕まで絡めてくる。何この所有物アピール。今すごくデレてないかこいつ。
「二人きりで逃げてると聞いて、なんかもう心配で心配で。カオル様が暴走してるんじゃないかって夜も眠れませんでした」
心配だったのはそっちの方向か、と、思わず噴き出してしまう。
「お前なあ。少しは俺の事を信用しろっての」
俺なんてモテないし、こんな可愛いお姫様なんて不釣合いだろうに。
「大丈夫ですよ。シャリエラスティエ様の良い人を取ったりはしませんからご安心を」
お姫様も、何が楽しいのか笑っていた。
そして気付いた。きっと俺とサララのやり取りが面白いんだろう。コントか何かみたいに見えるに違いない。
「でも羨ましいです。私も、その、あの方とこんな風に、お互いを分かり合えてるような仲になりたいです」
こちらはちょっと願望が入っていた。
「なら、恋に悩むステラ様に一つだけアドバイスを」
「アドバイスですか?」
「鈍感な男には、はっきりと言う位しないと意味がありませんから。恥ずかしくても、傍にいて気持ちを伝えるのって大切ですわ」
経験者はかくも語る。みたいな雰囲気になっているが。
それはつまり、こいつにとって俺は鈍感な男だったという事だろうか。
なんとも悔しい気分になってしまう。そんな鈍感な事ってあっただろうか? と。
「とにかく色んな表情を見せると良いですわ。笑って、泣いて。ステラ様は歌がお上手だと聞きました。聞かせて見せるのもいいのでは?」
相手の中で自分を息づかせるのです、と、シャリエラスティエ姫は仰った。
こくこくと頷くお姫様。どうかこいつのようにはならないで欲しい。兵隊さんが過労死してしまう。
結局、それから数日の間、城で滞在する事になった。
俺が調子に乗って「何日でも語ってやる」とか言ったのもあるが、王様だけじゃなく王子とも仲良くなり、それはそれは楽しいひと時を過ごしていた。




