#2.変に自信満々で余裕があって、それから子供っぽくて
「しかしまあ、よくもここまで調べ上げたものじゃ。双方に関しては、前々から善くない噂と報告は聞いていたが、ここまでとは思いもせなんだ」
王様が感心してくれるのは嬉しいが、なんとも複雑な気持ちだった。
まとめてる最中もあんまり良い気分がしなかったし、王様に話してる時だって結構嫌なもんだ。
人の悪いところ挙げ連ねて『こいつしょっぴいてくれよ』とか、こんな事してる俺もきっと、ろくでもない奴だと思う。
「お父様。これにて今回の縁談は白紙に、という事でよろしいのではないでしょうか?」
お姫様にとっての最大の問題はこれだろう。
まずはこれを解決したいはずだった。
「当然じゃ。しかし困ったのう、姫の相手として相応しき相手がおらんでは、姫がいき遅れてしまう」
それはそれで問題じゃ、と、王様は髭を弄りながら難しい顔をする。
「……それは」
お姫様も少し困ったように眉を下げていた。
「無論、今聞いた二人が姫の相手になることはあるまいが。だが姫よ。次に選ぶ相手は多分にまともな者ゆえ、これと決めればもう今回のように逃げ出すこと、まかり通らんぞ?」
それでいいのか、と、王様は問う。お姫様の覚悟を聞いたのだ。本当に良いのか、と。
「……私は、待ちたいのです」
「待つ?」
「はい。私の、その、大切な方が、私に相応しくなれるその時まで」
俯いてしまう。隣から、お姫様の耳が赤くなってるのが見えた。
「その方なら、私は妻になってもいいと思います。どうか、その方と一緒に居させて欲しいのです」
また、顔を上げる。頬はキリリとして、キッ、と、王様を見ていた。
「ワシは、そんなに甘い親ではないぞ、姫よ」
王様の口から出た突き放すような言葉。
ごくり、と、喉を鳴らしたのは誰だっただろう。そんな事すら解らなくなる瞬間。
「どこの馬の骨かも解らん。ワシが直々に見定めてくれよう。相応しくないと思ったなら、即刻処刑してくれるわい」
にやりと笑っていた。良かった、この王様、親バカだった。
「お父様っ」
ぱあ、と良い笑顔になるお姫様。これにて一件落着。
……いや、なんかシリアスな話になりかけてたから黙ってたが、何か重要な事を忘れてないだろうか。
「なあ、感動の話にしようとしてるところ悪いんだけどさ」
「何じゃ、まだ居たのか。空気を読んで帰ってても良かったのだぞ?」
「酷っ」
あんまりにもあんまりな扱いだった。
「そうじゃなくてさ、王妃と侍女長の対立とか、城がやばいのとか、それはどうなったんだよ? まだ解決してないだろ?」
「あっ」
お姫様が、言われてから思い出したようにハッとして口元を押さえていた。
だが、王様は頬をぽりぽり、あんまりやる気なさげにこう言ったのだ。
「いや、とっくに解決しておるがな」
唖然としていたのは俺だけじゃないはずだ。
お姫様も口を開いたまま沈黙している。
何が起きたのかわからない顔。きっと俺も同じ顔をしているはずだ。
「解決って、その、城内の問題が?」
「うむ。これ以上なくあっさり片付いたぞ。これもカオルらのおかげよ」
上手く動いてくれたもんじゃ、と、王様は上機嫌だった。
「そんな、一体どうやって……?」
やっと動けるようになったのか、お姫様が呟く。
城内の問題は、あのバカ二人の晒し上げが終わった後に、王様も交えてなんとか解決していこうと思っていた話だった。
それが、俺達が城に着く前に解決していたのだと王様は言うのだ。意味が解からない。
「どうやっても何も。姫が城を出てからというもの、王妃は侍女長やワシの妾を露骨に排斥しようとしていたし、侍女長は侍女長で追い詰められて王妃と刺し違えようと刃物まで持ち出しおったからのう」
ほんに困った奴らじゃ、と、王様はにやにや笑う。
「仕方ないから、双方両成敗しておいた。王妃は当分の間離宮で暮らすことを命じたし、侍女長はしばし城の外で妾や王子から離れて暮らすように命じた」
顔を合わせることがなければ喧嘩する気も起きまい、と、王様はのたまう。
「それと、二人を持ち上げて甘い汁を啜ろうとしていた国賊どもは全員牢屋へ放り込んでおいたし……後はまあ、トーマスがちょっとばかり無茶してくれたから、しばらく謹慎でもさせようかと思うかな位じゃなあ」
紛れも無く懸念事項ゼロだった。
「国の中枢に入り込み、他者の権力を隠れ蓑に好き放題する。国が平和になるとな、こういった腐った輩が次々に這い出してくるのじゃ。定期的に駆除せねば、国が腐ってしまう」
本当に問題だったのは王妃と侍女長の対立を利用して良い目を見ていた奴ら、という事だろうか。
俺には難しくてよく解らないが、お姫様はわかるのか、こくこくと頷いていた。
「つまり、王様は俺とお姫様を利用したって事か? その、悪い奴らの駆除のために」
「まあな。姫がお前と接触するであろう事はとっくに勘付いておった。我が姫のこと、この機会を逃すつもりはなかろうな、とも思ったしのう」
――思惑通りだったのだ。
俺がこの城に来る事も、お姫様と会う事も、お姫様と一緒に逃げることも。
王様は、全て予め解った上で放置していた。
今回の話にしたって、問題が極限まで膨れ上がるまで膨らむに任せて、膨らみきったところを一気にかっさらったのだろう。
なんて効率的な問題解決。合理的過ぎる。
「ちくしょうめ、おっかねぇ王様だぜ」
何を企んでるのかもわかりゃしない。今俺が皮肉ったのですら、先読みしていたのかもしれないんだから。
「お父様、悪趣味ですわ」
お姫様もぐぬぬ、と、ちょっと悔しげだ。こんな顔も出来るのか。
「二人とも、まあそんなに悔しがるな。ワシは嬉しいのじゃ。この国が為動いてくれる者達がいる。それがワシやトーマスのような年寄りではなく、お前たちのように若い者達が。これほど頼もしい事はない」
晴れやか~な笑顔で、王様は笑っていた。
「綺麗にまとめようとしてるな」
「綺麗にまとめようとしてますわ」
だが俺もお姫様もそんな流れには騙されない。
人に働かせるだけ働かせて一人楽をしたこの爺さんには何か一言言ってやらなきゃ――
「なんじゃ、折角褒美の一つも取らせようと思ったのに」
「お父様大好きっ」
「さすが王様だぜ。いよ、太っ腹!!」
俺達は自分に素直だった。




