#1.お久しぶりです陛下。こうしてお話するのは二度目でしょうか?
ああ、懐かしきこの街よ。
こんなに人いきれがありがたいと思った事があっただろうか。
レンガの家が目に入るのがこんなに嬉しいと感じた事が今まであっただろうか。
あの忌々しい緑の絨毯が目に入らなくなるのが、これほど安堵できるとは思いもしなかった。
――たった二週間ちょっと離れた街だというのに、俺はこんなにもこの街が好きだったんだなあ、と、実感した。
いや、そんな事はない。別にこの街に何か深い感傷があるわけではないのだ。
どちらかと言えばこの世界での俺の故郷はやはり最初に世話になったあの村な訳で。
でも、長いこと緑しかない風景で腐っていた俺には、人の活気に溢れるこの街のこの光景が、とてもまぶしく感じられた。
だから、つい心の中でポエムみたいなのを考えてしまった。
「いやあ、すまねぇ。迷惑かけちまった」
慣れた街の慣れた部屋。
馬車の扱いに手間取りながらもようやく街に着いた俺とお姫様は、迷わず真っ先に兵隊さんの所に向かった。
もう遅くなっていたので部屋にいるのはわかっていたが、上手いところ一人でいてくれて助かる。
誰か女でも連れ込んでたらお姫様が大変な事になるところだった。
まずそこで安堵してしまう。
「まあ、君の事だからこうなる気はした」
最初は驚いた様子だった兵隊さんだが、話を聞くにサララが気を利かせて手紙を送ってくれたらしく、とりあえず俺が城から逃げていたことは知っていたらしかった。
それでも面倒ごとと思わずかくまってくれるこの人は、本当に良い奴だと思う。
「それで、そちらの方は――」
さっきから兵隊さんが気になるらしく何度も見たり見なかったりを繰り返していたお姫様。
それに気付いたのか、兵隊さんはお姫様の方をじーっと見てしまう。
「――っ」
すぐに顔が沸騰し、手で目元を隠しながら俺の後ろに隠れてしまうお姫様。なんとも初々しい。
「……」
突然の事だったので兵隊さんは唖然としてしまっていた。
これはフォローしてやらないと話が進まないパターンだ。
「照れ屋さんなんだよ。気にしないでやってくれ」
あんたがあんまり気にすると、きっとどきどきしすぎて死んでしまうからな、このお姫様は。
今までの旅路でも兵隊さんの話題になるたびに勝手に変な想像しては勝手に興奮して気絶してとか危ない事になってて心底驚かされたものだ。
奥手な癖に耳年増というか。想像から入ってしまう子なんだろうというのは解ったんだが。
そんなお姫様が兵隊さんの顔を見てますます挙動不審になってしまっていた。
想像と現実で余りに違いすぎてショック受けたりしたらどうしようと思ってたものだが、どうやらお気に召したらしい。
その証拠に、兵隊さんの部屋にきてからというもの、このお姫様は一言も喋ろうとしない。
動きもどこかロボロボしいというか、ぎこちないというか。ガチガチ。緊張しまくってるようだった。
見てる分には面白いが、兵隊さんから見ればお姫様はすごく変な子に見えてるんじゃないかと心配になってしまう。
「それで。事情を説明してもらおうか?」
兵隊さんは空気の読める大人だった。
気にするなと言った事を本当に気にしないでくれる辺り、とても助かる。
「ああ。勿論だぜ」
何にしても、俺はこの人に力を貸してほしいから、もっと巻き込むことにした。
迷惑だろうけど、それでも助けて欲しかったのは本当だから。
「――まあ、そんな訳でこのお姫様は、自分は一旦城から離れたほうが良いって判断した訳だ」
一通りの説明を済ませると、兵隊さんは最初難しい顔をしていたが、次第に困り果てたような、それから唖然としたような顔に変わっていった。
他人の百面相は結構面白いが、兵隊さんの心境は俺にも良く解る。
「……それで、君にさらって欲しいとお願いしたのか」
なんとかついてきてくれているらしい。
「俺もびっくりだよ。偉い人から頼みごとは済んだんだけど、帰ろうとしたらお姫様にお呼ばれされるんだもん。それで聞いてみたら『私をさらってください』だぜ?」
「それは驚く……」
勿論、一部省略したり改変している。本当に詳しい部分までは話せない。
とても難しい問題なので外に漏れては困るからとお姫様から口止めされているのもあるし、何よりお姫様のプライベートな問題も含まれているからだ。
流石に『このお姫様があんたに会いたくて来たんだよ』とか直球な事を言う訳にもいかないだろうし。
そこはもう、本人同士の問題なので好きに任せることにした。俺は関わらない。
「まあ、事情はわかったよ。そのような状態だと、じっとしているだけではほとぼりが冷めるとも思えないが……何にしても、しばらくはここで暮らすと良い」
ちょっと頭を抑えながら、でも、兵隊さんは受け入れてくれた。
一歩間違えれば共犯者だ。俺が捕まりでもすれば一緒に処刑とかされちゃうかもしれないのに、理解してくれた。
多分、今の俺は馬鹿みたいに口をあけて、目を潤ませているはずだ。視界がぼやけるし。
「すまねぇっ、恩に着る!!」
理解のある友達を持って俺は幸せだ。
女神様は俺をとても平和な村に送ってくれると言ってた気がしたが、そんなものよりこの人と出会えた事の方が大きいんじゃないかと思う。
これも特典とやらなのだろうか。それとも本当にただの偶然なのだろうか。
それでもいい。偶然でも良い。自分の運のよさに、何よりこの親友に感謝したかった。




