#2.なんかの怪しい勧誘みたいだった
「私が今現れたのは、貴方に選択肢を授ける為ですわ」
「選択肢?」
よく解らない単語だった。ゲームとかにあるアレみたいなものだろうか。
考えていると、女神様は指を二本立てる。
「貴方は、どう足掻いても死にます。今すぐ死ぬのと、死ぬのは回避できないながらも誰かの為に少しの間生きるのと、どちらがいいですか?」
すごく救いのない選択肢だった。「何それ」と、唖然としてしまう。
「せめてもうちょっとさ……超絶美形になって生まれ変わるとか、何かの代償に生き延びるとか、そういうのはないんです?」
どう足掻いても死ぬとか酷すぎる。選ぶ意味なんてないじゃないか、と。
だが、女神様は再び首を振った。とても残念そうに。
「ごめんなさい。そういう願いはもう他の人がかなえてしまって……貴方に残されてるのはこの二つしかないのです」
「順番次第じゃ叶ったのかよ!?」
理不尽すぎじゃねぇかと本気で呆れてしまった。
昔のゲームですらもうちょっと良心的だ。現実はもう少し見習って欲しい。
「でも貴方はある意味ついてます。超ラッキーです」
どう足掻いても死にますとか言われた後にそんな事言われても全然嬉しくなかった。期待も持てなかった。
「貴方が望むなら、一時的に貴方の魂を異世界に飛ばしてあげましょう」
「異世界って何?」
「異世界は異世界です。こことは別の世界と言えば解り易いでしょうかね。すごくファンタスティックでバイオレンスでそしてファンタジーまみれな世界ですわ」
「ごめん横文字良くわかんないんだ」
手に持ったままの英語の解答用紙を見てくれれば一目瞭然だと思う。0点だぜ0点。
「おおう……いや、でも大丈夫ですっ、その世界では英語なんてないですから。というかそもそも言葉がシステム面で全然違うというか……」
一瞬引いたのは解ったが、手をおたおたしながら言い訳がましくよく解らないことを喚く。
「例えば、向こうの世界で貴方が何か話しても向こうの人には『ピー』としか聞こえないでしょうし、向こうの人の言葉も多分貴方には『ピー』としか聞こえないはずですから」
「話通じないじゃん。英語どころの問題じゃないじゃん」
いくら俺でも『いぇす』とか『のー』位は解る。
だがそれすら通じないレベルとか俺が行ってもどうしようもない気がする。
「異世界の言葉話せる奴誘ってください」
俺は色々諦める事にした。どうせ死ぬなら潔く死んでも良いんじゃないかと思ったのだ。
どうせなら変な希望抱かせないで欲しかった。
死に際になんて後味悪い事しやがるんだこの女神様は、と、若干腹立たしくもなる。
「いやっ、だから簡単に死ぬとか言わないでくださいっ、諦めちゃダメっ!!」
人にどう足掻いても死ぬとか言っておいてこのザマである。
せめて騙すとか隠す位の事はして欲しい。
正直すぎるとよくないっていうお手本みたいな女神様だった。
「その、貴方が異世界に行く事を選ぶというなら、十個くらい特典を授けますから。安心して異世界ライフを楽しんでください」
「意味が解らん」
選べとか言っておいて異世界行き前提で話しを進めてやがる。何この、怖い。
「特典その一っ!! 飛んだ先の世界の言葉を無条件で扱えるようになっちゃいます!! 文字も読めます!! わあ便利っ」
俺の言葉なんてもう聞く気もないらしかった。
女神様の中では最初から選択肢なんてなかったんじゃなかろうか。
いい人そうな顔をしておいて随分自分勝手な人だった。女神様って皆こうなのか?
「特典その二は、その世界にいる限りどんなに傷ついても死なないようになる呪いをかけてあげます」
「よりによって呪いかよ。せめて加護とか言ってくれよ」
「か、加護をかけてあげますっ」
グダグダにもほどがあった。
「後は、えーっと、えーっと……そうだ!! 伝説の武器をあげましょう。エクスカリバー!!」
そう言いながら、薄汚い棒切れを一本、懐から取り出してきた。
エクス……カリバー?
「見えねぇ……」
名前負けってレベルじゃないほど棒切れだった。
「ごめんなさい嘘をつきました」
女神様は素直だった。
「エクスカリバー……を模倣した剣です。見た目はアレですけど威力は本物の十倍くらいあります。強いですよ」
剣じゃなく棒切れだし、何一つ模倣されてるような気がしない。
この女神様にとって模倣とはどういう意味の言葉なのだろうか。
「まあ本物も知らんけどな。ゲームとかではたまに見る名前だけど」
大体伝説の武器とか言われてるアレだ。
いつも最強の武器よりちょっと弱いくらいの性能で落ち着いてるが。
「ていうか、動けないんだけど。持てないんだけど」
俺は動けない。差し出されても止まったままだ。
「ああそうでした。魂で話してるから貴方は動けなかったんでした」
思い出したようにニコニコしながらぽん、と手を打つ。
手に持った棒がことん、と地面に落ちた。
――バキリ。
奇妙な音が走る。気が付くと地面に黒い何かが湧き出ていた。
というか、地面が割れてそこから『黒』が這い出てきたように見えた。
「あらいけない。空間が壊れてしまったわ」
それとなく恐ろしい事を言ってのける。
何事もなかったように棒を拾うが、地面は割れたままだ。
「……そんな危険物俺に押し付けないでくれよ」
どう使うのかも良く解らないが、どう考えてももてあますのが目に見えていた。
せめて普通の棒切れをよこしてほしい。変な効果とかいらないから。
「まあ、危険物だなんて! 確かにこれは危険ですが、上手く有効に使えば貴方が使命を果たす上で大変役立つはずです!!」
危険な事は否定してくれなかった。
せめてそこは否定してからお説教してほしかった。
「使命って何だよ。何かやらせるつもりなの?」
楽しい異世界ライフを、とか言いながら、どうせ裏があるんじゃないかと疑ってしまう。
というかこの女神様は多分、そういうつもりで俺を異世界に飛ばそうとしたんじゃないかと思うんだが。
「ええ、まあ。なんというか、うん。ありますけど」
妙にはっきりしない。嫌な予感しかしなかった。
「やっぱ俺このまま死――」
「特典その四っ!! 貴方は行く先々で英雄や勇者、そして私の遣いとして持て囃される事でしょう!! 勿論貴方の活躍次第ですが!!」
もう特典でもなんでもない気がする。
それに英雄だの勇者だの。
そんなのは小学生やなんかなら目を輝かせるかも知れないが、俺くらいの歳になるとむしろ恥ずかしい単語だった。
「あと、えーっと、特典その五っ!! 今だけ平和な国のすごく平和な村に転移してあげちゃいます!! これはすごいお得ですよっ! 今異世界に行く貴方だけに授けちゃいます!!」
すごく押し付けがましかった。必死すぎてむしろ引いてしまう。




