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 外では千夏が片耳タイプのハンズフリーイヤホン越しに、通話していた。

「そう、じゃあそこで落ち合いましょう」

 純のアパートを出て10分ほど歩いた場所にあるコンビニに駐車してある白のワゴン車の後部席に千夏は乗り込んだ。

「ありがとうございます」

 千夏は助手席に座る少し腹の出た中年の男に、礼を言う。

「お疲れさま、千夏ちゃん」

「いえ、さほど疲れてはいません。それより今日はどうして? 迎えはADの田中さんと、カメラマンの佐々木さんくらいだと認識してたんですが」

「んー、興味あってねー」

 にやりと笑い、出っ張った腹を撫でている男、甘木達夫は千夏の方をミラー越しにみる。

「横取りするのは良いですけど、タイトルや司会者、女子アナ枠は私も噛ませてもらいますからね」

「んー、了解。さっすが燃えてるねえ。いろんな意味で」

 顎をさすりながら甘木は言うも、千夏はそれを無視し、窓の方を眺める。すると運転手を勤めていたADが、千夏に挨拶をする。 

「お疲れさまっす、大槻さん」

「お疲れさまです、今日はありがとうございます」

 窓から運転席の方へ視線を変え、千夏も返礼する。するとADは「で、どうでした? 寝たの?」とスウェット姿の茜を見て下世話な勘繰りをした。そのまま茜に先ほどの室内の様子を質問する。

「えー、そんなことあるわけないじゃないですかー」

「またまたぁ、スウェットそれ男物じゃない? なになに、教えてよー」

 作り笑顔で応対を進める千夏に、ADは矢継ぎ早に下世話な質問を繰り返す。

「いいなぁ、その男、女子アナの裸見れるとか羨ましいわー、ねえねえ千夏ちゃん」

 千夏はこめかみに青筋を立てるも、笑顔を崩さない。ADはそんな千夏の変化に気がつかず、「ねえねえ千夏ちゃん今度俺と二人で今後の」

「おい田中」

「す、すいません」

「謝る相手値がうだろ、なあ」

「あ、いえ甘木さん気になさらず。田中さん」

「ひゃち!」

 千夏の呼び声にADはびくりと背を振るわせる。そんなADの姿を感じ取り少し気が晴れた気がした千夏は、猫なで声ではなく凛とした声で「計画は予定通りに進めるわ。よろしくお願いします」と改めて協力を募る。

「じゃ、あの男も了承したってことですか?」

「そうね」

 茜は黄昏る様に窓からの景色を眺めながら、ぼそりと呟く。

「最後に勝つのは私」

「何か言いました?」

 運転席に座るADに尋ねられた千夏は笑顔で、「いえ、何も。それより収録頑張りましょう」とガッツポーズを作りながら笑っている。微笑まれたADもほっと胸をなで下ろした。

「でも見てみたいですよ、はやく」

 ハンディカムカメラを持ちながら、千夏の後部席にいた女性カメラマンが千夏に話しかける。「佐々木さん、いたんですか」

「あ、ひどい!」

 千夏に文句を言いつつも、「いましたよ!」とTシャツの袖をまくり、力こぶを作り笑っている。

「この腕活かすために来たのに、その言いぐさ! あっはっは」

「暑苦しいなあ、ふふっ、人選間違えたかも。どう思います、甘木さん」

 手を団扇のようにぱたぱたと動かす千夏を見て、佐々木は頭を手で押さえてて「がーん!」とマンガのような表現をしている。そんな佐々木の姿は車内を明るくさせる。佐々木の白い歯を見せて笑う姿につられたのか車内は賑やかなムードに包まれるも、千夏の中に潜む影に気が付くものは少なかった。

 --不貞働こうとしているのはあんたもじゃん、茜。かまととぶって、きもっ。


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