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「言いましたが何か誤りでも?」

「茜」

「純さんは黙ってください」

「こわーい。ねー純、ヒステリックは嫌よね」

 茜のターゲットは千夏。許せないのは純ではない、断罪すべきは千夏だ。愛する人の恋人を誑かす悪女、女狐。彼女が純に絡んできたせいで、自分は純に嫌われたのかもしれないと茜は無意識で判断していた。そのせいか視線は純ではなく千夏をじっと見据え、まるで獣同士のにらみ合いのようだった。目をそらせばすなわちそれは負けを意味する。

 板挟みに立たされた純の心臓が警笛を鳴らす。睨みつけられて身が竦む様はまるで蛙の様に滑稽だ。けれど言わなければならない。だって、なぜなら――

「茜、さんが、心配だから」

 やっとの思いで口にした言葉に、茜は思わず千夏ではなく純の方を振り向いた。千夏も同様で、犬猫の喧嘩の様に茜をじっと見ていたにもかかわらず、先の発言をする純を信じられないといった様子で視線を向ける。 

 茜は純の手の力が強くなっていくことから、今の言葉が嘘ではないことを理解する。それと同時に、何が心配なのかを純に尋ねることにした。

「なぜですか?」

 自分は無傷だと主張する茜に純はそうではないと首を振った。ますます理解が出来ないと茜は純に理由を尋ねる。すると純はゆっくりと、言葉を噛みながら口を開いた。

「家族、だから」

「家族?」

 何を言っているんだと茜は思わず首を傾げた。その姿を見た純は自分でも何を口走っているんだと、恥ずかしそうに顔を真っ赤に変えていく。

「ち、違うんですか?」

 純は沙織と一緒に暮らしていたからこそ、純と沙織の生活を支えていたのが彼女だと知っているからこそ、本心を述べる。その愚直で言葉足らずな男の言葉に、茜は嬉しそうに微笑んだ。頭に上った血が、一気に冷めていく。

 ――そうだ、張り合う必要なんてないんだ。

 以前決めていた線引きが、千夏を前にしてあいまいになっていたのだ。

 ーーふふっ、そうだ、そうだった。

 我ながら情けないと茜は反省する。その様子に気が付かない純は、「え、ええ。だ、だって言葉もだけど」と話を続けようとしていた。そんな純を見た茜は、純の手を優しく握り返して口を開いた。

「ええ、そうですね」

 先までの刺々しさは鳴りを潜め柔らかく微笑む茜とは対照的に、千夏の心中は穏やかではない。

 --何良い感じの雰囲気作ってるのよ。

 純の横に立ちながら、けれど今度は逆に千夏の方が侵略者、ここに存在してはいけないと言われているような気分になった。茜が純の事を好きなのは違いない。だからこそ突っかかってくるのだろう。千夏はそう分析し、だからこそ煽り返した。一瞬盛り返したと思った矢先に、純の発言が一気に大勢を決めた。それが問題だった。


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