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「鎖につながれたふりして、かまととぶって八つ当たりする女よりましですよ。ね、純」

 男女の友情と称し、純にボディタッチ、ハグをする千夏を見て茜は確信する。この女は嫌いだ。茜は思わず千夏をにらんだ。その姿を見て千夏は逆ににやりと笑う。そしてあてつけの様なふるまいを止めない千夏は、間違いなく気が付いている。茜が純に好意を抱いていることを。

「純、今度遊びに行こうよ。駅前に純の好きそうなご飯屋さんがあるんだ。角煮とか煮魚がおいしいの。ね、行こうよ」

 食べ物の話題となり、純の耳や興味が千夏へと移っていく。予想通りに純を釣れたことで、千夏はなお休日にお出かけをせがむ子供の様に、純に抱き付いては甘える。その姿は彼女自身が嫌う少女性を垣間見せる。

「そ、そんなうまいの?」

「おいしいよ~、ふわっとして、トロっとして、私のおっぱいみたいに柔らかいよ」

 ほら、こんな感じ。と千夏は体をさらに純に押し付ける。服越しながらも千夏の胸の弾力や、湯上りの彼女の甘いボディーソープのにおいに純の鼓動は速くなる。

「ね、行こうよぉ」

 千夏に耳元でささやかれ、そして自身の脳内で大きく膨らんだ湯気が昇る照り輝く角煮に純は思わず二つ返事で頷いてしまうところだった。けれどそんな純を正気に戻すために、彼女は純の胸ぐらに手をかけ自身の方へと力強く引っ張った。

「純さん」

 氷水をぶっかける様に、沖茜は純の胸ぐらを掴んで言葉を吐いた。

「食事なら私が作ってあげますよ。いつでも、どこでも、呼ばれればすぐに、あなた好みの最高の料理をね」

 貴方の好みは熟知していると茜は事務的ながらもはっきりと告げる。

「純、私の料理は好きですか?」

「は、はい、好きです」

 純の好きと言う言葉を聞いた茜は、嬉しそうに純を抱きしめる。感情的な茜に驚いた純、茜が純に抱き着いたことで純から引きはがされる形となった千夏の反応は様々だ。

「私も好きですよ、純の事は好きですよ」

 心に刷り込むように茜は二度つぶやいた。

「あ、茜さん?」

「いけませんか?」

 はっきりと人前で好意を発表されては、いくら恋愛に興味が薄い純でも意識せざるをえない。抱き付いてきた茜の背に手を回しながら、純は彼女の名前を呼んだ。けれど茜はそんな純の口を人差し指で塞いで、笑った。

「ほら、帰りますよ。今日の晩御飯は豚の角煮ですよ」

 茜の味付けは逸品だ。店で出せるレベルと言っても過言ではない。ただレシピ通り作っているだけと言う彼女の料理は、流れ作業の様に洗練され、つけ入る隙も無い。

「このくそ女!」

 千夏は今にも薄いアパートの壁を殴って壊しそうな勢いで、茜に毒づいた。そんな彼女の姿に千夏が茜をライバルと見なしていることを確信させる。牙をむいて物言いをつける千夏に茜が憐れむように微笑んだ。


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