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家主兼エステシャンの終了の合図とともに今度は純の体にシャワーがかかる。少々ぬるめの、純好みの絶妙な湯加減。
「立ってください」
彼女は純を規律させるとシャワーと手により背中の泡を落とす、終われば次は臀部や脚部を綺麗にするとシャワーをかける。
「も、もういいですから」
あまりにも至れり尽くせり、でも緊張はいつも以上。不可思議な感覚に耐えきれなくなった純は彼女、茜からシャワーを奪って体にかける。茜とは違う雑にシャワーを浴びる。強めの水圧で一気に泡を流すと、浴室から出ようとした。そして反転して初めて彼女と対峙する。両手で胸を隠して火照った表情の茜と。
普段とは違い肌色率の多い恰好、谷間もはっきりと見え、手で隠された先には男として興奮せざるを得ない、女性の象徴が、
「な、なんて恰好……水着?」
「やはり浴室で水着はマナー違反でしたか?」
「そうじゃなくて!」
水着の肩ひもに手をかける茜の手にストップをかけ、純は首を横に振った。首を横に傾げ、茜が純の言葉の真意を尋ねる。ビキニタイプの白い水着は少し火照った彼女の白い肌にはとても似合っていた。
「では下を」
「脱がなくていい!」
あれ、この人こんなにポンコツだっけ? 疑問を抱かずにはいられないと純は茜の顔をじっと見る。そして顔や肌に純を洗った際に付いた泡が見受けられたため、純は弱めの水圧、少しぬるめの温度のシャワーを浴びせた。
「ありがとうございます、優しいですね」
「借りは返す主義なので。それに洗ってくれて汚れたじゃないですか」
茜の手を取りシャワーをかける。指、手、腕。ムダ毛の無い滑らかな肌。
「不思議な感覚です。洗いにくければ上も下も脱ぎますが」
「脱がなくていい!」
言葉尻が強くなりつつ、茜の胸部にシャワーをかける。形の良い胸のラインがくっきりと浮かび上がり、思わず純の顔が赤くなる。
「水着フェチ? 人の趣味はそれぞれですが」
「それも違う! 考え込まないでいいですから、ほら、上がりますよ」
シャワー終了、泡もすべて流し終えたと純はお湯を止める。そして自身の胸の形を確認するように触っている茜を見て、純は水着を着てくれて本当によかったと心からホッとした。そして誘うような手つきで自分の胸を揉んでいる彼女の腕を引き浴室から出ると、自分に用意された厚手のバスタオルで彼女の髪に付いた水気を取り始めた。
「これでは立場が逆では?」
「いいんですよ、ほら、目をつぶって」
純はタオルの毛が目に入ったら困ると、目を閉じるよう指示を出す。タオルについては自分の髪をがさつに手入れするときとは違う、優しく、髪を包み込むように彼女の髪に付いた水分を取っていく。優しく、優しく。
その手つきはどこか懐かしく、茜は沙織と出会ったばかりのころを思い出した。あまり美にこだわりを持っていなかった彼女に髪は女の命とばかりに親身に、熱心に手入れの仕方を教えてくれた沙織のことを。
体についても同様で、彼女の触れるとわかる少し筋肉質な背中にタオルをあて、水滴を取っていく。腕も、足も。茜が対面するように次は前だろうと、純の方を見る。そしてこれは邪魔になると肩ひもを、後ろの紐を解いて胸を露わにさせようとする。けれど恥ずかしかったからか純は茜の顔にタオルを投げつけると、「後は自分でお願いします」と体をふくのを放棄した。そしてみてはいけないものを見たかのように、彼女に対し背中を見せる。
「では次は私ですね」
茜は先ほど自身に使用されたタオルで純の体を拭いた。別にタオルがこれ一枚しかなかったわけではない。けれど彼女は少し水分を含んだタオルで彼の体を拭いた。そのタオルは自身の匂いと、彼の石鹸の匂いが混ざったどこか安らぎを覚える匂い。
「……ありがとうございます」
ぼそりと漏れる茜の言葉。
「何か言いました?」
純の問いかけに茜は答えなかった。けれどその代わりにバスタオルが床に落ちる音がした。
「何も、ただ、今は……」
少し甘えたい。子供じみた理由を言葉に出せなかった彼女は体でその問いに答えた。純の背中に柔らかいモノ、小さな突起があたる。紅潮する顔と、こわばる体。けれど茜の腕が震えていることを知ると、体の緊張がほどけていった。そして意識は茜の方に向けられる。顔を向けることは出来ないが、彼女の今の気持ちが今の純にはわかるような気がした。沙織の反抗期、というワードが脳裏に浮かんだ。
「……まいったな」
――湯冷めしちゃうよ……いや、そんなこと言っている場合じゃないな。
拭いたはずの背中が湿っていく。茜はあと数分、純の背中に体を預けた。その間純は一言も言葉を発しなかった。ただただ背中を貸すのみである。




