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「はぁ、まったく」

 頭を洗いながら純はぼそりと呟いた。長い髪に絡んだ肉がなかなか落ちず、べとべととする。二度目のシャンプーをしながら、少し強めにブラッシングをするように両手で強く髪を洗う。もう面倒くさくなってきた純はいっそのこと石鹸で髪がバリバリになるくらい洗おうか検討を始めていた。

 少し髪がゴワゴワするくらいならいいか。男ならではの適当さ、それにそのまま体を洗えば楽だ、効率的だ。石鹸で全身を洗える。そうしようそうしようと純が思っていると、がらりと風呂のドアが開く音がした。慌てて振り返るも、泡とお湯で濡れて顔に張り付いた髪で何も見えない。むしろ目を少しでも開ければ石鹸が激痛となり襲ってくる。

 突然の乱入者は持っていたタオルにボディーソープを数度プッシュすると、麻と絹で出来たタオルで純の体をこするように磨いていく。背中を、一人で洗うには洗いにくい背骨の上も肩甲骨付近も、丁寧に。よく泡立てられたタオルで体を洗われている純の背中がみるみるうちに泡で真っ白になった。洗っている茜の手も泡まみれになっていく。

 体を洗ってもらうなんていつ以来だろう、純は昔を思い出しながら柔らかいタオルの感触、優しい茜の手の動きを堪能する。小学一年生、いや、もっと前に父と入ったのが最後だっただろうか。時折家族で温泉に行くと父の背中を流しあった経験はあるが、それとはまた違った雰囲気、優しさが茜から伝わってくる。

「茜さん、気持ちいいです」

 今の気持ちを素直に口にする純に対して茜は仕事をするときの事務的な口調で次の指示を出す。仕事モードに入っている様子の彼女に対し、純は素直に従った。

「純さん、両手を高く上げてください。万歳をするように」

「こうですか?」

 泡が茜にかからないように注意しながら純は降参するように両手を高く上げる。すると茜の細腕がわきの下をするりと通り、純のへそ付近へ両手がぴたりと吸い付いた。純の背中にも柔らかいものが二つ、ぴたりと押し当てられる。慌てふためく純の体をつつーっと通り両乳房の間へ。そのまま両手は散開。左右に散った絹の様に柔らかな手のひらが純の桜色の突起部を覆った。

 こするように、時には羽毛が一瞬かすめる様に彼女の指先が桜をつまむ。波状攻撃を受けた純の体は背筋が一瞬で伸び、こわばってしまった。彼女の右手が矛先を変え、そのまま外側へ進む。向かう先は窪み。人体の急所ともいえるわきの下だ。うっすらと映えはじめとも思える少な目、細めの茂みを

 上半身をくの字に曲げてくすぐったさから逃げようとする純と、その茂みの奥にあるお宝を探る彼女の手。くすぐりに極度に弱いのか脇を触れられるたびに純は悶え、彼女の手から逃れようとする。

「暴れないでください、洗いにくいです」

「無―理ぃ!」

「わがままな」

「あんたがね!」

 気の抜けたコーラのような口調の茜の攻めを受けつつも、純も負けてはいない。泡の付着した体の滑りを利用した純は何とか彼女の魔の手から逃れることに成功する。けれどまだこれでクリアではない。純には大きな課題が残っていた。

 目である。

 シャンプーの途中だった純は目を開けることが出来なかった。だからこそ手探りでシャワーホースやヘッドを探す必要があった。手探りに中や適当につかんだものを握ってみる。シャンプーボトル、似たようなボトル、蛇口! くそ、水道側か。

 茜の手が弱まっている、むしろ体から離れた。このアワアワぬるぬるの石鹸ボディに対し対策を講じているのだろうか、けれど純にとっては体に泡が残っている今がチャンス、この機を逃すべからずといったように、純は闇雲に何かを握る。その手首を茜はつかんだ。

「シャワーを浴びさせない気ですね、そうはいきませんからね」

 手首を掴まれたことで純はその先にシャワーが存在していると確信する、だからこそためらいなく純はその先にあるものを掴んだ。

 ふにゃり

「あっ」

 出てきたのはお湯ではなく、艶やかな吐息だった。

「ば、ばかな」

 シャワーじゃないだと? 純はそんなはずはないと再度手を離して同じ場所に手を伸ばした。

 ふにゅっ

「あんっ」

 今度は茜の口から甲高い色っぽい声が漏れる。びくりと反応を見せる純の手のひらには柔らかいが張りのあるモノが握られていた。これってもしかして……シャワーを浴びていないにもかかわらず、彼の体からジワリと汗が噴きでている。おそらく自分が握っていたのが茜の胸部であるだろうと純は推測し、手を離した。そして焦りギアがトップに入った心臓を落ち着かせるために、シャワーを浴びようと考えた。まだ髪に付いたシャンプーが目に入る痛みを覚悟して純は目を開いてシャワーを探す。そしてできる限り肌色を視野に入れないように風呂場を見て、ものの見事に数秒でシャワーの位置を把握して目を閉じる。そしてレバー式の蛇口を下げた。

 最初だけ冷水が頭にかかった。小さな悲鳴を純は上げつつ、早くこの現場把握をしなければとためらわずにシャワーを浴びている。徐々に徐々に気持ちのいい温度のお湯が癒しの雨として体にかかる。しゃかしゃかと指で頭部の泡を落としていると、不意に指が増えた。

 純自身の思惑とは別に稼働する五本の指。指の腹で純の頭皮の汚れを落としていくその指の持ち主は純の手からシャワーを奪うと、美容師の様に純の頭を丁寧に洗う。それは気持ちの良いものだった。純の脳を、かゆみ、洗う癖を把握しているかのように適宜シャワーの水圧を変え、洗髪を続ける。

「終わりです」



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