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--キモイキモイキモイキモイキモイキモイ。
千夏は内心、自分たちの仲を引き裂いたライバルを罵倒しつつも、表面上では笑顔の仮面を装着し、談笑の輪に入っていく。そしてその中でも仕事の事は忘れていない。
「千夏さん、相談なんですけど!」
「耳元はやめて、耳元は」
耳を押さえる千夏を見て、慌てて佐々木は謝罪をする。大声で。それを受け千夏も両手を耳栓代わりにし、耳にかぶせる。
「す、すみませんです!!」
「で、な、なに?」
「番組作るには、もっと画が必要だと思うんですけど」
佐々木はテレビで扱うには、もっと多面的な絵が必要だと提言する。千夏も同意し、意見を仰ぐ。
「どんなのがいい? 佐々木さんの意見を聞かせてもらえるかな?」
「やっぱり日常! 食事、起床シーン、あ、あと歯磨きとか」
「朝のイメージが必要ってこと?」
「あ、いえ、そうではないんです、ええっと、そう! 学校のシーンとかも」
佐々木は身振り手振りを大きくし、自分のイメージを千夏に伝える。千夏も彼女の意図を汲むために、質問する。
「ギャップが欲しいってこと?」
「そう、そうです! ぐっときてぱぁっと」
はっと閃いたように佐々木は提案する。それを千夏は真剣な眼差しで聞いていた。その佐々木の提案に車内が一瞬静まるも、「確かに」と男性陣は同意した。それを見た佐々木は両手を叩いて快活な音を響かせると「ですよね!」と声を上げた。それを見て千夏も笑顔を見せる。
「佐々木さん、ナイスです、ありがとう」
「いいねぇ、これが成功すればコスパ最高の番組ができるよ」
甘木プロデューサーも背中を押している。拍手。
佐々木にお礼を言い、ぎゅっと佐々木を抱きしめる。体育会系の佐々木の体は女性にしては筋肉質で堅い。抱きしめられた佐々木はぎょっとした表情を見せるも、嬉しそうにはにかんでいる。
--やっぱり。
千夏の顔が悪魔のような笑顔に変化する。
--私が一番ふさわしい。
火蓋は切られている。
「遠慮は無用だよね」
「?」
「ううん、こっちの話」
千夏は子供をあやすように、佐々木の後頭部を撫でている。そして彼を懸想する。純の事を想像すると、なんだか心が熱くなる。千夏は悪くないな、とクスリと笑った。
--いつかは彼と、ふふっ。
100話!




