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作者: 公

 追いかけても追いかけても、貴方はすぐに見えなくなってしまう。

 そして、私のほうを決して振り返らない…。まるで、私などそこに存在しないかのように…。そうして、貴方はいつも私ではない誰かと幸せそうに笑っている。それが陰でどんなに悪く言われている人であろうと、貴方にとってはとても素敵な人で…。

 正直、私のほうがあなたを幸せにできるとそう確信があって…。だから傍にいて私のほうを振り向いてくれると思っていた…。けれど、本当は幸せにするとかいう綺麗な愛を誓うものじゃなくて、ただ傍にいて欲しいという独占欲に近い想いだけで、貴方を縛り続けてた…。

 その度に、思い知る。貴方の中に「私」という存在はなくて――視界にすら入っていないのだと。 そして、何度も何度も苦しい想いをひたすら繰り返して、繰り返してようやく知った。

 ああ、そうか。私は君に必要ないんだ、と―――。貴方にとっては、私は害になる存在でしかないんだと―――。

 気づかなかったのです。自分の思いがあなたの害になっていることに…。貴方も苦しめていることに…。


 だからね、もう、貴方を想い続けるのは、これで最期。無限に回り続けたこの物語からも解放される。そうすれば、貴方はきっと幸せになれるのでしょう?苦しまずにすむのでしょう?

 

 最後に一つだけ――はじめてあったあのときから、ずっと「大好き」でした―――。



 そういったその人は幸せそうに満面の笑みを見せると、瞬く間に見えなくなった。その時確かに、締め付けていた何かが、押し込まれていた何かが解き放たれる気がした。

 その人は、幸せになれるといった。そう、幸せになれると――。だけど、なぜだろう―――。胸の奥が締め付けられるように痛むのは。あの人の儚くも満面の笑顔が脳裏をよぎるのは。眼の奥から溢れてくるこの雫はなぜだろう…。自分にとっては、まったく知らない人のはずなのに…、なのに、何故こんなにも胸が虚ろに空いている気がしてならないのだろう…。

 あの人は、どうして幸せになれると言ったのか、苦しまずにすむと言ったのか。これでは、まるで逆ではないか。どうしてこんなにも苦しい。どうして絶望の淵にいるような感覚がする。ああ、自分の幸せとは何だったのだろう。

 きっと、自分の中であの人は知らず知らずのうちに大きくなっていた存在なんだ。だから消えてしまってこんなにも悲しい。だけど、あの人は本当はここに存在してるはずがなくて、だから、居ないのが当たり前で…。そう、ぐるぐると考えをめぐらすけど、どうしても、納得できなくて。そうして知った。ああ、あの人のこんな気持ちだったのか、と。だけど、あの人のように追いかけることもできず、呆然としてしまった。できるわけがない、こうなってしまったのは、どう足掻こうとも自分のせいなのだから。追いかける資格なんてないのだ。

 そうして、自分が今度は彷徨うのだろう。自らの行動によって失ってしまった事実を抱えて。

 あの人は、こんな事考え付かなかったのだろう。解放するはずが、逆にとらえてしまうということなど。だけど、囚われてしまった。泡のように儚くて、輝くようなあの笑みに―――。






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