そして、男も動き出す ②
一気に書くといったな、あれは嘘だ。
すみません、もうちょっとだけ続くんです。本当にちょっとだけ
近くの『ゲート』まで送ってくれるというので、アヤはネルに続いて、地表の町を歩いていた。
濁った空は昼も薄暗いが、夜になると、さらにその闇は本物になった。
街灯はほとんど無く、宇宙船が発着するための巨大なサーチライトが空に飛び交っているのが、唯一人工的な明かりと言えた。
点々とある民家は火が焚かれ、たまにすれ違う人のほとんどがアヤをにらみつけてきた。
「そんなに怯えて、よくここまで来れたね。」
ネルがあきれながら言う。
アヤも不思議だった。本当は人一倍怖がりで臆病な自分が、よくここまで来られたものだと。
「む、夢中だったから。」
「フフ、いい性格ね、大事にしな。」
「は、はい。」
「だから、あのバカも動いたのか。」
「―――ジンさんのことですか?」
「ジンでいいよ。あいつ、さん付けで呼ばれるの嫌いだから。そうね―――ガキの頃は、今よりもうちょっと熱かったんだけどね」
「熱かった?」
「ま、ただ改造SB乗り回してたやんちゃ坊主だけどね。でも熱はあった。若い連中のリーダーで―――ペンギン。」
「は?」
「あいつがよく言ってたんだ。『俺たちは空にあこがれながら地面をヨチヨチ歩いてるペンギンだ』って。」
ペンギン。地下には種の保存のためという名目で様々な動物が保護され、人工繁殖を行っているが、実物を見たことは無かった。
少し惚けたようなネルの表情に、アヤが思っていたことをぶつける。
「あの、ネルさんって、ジンさんの恋人―――」
しかし、ネルがアヤを鋭い目つきで見たので、あわてて謝った。
「あ、あああの、ごめんなさ……」
「そうだといいんだけどね。」
「へ?」
細くくびれた腰に手を当て、自分を笑うかのように苦笑して言ったネルの言葉に、おかしな声で返事をする。
「あいつは、ちょっと遠くを見てるかな……」
何か事情がありそうなのでアヤはそれ以上訊けなかった。
ややあって、地下へ続く『ゲート』が見えた。ここから先は、アヤたち地下市民でなければ入れない。
「送ってくださってありがとうございました。ここからは大丈夫です。」
「そう、こっちこそ、ありがと。アヤちゃんのおかげで、ペンギンがまた飛びそう。」
そう言うと、頭を撫でられた。見た目は綺麗な手だったが、その感触は少しざらついていた。
「また明日、来ますね。」
「ああ、待ってるよ。」
そして別れ際、耳元でこう付け加えられた。
「気を付けなよ。あいつ、天然の女たらしだから。」
ちょっとだけだったね 笑
これで第二部分は本当に終わりです。また明日。