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愚笑  作者: YAKUMO
3/3

 「おい、犬……」

 犬は無反応だった。まるで屍のように、そうではない。凄惨に清算されたその姿は見事な屍だ。断定できる。

 「おい、お前何が目的だ」

 「だから、さっき言ったでしょ。暇つぶしが目的」

 鉋崎は悪気など一切感じてないようであった。さも当然のように言う。

 「暇つぶし、だと」

 「そうだって。私は暇つぶしに犬を殺す。私は暇つぶしに世界を救う」

 世界を救う? 確かにそう言った。そういえば、俺が吸血鬼だとかどうとか意味が分からないことを言ってたな、と思い出す。

 「吸血鬼って何だ」

 「血を吸って生きる伝説の鬼」

 「そういうことじゃない」

 「うん、信じれないのは分かるわ。でも事実よ、証拠にさっきの包丁で刺した傷はなくなっているのだし」

 俺のわき腹の傷は綺麗さっぱりなくなっている。さっき刺されたことは確かなのにだ。

 「それでも俺はお前がゲームのやりすぎだと思っているぞ」

 「そ、あなたは正常だわ。でもこれから非情に異常になるでしょうけど」

 「回りくどい言い方はやめろ」

 「あなたは吸血鬼として私に協力して世界を救わなければいけない、私の暇つぶしのためにね、これは決定事項よ」

 鉋崎はそんなことを言った。

 「なら俺が吸血鬼である確固たる証拠を出せ」

 「いいわ、ついて来なさい」

 鉋崎はそう言って歩き出した。

 「おい、ちょっと待て」

 「何?」

 俺は犬の亡骸にせめてもの思いで合掌をした。

 「意外と真面目ね」

 「うるさい、連れてけ」

 鉋崎はまた歩き出した。

 鉋崎について行くこと十分少々。太陽はもう見えず、空は黒糖のような色だった。

 「ついたわ」

 そこは一軒の家だった。どこにでもありそうで、どこにもなさそうな家だった。

 空き家という感じの家とも捉えられたし、豪邸とも捉えられる家だった。

 「私の家よ」

 鉋崎はそう言った。

 「入って」

 鉋崎はそう言い、玄関の扉を開いた。

 家の中もやはり空き家とも豪邸とも捉えられる風だった。靴箱は大きいのにそこに一足も靴が入ってなかった。その靴箱の上に花瓶が載っていた。昔、小学校にあった花瓶に似ていた。

 「こっちよ」

 鉋崎は廊下を歩いていく。俺はそれについて行った。

 「この部屋よ」

 鉋崎はふすまの部屋の前で歩みを止めた。鉋崎はふすまを開ける。その瞬間、腐乱臭が俺の鼻を刺激した。

 「何だ、これ……」

 そこには二体の死体があった。しかも犬ではなく、人間の。人間の死体。

 「私の両親よ」

 鉋崎は俺の横から言った。

 「両親……?」

 「そうよ、二人とも死んでるわ。でも生きてるの」

 鉋崎は対義する二つの言葉を口にした。

 「生きてる? これが―――」

 「もの扱いするな!」

 鉋崎は俺の言葉に反応し、叫んだ。

 その時だった。俺は油断していた。こいつがどういう女だったかと。犬を何匹、何十匹殺している女だったのだ。普通ではない。吸血鬼であることの証明。二人とも死んでいるが生きていることの意味。もっと考えておくべきだった。そもそもこんな所に来るべきではなかったことは明白だ。

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