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来ヶ崎愛歌は日本女児である。  作者: 岡村 としあき
序:疾風! 来ヶ崎愛歌、参上!
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明日香のピンチ

「いや、ぼく、男の子……って、麗夢ちゃん!?」


「だーいじょうぶ、バレないない!」


 麗夢は強引に明日香の腕を取ると、嫌がる明日香を無理やり連れ込んだ。


 幸い、中には誰もおらず明日香と麗夢だけだ。


「我慢はよくないよ! 出すものちゃっちゃっと出す! そんで、すっきりしたら今度はブラも選びたいから、付いてきてね!」


「わ! あの、ちょっと麗夢ちゃん!」


 明日香は強引に個室に押し込まれた。そして、出ようとしても入口に麗夢が立ったままで出れない。


 それに、尿意がいよいよ本格的にサイレンを鳴らし始めた。このままでは下半身が洪水警報になる。


 仕方がない。仕方がないのだ。


 幸い自分と妹以外誰もいないので、さっさと済ませて出てしまえばバレないだろう。そう考えて、明日香はズボンに手をかけた。


 と、その時。


 急に大音量で水の流れる音が明日香の耳を貫いた。


「わ! びっくりしたあ」


 しかし、水は流れておらず、音だけである。


「そっか。この音が流れている間にしちゃえばいいんだ。いいな……これ。男子トイレにも欲しい」


 明日香は用を足す時、常に周囲に気を配っていた。そのため、女子トイレの消音設備にこの上なく感激する。


「お待たせ、麗夢ちゃん。開けて」


「はいよ!」


 麗夢が扉の前から離れ、明日香はようやく狭い個室から解放されると、手を洗いに鏡の前に立った。


 その瞬間、明日香の背後に大学生くらいの女性が現れ、明日香は一瞬硬直する。そして、一瞬目が合った。


「あ、ぁ……」


 明日香は内心、口から心臓が飛び出て目の前の鏡を叩き割るくらいに驚いた。


 バレた。バレてしまった。


 きっと、ぼくは変態として警察に突き出されてしまうんだ。そして、チカンで捕まって……ああ、今日の晩御飯まだ作ってないのに。麗夢ちゃん、インスタントラーメンばかり食べちゃダメだよ。お父さん、ちゃんとお洗濯物はシワ伸ばしてから干してね。


 と、心の中で後悔し、今までの人生が走馬灯のように蘇った。


 しかし、女性は何事もなく明日香の隣にやってきて、化粧を直し始めた。


 安心したのも束の間。さらにOL風のスーツを着た女性がやって来て、端のほうでたばこを吸い始めた。だが、こちらも明日香にまったく反応せず、ひたすら煙を口から吐き出し続けている。


 内心ドキドキしながらも、手を洗い、ハンカチで拭き終わると明日香はおどおどしながら出口を目指した。


「ね、大丈夫だったでしょ! だって、おにーちゃんカワイイもん!」


「あんまり嬉しくないよ……」


 バレなかったのは幸運ともいえるが、同時に男としての自分が否定されたような気がして、少しばかり傷付いた明日香であった。


「麗夢ちゃん。お兄ちゃん、疲れちゃったから、先にお外で待ってるね」


「えー!? あ、おにーちゃんてば!」


 麗夢が油断したスキを付き、明日香は一気にエスカレーターを駆け下りた。背後で騒がしい声がするが、振り向かない。


 そして、気が付くといつの間にか外に出ていた。


「あれ、ここ、どこだろう……」


 きょろきょろ、と明日香は周りを見回すが、不安が余計に倍増した。そして、もう一回転したところで、答えが出て泣きそうになる。


「迷子になっちゃった……どうしよう……」


 高校一年生にもなって、迷子。それも地元で。


 助けを求めるのも、なんだか嫌だ。けれども、進めば進むほど、曲がれば曲がるほど自分の知らない場所に出て、混乱は増すばかりという、負のスパイラルが明日香に襲いかかる。


「麗夢ちゃ~ん……ナイトく~ん……九条院さ~ん……さびしい……」


「おう? 見ろよ、あいつ。今朝の奴だぜ?」


「え?」


 不意に前方から声がして、明日香は嬉しくなって駆け出した。


「あ」


「こいつはいい、今朝の仕返しをしてやろうぜ、みんな」


「ヒヒヒヒヒ」


 それは朝方、愛歌に叩きのめされた不良たちだった。

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