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来ヶ崎愛歌は日本女児である。  作者: 岡村 としあき
序:疾風! 来ヶ崎愛歌、参上!
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明日香の言葉遣い

「あの、えっと……」


 もじもじしながら明日香は前に出ると、自己紹介を始めようとした。


「紹介するね! 麗夢のおにーちゃん! へへ。カワイイでしょ~?」


 妹にカッコイイではなく、カワイイと紹介される兄、明日香。当の明日香は恥ずかしさのあまり、視線を下にしたまま妹の背に隠れた。


「え!? うそ、お兄さん……なの? えっと……お姉さん、じゃなくて? ……そんなに可愛いのに」


「うん。自慢のおにーちゃん! 目に入れても痛くないよ。料理はプロ級だし、掃除も洗濯もそこらの主婦顔負けだからね!」


「あの、麗夢ちゃんの兄、明日香です。よろしくね」


 おそるおそる前に出た明日香に、麗夢の友達アイちゃんが、いきなり抱きついた。


「わ」


「明日香さんって、柔らかくって、いい匂いがする。うちの兄貴とは大違い。……いいなあ。私もこんなお兄ちゃんがいたらなあ。ねー麗夢ちゃん、うちの兄貴あげるから、明日香さんちょうだい!」


 麗夢も負けじと明日香に抱きつく。


「だ~め! これは麗夢のモノなの~!」


「ケチ~! じゃあ、今度レンタルさせてよ! 麗夢ちゃんが欲しがってたDVD、あげるから」


「え、マジで!? どうしよう。一日くらいなら……う~ん」


「麗夢ちゃん、迷わないでよ。あと、ぼくは物じゃないんだから」


「あ、ごめんごめん! それじゃアイちゃん。麗夢、行くね。これからおにーちゃんとデートだから! ばいばいー」


「うん、ばいばいー。明日香さんも、ばいばいー」


「あ、うん。バイバイ」


 そして、明日香は麗夢に引っ張られ、下着売り場までやってきた。やってきてしまった。周りの女性達は明日香に対して、何一つ疑おうとしない。と、いうか女性下着売り場に立つ明日香は、自然にその場に溶け込んでいた。


「う~……恥ずかしいよ、麗夢ちゃん。やっぱり、ぼく……」


「いいからいいから! あ、このショーツ可愛い。ブラとセットなんだあ~。スパンコールが付いて、キラキラしてるぅ。でも高! ふざけてるねこの値段。死ねって感じ。おほ! クマさんパンツ発見! おにーちゃんにこれ、はかせちゃおっかな~」


「あ、あの?」


「どう、おにーちゃん? この真っ赤な紐パン! 情熱って感じだよね~。やっぱ勝負するなら、コレかなあ? うっひゃあ! このTバッグ、フリルが付いててエロ可愛い! おっし、決めた! これにしようっと」


 まるで、アマゾンのジャングルのような女性下着売り場を踏破していく麗夢に、明日香はただうつむきながら、黙ってついていくしかなかった。


 見てはいけない。それだけが頭の中を支配している。


 ここにいてはダメだ。ぼくは男の子なんだから。そう考え直し、明日香はおそるおそる麗夢の顔を見上げた。


「麗夢ちゃん。ぼく……」


「どしたの、おにーちゃん? そんなもじもじしちゃって……あ、ションベン?」


「ちょ、ちょっと! 麗夢ちゃん、そんな汚い言葉使っちゃだめ!」


「ん~と、おションベンでございますか、おにーちゃん様?」


「あのね……」


 明日香はため息を吐いた。時折麗夢は言葉遣いがすこぶる悪くなる。その度に言い聞かせているのだが、一向に直る気配がない。母親がいない分、自分が母親代わりを務めているが、やはりそれでも限界があるようだ。


「えーと。便所どこだっけ」


「お化粧室って言おうね、麗夢ちゃん……」


「お、あった! あった! 麗夢、ここで待ってるから行ってきなよ!」


 無理やり連れてこられた明日香であったが、いざ男子トイレの前に立つと、下腹部に予兆を感じ、中に入って用を足すことにした。


 しかし、男子トイレは小も大も全て埋まっていた。諦めて外に出ると麗夢が駆け寄ってくる。


「あれ? もう終わったの?」


「ううん。埋まってたんだ……しょうがないなあ。下の階に行ってくるよ」


 麗夢から逃げるちょうどいい口実ができた。明日香は内心喜んだが、麗夢の次の言葉で氷付いた。


「じゃあ、こっちでしたら?」


「え?」


 WOMAN ONLY。その二つの英単語が明日香の思考を停止させる。


「こっちって……女子トイレ?」


 麗夢の人差し指は、女子トイレに向けられていた。

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