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来ヶ崎愛歌は日本女児である。  作者: 岡村 としあき
序:疾風! 来ヶ崎愛歌、参上!
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明日香の妹

 六時間目の授業が終わり、明日香にとって激動の一日が終息しようとしていた。残るはホームルームのみとなった状態で、明日香はメールをチェックする。


「あ……麗夢(れむ)ちゃんからメールだ。何だろう?」


 麗夢。明日香の二つ年下の妹で、中学二年生である。日比谷家は父、総一郎。長男、明日香。長女、麗夢の三人家族で、家族仲はとても良い。


 メールには、『おにーちゃん、今日給料日でしょ? 晩ご飯のお買い物ついでに、麗夢に新しいお洋服買ってー、オネガイ!』と書かれていた。


 ちなみに日比谷家の財布は明日香が預かっているので、給料日になると、麗夢のおねだり攻撃が激しさを増すのだ。


「もう、麗夢ちゃんたら」


 しょうがないな、と。携帯の画面を見つめながら、明日香は困り半分、愛しさ半分に笑った。


 『いいよ。麗夢ちゃんの好きな物買ってあげるからね。待ち合わせはどこにしようか?』と、返信する。


 するとすぐに返信がやってきた。『やったー! 麗夢、おにーちゃんの学校の校門まで今すぐ行くね! おにーちゃん大好き!』と、微笑ましいメールが返って来て、明日香は少しこそばゆい気持ちになった。


「よっぽど嬉しかったんだろうな、麗夢ちゃん。あはは」


「明日香様!」


 明日香が携帯をポケットに戻した瞬間、命は席を立ち明日香の机の前まですっ飛んできた。


「……そうですわ、明日香様! 今日の放課後、わたくしの別荘に行きませんこと?」


「あ、ごめんね。学校終わったら、妹と約束があるから」


「妹! な、なんと……わたくしも、明日香様の妹に生まれたかった! そ、そうですわ! 今すぐ九条院家の養子となってください、明日香様! そ、そ、そして、わたくしのお兄様に……ハアハア。い、いいえ! むしろ弟に……わたくしをお姉様と、きゃああああ! わたくし、死ぬ! 萌え死ぬ!」


「あ、あはは。そうだね、九条院さんみたいなお姉さんがいたら、ぼくもきっと楽しいと思う」


「ぬをををを!?」


 一瞬で教室に血の池ができた。


「お、おい! 誰か救急車呼べ! 九条院が鼻血で倒れたぞ! このままじゃ失血死する!」


「わたくし、もう、死んでもいい……、ああ、明日香様。できれば最後はあなたの胸の中で……死にたかっ……た」


 大仰なセリフをしゃべると、命は力尽きた。


「フ。短い間だったが、九条院。お前とは幼馴染を巡るいいライバルだったぜ。あばよ。安らかに眠れ。俺が冥福を祈ってやる」


 ナイトが命の側にやってきて、ひざまずくと、命の制服から財布をこっそり抜き取ろうとした。しかし、急に命の右手が動いてナイトの手首をつかむ。


「ひ!? い、生きてやがったのか、九条院!? さては、ウィルスに犯されてゾンビと化したな!」


「わたくしは死にませんわ! この程度の鼻血、毎日噴出しておりますもの! 血塗れの美少女、九条院命は、フェニックスのように、何度も蘇りますのよ! 明日香様と愛の力がある限り!」


 命は血の池と化した教室の床から立ち上がると、両手を羽のようにはばたかせ、飛び立とうとした。


「はいはい二人とも、ホームルーム始まるよ? 早く席に着いてね」


 明日香はすかさず雑巾で床をキレイにすると、ナイトと命を席に着かせ自分もまた席に着いた。


「まったく、本当に面白い連中だな。見ていて飽きん」


 愛歌は腕を組み、クールに笑う。冷静な瞳のまま、今日授業で習ったところを復習していた。  


「ごめんね、騒がしくて。うちのクラス、いつもこうだから」


「構わん。真面目が服を着て勉強しているような学校では、何も面白くないからな。学校は勉強を学ぶだけの場所ではない。時にはこういった騒がしく面白おかしい時間も必要だ。それがいずれ華々しい思い出になる」


「なんだか、来ヶ崎さんって達観してるんだね。すごいよ」


「そうでもない。私はまだまだ未熟。修行の毎日だ」


 愛歌は勉強の手を止め、明日香に向って微笑むと、明日香の頭をそっとなでた。


 そして、明日香はホームルームが終わると、クラスの女子から手を振られ、教室を出た。


「明日香ちゃん。また明日ねー!」


「あ、明日香ちゃん。今度、おいしいお菓子の作り方、教えてね!」


「明日香ちゃん、女子バレー部に入ってよー! 明日香ちゃんならばれないって!」


「あは。みんな、バイバイ」


 そして、下靴に履き替えて校門まで行くと、明日香は麗夢の姿を見つける。


「おにーちゃん、遅いよー!」


「ごめんごめん。クラスの女の子が、鼻血で倒れちゃって……掃除したり、色々やってたんだ。ごめんね、麗夢ちゃん」


 茶色の可愛らしいブレザーの制服に身を包んだ麗夢を前に、明日香はペコリと頭を下げた。兄の威厳はまるでない。


 それに対し、麗夢は勝気そうな笑みと、ヒマワリの髪飾りを左右に引っ付けた頭で、肩まで伸びた髪を強気に揺らした。


 麗夢は、中学二年生ではあるが、身長は百六十センチと、明日香よりも少し高い。周囲からは兄妹というよりも、明日香の容姿もあって、姉妹のように見られてしまうことも少なくなく、明日香はその度に、兄としての威厳について深く考えるのだった。


「行こ! おにーちゃん」


「うん。行こうか。まずは銀行に行ってお金を下ろさなきゃね」


 明日香と麗夢は手をつなぎ、駅前にある銀行へと向った。そして銀行でお金を下ろすと、麗夢は明日香の手を引っ張ってデパートに直行する。 


「麗夢ちゃん、今日は何を買うの?」


「うん。新しい下着。また、胸が大きくなっちゃってさあ……そうだ。おにーちゃんのも選んであげようか? ブラジャー」


 ブラジャー。その単語を聞いた瞬間、明日香は耳の先まで真っ赤になった。


「ちょっと、麗夢ちゃん……からかわないでよ、もう」


 ニヒヒ。と、小悪魔のように麗夢は笑うと、明日香の腕に抱きついた。


「ごめんね、ごめんね! 麗夢、おにーちゃん大好きだからさ! ついつい、いじめたくなっちゃうのよね~」


 エスカレターで女性下着売り場まで来ると、明日香はエスカレーターの前で立ち止まった。


「麗夢ちゃん。ここからは一人で行っておいで。ぼくは下で待ってるから」


「え~!? おにーちゃんも行こうよ! 絶対バレないって! あ、なんならそこでお洋服買って、女装する? 麗夢が可愛いの選んであげるよ。麗夢の体操服でいいなら貸してあげるけど」


「もう、麗夢ちゃん。お兄ちゃんをからかわないでください……」


 明日香が狼狽しながらそう言うと、背後から可愛らしい声がした。


「麗夢ちゃーん!」


「お、アイちゃん! 偶然ー。運命の出会いだね!」


 どうやら麗夢の友達らしい女の子が、キャッキャッと駆け寄り、麗夢と抱き合った。


「あれ? 麗夢ちゃん、家族と買い物?」


「うん! 新しい服買おうと思って。へへ!」


「えー。そうなんだ。いいなあ、妹さんとお買い物かあ、うちはバカな兄貴が一人いるけど、臭いし、うざいし、ケチだし、ぜんぜん使えなくてっさあ。ところで妹さん、何年生?」


 ああ、またか。と明日香はうんざりした。


 そう、明日香と麗夢は姉妹と間違われる。それも、麗夢が姉で、明日香が妹に。

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