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来ヶ崎愛歌は日本女児である。  作者: 岡村 としあき
序:疾風! 来ヶ崎愛歌、参上!
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明日香のお返事

「そうか。そういえば、日比谷は男だったか。危うく忘れてしまうところだった、許せ」


「ん、うん。よく間違われるから、別に気にしないけど……」


「すまんな」


 よしよし、と。愛歌は明日香の頭に手を乗せ再びなでた。


「いいなー、来ヶ崎さん、明日香ちゃんの頭なでてるよー!」


「私も明日香ちゃんに触りたいー。ううん、家に持って返りたーい!」


「スカートはかせたいよね。髪とかお手入れしてあげたいなー。メイクもしたりして……ああ、明日香ちゃんみたいな『妹』欲しいー」


 クラス中から湧き上がる、愛歌へ羨望の眼差しと明日香へ熱いラブコール。それを受けて、明日香は顔を真っ赤にして苦笑いした。


「あ、あはは。ね? こんな感じだから、もう慣れてるの」


「面白い男だな、日比谷は。ますます興味を持ったぞ。どうだ……家に来ないか?」


「え? 遊びにお邪魔するってことかな? それならぼく。クッキーか何かお菓子でも作って持っていくね! この前、豆乳でレアチーズタルト作ったんだ」


 満面の笑みで答える明日香に、愛歌は即座に次の言葉を畳み掛けた。


「違う。一緒に暮らさないか? と言っているのだ」


 愛歌の言葉でクラス中が一瞬静まり返った。


 ナイトは弁当箱のフタをなめるのをやめ、命は盗撮した明日香の体操服姿の写真を眺めるのをやめた。


「プロポーズだ! 来ヶ崎が明日香ちゃんにプロポーズした!」


「いやああ! 私の明日香ちゃんが来ヶ崎さんのお嫁にいっちゃうう!」


「でも、クールな来ヶ崎さんと、明日香ちゃんなら、お似合いかも……」


「いいな、俺も来ヶ崎の家に行きたい……そんで、毎日踏まれたい」


 クラスは騒然となった。


「え、えっと。来ヶ崎さん、冗談。だよね?」


「私は本気だ。この来ヶ崎愛歌。くだらんウソと甘い物は好かん。それとも、言い方がまずかったか? そうだな……では、私の下着を洗ってくれ」


「え!? いや、あの、えっと。それも……どういう、意味?」


 突然、愛歌からのプロポーズに戸惑う明日香。耳先は真っ赤になっており、まるで花も恥らう乙女のように、身を縮こまらせた。


「ハレンチな! 来ヶ崎、幼馴染はお前にやらん! パンツなら俺が洗ってやる。だがそのままお持ち帰りさせてもらうがな!」


「そ、そうですわ! 明日香様の全てはわたくしの物! 明日香様の靴下からスプーンまで、現在、九条院センタービル地下二階にて、高価買取受付中ですのよ! ちなみに生パンは、一着百万から買い取らせていただきます! さらに三つセットで、十万上乗せしますわ」


 愛歌と明日香の周囲にナイトと命が詰め寄ると、狂気じみたオーラで口からH&K MP5サブマシンガンの如く、言葉を乱射した。ついでに唾とかも乱射した。


「む……少し遠回り過ぎたか。では単刀直入に言おう」


「え? あ、あの、ぼく……」


 愛歌は明日香の両肩をがっちりつかみ、顔を近づけるとこう言った。


「お前が欲しい」


 途端にクラス中から悲鳴にも似た歓声が巻き起こる。


「きゃーー! 来ヶ崎さんオトコマエー!」


「来ヶ崎さんが男の子だったら、結婚したいー! でも、明日香ちゃんと来ヶ崎さんなら、お似合いだよー!」


「来ヶ崎さん、明日香ちゃんを幸せにしてあげてね……!」


 しかし、その様子に愛歌は何が何やらさっぱりわからんという顔だった。


「何だ? 何故皆、そんなに興奮しているんだ? 意味がわからんぞ」


「えっと……来ヶ崎さん。いきなりそんなこと言われても、ぼく。困るよ」


 息も絶え絶えに声を振り絞り、明日香はなんとか返事をしようとする。


「……そうか。急いては事を仕損じる。また明日、返事を聞かせてもらおう。ではな、日比谷。君との昼食、実に有意義だった。礼を言うぞ」


「え、う、うん」


 愛歌が席を立ち、元の席に座ると同時に、昼休み終了のチャイムが鳴った。 


「お、幼馴染が俺の元から去ってしまう……これが、これが、娘を嫁にやる父親の気持ちなのか!? 俺は認めん! 決して認めんぞー!」


「そうですわ! 明日香様と初夜を迎えるのはこのわたくしなのに! そうだわ。来ヶ崎愛歌を九条院家の力で、事故に見せかけて亡き者に……ウォシュレットで肛門ブチやぶり作戦や、こたつでうっかり焼死とかなにそれ(笑)作戦や、九条院家使用人総勢おなら一斉射中毒死作戦を敢行して、この世に生を受けたことを後悔させてやりますわ……。わたくし、恐ろしい子!」


「二人とも、授業始まってるよ」


 ナイトと命は、五時間目の授業が始まっていることに気付かずに自分の世界にダイブしたままだった。

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