明日香の一言
「今、何て言った? もう一度言ってみろ」
ホールの中心で、リーダー格の男が明日香に銃口を向けた。
「あなた達は、卑怯です!」
爆発した。銃口が火を吹き、明日香に命中する。
「ほお? 発砲されても動じねーか。なかなか肝の据わったお嬢ちゃんだ」
弾は明日香の右頬をかすめ、壁にめり込んでいた。
「モデルガンだと思われて、ナメられたくなかったんでね。一応一発、どこかで撃っておきたかったんだが、ちょうどよかった」
「お、おい! なんてこと言ってんだ、お前! お前が逆らったら、俺まで殺されちまうじゃねーか! 余計なことしてんじゃねえ!」
明日香は中年のサラリーマンとペアで縛られていた。その片割れが、弾がめり込んだ壁を見て、恐怖と怒りの矛先を明日香に向ける。
「俺は何も悪くないのに……なんで、なんで、俺がこんな……ちくしょう!! こんなことなら、あと一回キャバクラ行ってりゃよかった……マユミちゃん……」
「おじさん……。あの、テロリストのおじさん。お願いがあります」
「あん? 何だ嬢ちゃん。一人だけ助かりたいのか? まあ、嬢ちゃんは器量が良いからな。考えてやってもいいぜ。ブルマをはいてりゃなおよかったんだがな」
「違います。ぼく一人が人質になります! だから、みんなをお家に帰してあげて!」
「ほお?」
「あなた達にとってもメリットだと思います。人質は数が多すぎると管理するのが面倒になる。団結して反抗されたら厄介だ。だから、あなた達は人の少なくなる閉店前を襲撃した。ぼくは、逃げも隠れも抵抗もしません。扱いやすい人質になります。だから……せめて他の人たちを家族の所に返してあげて!」
「お、おい。お前……」
「おじさん。お家に待ってる人がいるんでしょ? あの袋、プレゼントじゃないですか?」
明日香は、男が持っていた袋を見た。騒動の間に色んな人間に踏みつけられ、靴跡がいたるところに付いている。
「あ、ああ。今日、娘の誕生日で……中学二年生なんだ。昨日ケンカしちまってな……仲直りするきっかけが欲しかったんだよ……」
「娘さんと仲直り、ちゃんとしてくださいね」
「お、おい。お前!」
明日香はリーダーの男を見た。
「はっはっはっは! なんて勇敢なお嬢ちゃんだ。全員この嬢ちゃんに感謝するんだな」
リーダーは腕を上げて合図を送ると、他のテロリストが人質の拘束を解除していく。だが、それは人質すべてだけではなく、ちょうど半分に止まった。
その半分の中に、明日香とペアだった中年も含まれている。
「まあ、とはいっても。もう半分はここで楽しく俺とおしゃべりでもしてもらうが。ああ、お嬢ちゃんはボスのとこに行ってもらうぜ。俺たちの保険になってもらう」
「……わかりました」
「おい、ファングのとこに連れてけ」
「は!」
リーダーがアゴで合図すると、明日香はテロリストに銃を背中に突き付けられ、エレベーターの扉前に移動した。
やがてエレベーターがやってきて、扉が開く。だが、乗る前に明日香が振り向いて叫んだ。
「テロリストのおじさん。最後に、これだけは言っておきます!」
「あん? 勇気と蛮勇は別ものだぜ? 嬢ちゃん」
「ぼくは、男の子です!」
ホールに明日香の声が響くと同時、扉が閉じた。
「ふう。到着ですわ!」
愛歌たちは、秘密通路を通って地下二階に侵入した。レジカウンターの下が出入り口になっており、そこからぞろぞろと合計六人が這い出てくる。
「ここが、地下二階か……ほとんど何もないではないか」
地下二階は、教室程度の広さの空間に、レジカウンターが設置してあるだけの、なんとも殺風景なところだった。
「だって、まだ何も買い取れておりませんもの。しょうがないですわ。それより、来ヶ崎愛歌。この後の行動ですが、わたくしにいい考えがありますの」
「ほう? 耳を貸そう。……む? 最上階で日本刀展示会か。興味深いな」
愛歌は部屋の隅にあったチラシを見た。
「来ヶ崎、武器、使うか?」
チラシを見ていた愛歌に、油揚が問いかける。
「私のナイフでよろしければ貸しますよ?」
さらに、御手洗もやってくる。
「いや……遠慮しておこう。来ヶ崎流は、女中に扮して主君をお守りすることが多かったのでな。素手はもちろんだが、日用生活品を武器として扱うことも可能だ。それに、これがある」
「それは?」
「こんとろーらーとかいう業物だ。鎖鎌の代りになろう」
「やばくなったら、この天空寺ナイトの背中に隠れろ。オレの音速土下座で謝罪してやる。土下座は世界を救う! ピースメーカーDOGEZA!」
ふふん。と、ナイトは腕を組んでえらそうにふんぞりかえった。
「土下座です済むなら警察いりませんわよ。まあ、それはともかくとして、天空寺ナイト。ここはあなたにも役立ってもらいますわよ」




