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来ヶ崎愛歌は日本女児である。  作者: 岡村 としあき
急:激突! 来ヶ崎愛歌、まかりこしてそうろう!
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明日香の心

「いらっしゃいませ~。お一人様ですか?」


「ああ」


「あの、よろしければタオルをお貸ししましょうか?」


「いや、このままでいい」


「そ、そうですか。それじゃあ、お好きなテーブルにどうぞ……」


「邪魔をする」


 駅前にある一軒の牛丼チェーン店。そこに、全身ずぶ濡れの女子高生がやって来た。


 女子高生は、入り口近くのカウンター席に着くと、メニューを見ずに注文をする。


「おったまげ牛丼、テラ盛り」


「はい、少々お待ちくださーい!」


 おったまげ牛丼。牛丼チェーン店すけやの新メニューである。具材がとにかくおったまげるほど乗っかっており、さらに裏メニューであるテラ盛りと合わせると、カロリーは目を覆いたくなるくらい悲惨な数値となる。 


「お待たせしましたー。ごゆっくりどうぞ」


「うむ」


 店員からバケツのように巨大な丼を受け取ると、女子高生は割り箸を装備し、一心不乱に食らいついた。


 みるみる器からおったまげ丼が姿を消していく様子を見て、周りの客が目を丸くする。


「すげえ、初めて見た。おったまげ食ってるヤツ。しかも、めちゃくちゃ可愛い女の子……」


「もしかして、フードファイター、とか?」


 順調に食べ進める女子高生。半分ほど食べ終えたところで、唐突に箸が止まった。


「……あれだけ、うまそうに見えていた新メニューだというのに、何故だ? 何故……こうもまずい。日比谷の作る飯のほうが、万倍もうまいわ……! くっ……日比谷……」


 丼を机に置き、箸を持ったままうつむくと、隣の客の携帯から軽快な音が流れた。目の端に写ったそれは、テレビ画面のようだった。


『緊急速報です。先ほど、都内で人質立てこもり事件が発生しました。詳しい情報はまだ入っていませんが、犯人は身代金を要求しているようです。なお――』


 アナウンサーの緊張した声が牛丼屋にこだまする。


「ふん。私には、関係ないことだ……ちそうになった。釣りはいらん」


「え? あ、ちょっとお客さん!」


 女子高生はセーラー服の胸元に手を突っ込むと、そこから一万円札を取り出し、レジに置いて外に出た。


「今日の晩飯はオムライス、だったか。日比谷のオムライス……か、さぞやうまいのだろうな。半熟のとろける卵に包まれた、チキンライス。鶏肉は乙女のふともものように艶やかで、かぶりつきたくなる。あめ色に炒められたタマネギがひっそりと自己主張をし……それを作る日比谷の笑顔が、なによりの隠し味、か。ふ」


 雨が降っていた。降り止むことなく、冷たい雨が女子高生の体だけでなく、心にも染み込んで行く。


「……会いたいぞ、日比谷……」


「あら、偶然ですわね。来ヶ崎愛歌」


「貴様……九条院、か?」


 女子高生……来ヶ崎愛歌は前を見た。そこには、ケルベロスを従え、体操服とブルマ姿の九条院命が傘をさして佇んでいた。

 

「ちょうどいい。お前に聞きたいことがある。答えろ」


「わたくしのスリーサイズでしたら、上から72――」


「お前の小さい胸の話など、どうでもいい」


「な、なんですってーー!! ちょっとでかいからって、調子こいてんじゃねーぞ、この野郎! ですわ。その胸、九条院家の科学力でミサイルに改造してくれようかしら!? いえ、むしろわたくしの胸をミサイルに……そ、そして来ヶ崎愛歌を亡き者に……」


「お前は、日比谷のどこが好きなのだ?」


「何をいきなり……決まっているでしょう。体ですわ、主に下半身」


「そうか」


「――というボケはまあ、このくらいにして、明日香さまのどこかが好きかと問われれば、一つしかありません。それは、優しいところですわね。わたくし、この通りの性格ですから……友達というのが、産まれてこの方おりませんでしたの」


「うむ。そうであろうな」


「……わたくし、ちょっとキレそうですわ……そこは否定するところでしょうに……だいたいあなたも、友達とかいなさそうなのに!」


「強敵と書いて、強敵(とも)と呼ぶ者ならば、私にもいたぞ」


「どこの少年漫画の主人公ですか、あなたは! ……まあ、とにかく。この学校に来てからもそれは変わらず、わたくしは誰にも声をかけられず空気のような存在で……簡単にいうと、ハブられておりましたの。誰にも相手にされなくて……いっそ学校なんぞやめてしまおうかと思っていたとき、明日香さまが声をかけてくださったのです。そして、クラスメイト全員と仲良くなれるよう、取り計らってくれたの。今でもあのときのことを思い出すと……」


「そうであったか。日比谷はやはり、優しい男なのだな」


「当然です。ガワなんぞおまけにしか過ぎないわ。いくらキレイな服を着込んだところで、中身までキレイになれるわけではないのだから。明日香さまは、体だけでなく、心も美しいのです。おわかり?」


「うむ……」


「そういうあなたは、明日香さまのどこを好きになったというのよ?」


 愛歌は、一瞬心臓に穴が空いたかと思った。


「それは……どうなのだろうな。私にもわからん。日比谷の一体どこをどう好きになったのか、皆目検討もつかん。だが……日比谷に側にいて欲しい。たった、それだけだ。もう一度会って、あいつに伝えたい。言葉がうまくつむげるかはわからんが、それでも、あいつに言わねばならんことがある!」


「そうですの。しかし、あなたときたら……その明日香さまが絶対絶命のピンチだというのに、こんな所で油を売っているヒマはなかったわね。いくわよ、スネちゃま」


「待て。絶対絶命だと? 日比谷に何があった」


 愛歌は背を向けた命に詰め寄ると、腕を握った。


「さっき、ニュースで聞かなかったかしら? 都内で人質立てこもり事件があったと。明日香さまは、その人質の一人になっているのよ」


「バカな。だいたい、そんな情報はなかったぞ」


「わたくしには、明日香さまがどこにいようと追跡できる、九条院システムズが自社開発した超小型発信機で、位置なんぞあっちゅー間にわかるのよ」


 命は、スマートフォンを取り出すとアプリケーションを起動し、それを愛歌に見せた。画面が地図になっており、すぐ近くで赤い丸が点滅している。


「本当、なのか? 日比谷が……」


「ウソなんぞついてわたくしに何の得があるというのよ。それより手、離してくださらない? これからわたくし達、明日香さま救出作戦を決行するの」


「日比谷を、救出?」


「立てこもり現場には、わたくししか知らない秘密の侵入通路があるの。そこを通れば気付かれずに忍び込めるでしょう。あとは、ケルベロスがよきにはからってくれることよ」


「私も……行くぞ。いや、行かせてくれ! 付いてくるなと言われても、私は勝手に行く! 行くしかないのだ! もう一度日比谷に会って……思いを伝えねばならん」


「……ふ。そう言ってくれると思っておりましたわ、来ヶ崎愛歌! 今は明日香さまに対するその恋心、目をつむりましょう。ケルベロスを退けたその中二病的古武術の力、アテにしておりますわよ」


「ああ、任せておけ。来ヶ崎流古武術八の奥義、全てを駆使してでも私は日比谷を取り戻す。この命に代えてもな。フ」


 愛歌は大きく胸を張った。自信を取り戻したかのように、盛大に揺れた。


「しかし、九条院。お前だけの秘密の侵入通路があるというのは、まことか? にわかには信じがたいぞ」


「ふふ。甘く見てもらっては困りますわね。地下二階で今開催されているイベント……あなたはご存知かしら?」


「いべんと?」


「あれが、その答えよ」


 ビシ! と命が看板を差した。そこには、『九条院センタービル』と書かれていた。

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