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来ヶ崎愛歌は日本女児である。  作者: 岡村 としあき
破:衝撃! 来ヶ崎流古武術第十八代継承者、ここに在り!
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明日香のお風呂

「それにしても、おにーちゃん」


「なーに、麗夢ちゃん?」


「その女、誰? なんかやけにおにーちゃんになれなれしいよね。見てて、反吐が出そう」


 麗夢がスプーンの先を命に向け、突き刺してやろうとばかりに差し向けてそう言った。


「こら、麗夢ちゃん! そんな汚い言葉使わないの!」


「ち」


 麗夢は誰にも聞こえないように、そっと舌打ちする。


「いいのですわよ、明日香さま。突然押しかけてしまったわたくしが悪いのですから。それに、明日香さまの妹ということは、わたくしにとっても妹同然。実はわたくし、明日香さまのような萌える弟も欲しかったのですが、明日香さまのような可愛い妹も欲しかったのです。ああ、明日香さまに似て、なんと可愛らしいのでしょう――」


 命は麗夢の髪に触れようとした。だが、麗夢に手をはたかれ、動きを止める。


「お前、うざい」


「こら、麗夢ちゃん! ごめんね、九条院さん」


「ほ、ほほほ。きっとこれは、照れてらっしゃるのね。なんとシャイで純情な子なのでしょう。さあ、わたくしと楽しいおしゃべりでも――」


 命は麗夢に手を差し伸べた。


 麗夢はその手をじっと見つめ、大きく口を開き……。


「キャあああああああああああああ!!」


 ばっくりと噛み付いた。


 大きな歯型がついた手をさすりながら、命はブチ切れる。


「殺す殺す殺す! 明日香さまの妹だからって、調子こいてんじゃねーぞ、この野郎ですわ!! ケツの穴に手榴弾(パイナップル)ぶちこんで、木っ端微塵にしてくれるわ! わたくし、恐ろしい子!」


「おにーちゃんに手を出す奴は、麗夢がぶっ殺す!」


 負けじと麗夢は命を睨んだ。


「もう、やめて! ぼくの目の前でケンカはダメ! 麗夢ちゃん。九条院さんはね、お兄ちゃんの大切なクラスメイトで、お友達なの。お兄ちゃんのお友達に謝って!」


「えー」


 麗夢は心底嫌そうな顔をして、立ち上がった。


「あ、明日香さま……大切なクラスメイトで、お友達で、ベッドで毎日イチャラブしたくなる大切な女……! わたくし、核兵器並みに恐ろしい子!」


 命は感動して涙とよだれをたらしながら、立ち上がった。


「そ、そんなこと言ってないけど……ほら、麗夢ちゃん早く謝る!」


「やだー! 麗夢、何も悪くないもん!」


 麗夢は喚くと、一目散にリビングから出て行ってしまった。大盛りのカレーを持ったままで。


 それと入れ替わるように、愛歌が入ってくる。


「む? どうした、なにやら妹君の様子がおかしかったが……」


「あ。大丈夫だよ。気にしないで。それより、来ヶ崎さん大丈夫?」


「ああ、何も問題ない」


 愛歌がイスに戻ると、今度は命が席を立った。


「では明日香さま。わたくし、これで失礼いたします。妹様のこと、何も気にしておりませんので、どうかお心を痛めないでください。わたくし、心はアンドロメダ星雲より広いのです」


 命が控えめな胸をポンと叩くと、リビングのドアがわずかに開いた。そして、そこから麗夢の声が流れ込む。


「ヘンタイ女、さっさと帰れー!」


 ヒットアンドアウェイ。悪口という爆撃を終えると、麗夢はドアを閉めて戦線離脱した。


「誰がヘンタイ女ですか! ぶっ殺して差し上げますわ! あの中坊!」


「お、お嬢。落ち着いて……」


 ケルベロスがなだめながら、暴れる命を引っ張って外へ出て行った。


 ちなみに、アンドロメダ星雲は直径22~26万光年という巨大さを誇る。決してすぐにブチ切れたりするほど、小さくない。


「あ、ははは。じゃあ、またね九条院さん。さて、と。お片づけはお父さんが帰ってきてからにして……先にお風呂に入っちゃおうかな」


 明日香はカレーの食器を水につけると、風呂場に向った。そして、服を脱いで湯船に浸かる。


「やっぱり、お風呂っていいよね……体、洗っちゃおうっと」


 湯船の中でのんびりして、体があったまると明日香はお湯の中から出て、せっけんを手に取った。そのとき。


「邪魔をするぞ」


 唐突に扉が開いた。


「わーー!! く、来ヶ崎さん!」


 いきなり愛歌が乱入してきて、明日香はびっくりした。


「共に風呂で体を清めようではないか。お前には私の全てを知ってもらいたい。見てもらいたい」


「ダメ! ダメだよ! 出て行って! 来ヶ崎さんは女の子なんだから!」


「……ならば、お前の背中を流させてはくれないか? 世話になるせめてもの礼だ」


 愛歌は湯煙の中で胸を張った。


 明日香は目を背けると、顔を真っ赤にして叫ぶ。


「タオル! せめてタオルを体に巻いてきて!」


「窮屈で面倒だ」


「ダメ! 絶対ダメだからー!」


「むう。……仕方がない。少し待っていろ」


 そして、すぐに戻ってきて明日香の背中を触った。


「わ」


「日比谷の背中は小さいな。……だが、広い。お前の心そのもののようだ。全てを包み込んでくれる優しさがある……父上もそうだった」


 そして、愛歌は明日香の背中を優しく流して行った。


「そうだ。世話になるついでだ。お前に演歌を教えてやろう」


「え」


「私に続いて歌ってみろ、指導してやる」


「え、いや……」


「ああ~、千里越えてぇ~」


「あ、ああ~、千里、越えて~?」


「違う、声は腹から出すのだ! もう一回!」


「は、はい。あ、ああ~、千里越えて~」


「日比谷、演歌をナメるなよ。二度は言わん。恥じらいを捨てろ、さすれば真の力を発揮できるはずだ」


「う、うん。わかった。ああ~、千里越えて~」


 愛歌は黙ったまま、動きを止めた。


 明日香は歌がかなりうまい。声も高いので、アイドル(もちろん女性)の歌をリクエストされたり、アニソンを歌わされたりすることもしばしばあり、その度に本人は嫌がっていたが、歌姫と呼ばれていた。


「日比谷」


「はい?」


「お前、オンチだな」


 明日香は、ちょっと傷付いた。

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