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来ヶ崎愛歌は日本女児である。  作者: 岡村 としあき
破:衝撃! 来ヶ崎流古武術第十八代継承者、ここに在り!
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明日香のカレー

「さて、と。晩ご飯の支度しなきゃね」


 マンガの件はとりあえず横に置いておいて、明日香は愛用のエプロンを装備すると、台所で主夫になった。


「えへへ。おいしいカレーを作って、皆に喜んでもらいたいなあ」


 スーパーの袋から食材を取り出し、包丁を手にするとさっそく調理開始。たまねぎをくし型に切り、にんじんを手にしたとき、愛歌と命が明日香の所にやってきた。


「日比谷。何か手伝せてくれないか? その、お前を怒らせてしまったことに対する、詫びのようなものだ。刃物の扱いならば慣れている。肉は私に任せろ」


「わたくしも、お手伝いいたしますわ! どうぞ、お好きなコスチュームを仰ってください。すぐに着替えますので」


「あ、えっと。わ!? 二人ともちょっと――」


 愛歌は明日香から包丁を奪い取ると、牛肉をパックごと空中に放り投げ、粉々に切り裂いた。


 命は明日香からエプロンを奪い取ると、服を脱ごうとした。


「フ。見たか日比谷よ? これぞ来ヶ崎流古武術奥義の参。六舞裂(ろくぶざき)。戦国時代、ご先祖様はこの技で、数多の(つわもの)を鎧ごと切り裂き、肉塊にしたという。切れ味は平成の世においても色あせておらん」


「さあ、明日香さま。裸にエプロンなわたくしをすぐにご披露致しますわ。カレーの前に、わたくしをめ・し・あ・が・れ」


「二人とも、何してるの!! あ、ああ……お肉がミンチになってる……九条院さんも、こんな所で脱いだら風邪ひいちゃうから! んもう、二人とも、邪魔! そこに正座! 反省しなさい!」


 ついに明日香がキレた。


 愛歌と命はしゅんと落ち込むと、二人仲良く床に正座して、しばらく無言のまま明日香の調理を眺めていた。


 流れるような包丁さばき。リズミカルでそれでいてスピーディー。まるで、まな板の上で踊っているように錯覚する明日香の包丁は、さながらキッチンのイリュージョンだった。


 鼻歌まじりにキッチンに立つ明日香の小さな後ろ姿は、母性に溢れている。


「よし、完成だよ!」


 カレーの完成と同時、リビングのドアが勢いよく開いて、麗夢が乱入してきた。


「ただいま、おにーちゃん! 腹減ったよー! メシ食いたいー! 餓死しちゃうー!」


 そして、床に靴下とカバンを放り捨て、炊飯器に飛び掛った。


「こら、麗夢ちゃん。まずは手を洗いなさい! あと、お客様が見えてるんだから、おしとやかにね」


「へーい」


「返事はちゃんとする」


「はーい」


「んもう、しょうがないんだから」


 相変らずの麗夢に明日香は溜め息を吐くと、お皿にごはんを盛り付け、カレーを装う。それを七回繰り返すとテーブルの上に次々に運び、食事の準備が整った。


「さ、来ヶ崎さんも九条院さんも、テーブルに着いて」


 明日香がそういう前に、二人はすでにテーブルに着いて一心不乱にカレーをかき込んでいた。


「日比谷、お代わり!」


「わたくしも、お代わりを!」


「え、もう!?」


 そして、二人同時に食べ終えると皿を突き出し、お代わりを要求する。


「うまい……これが、日比谷のカレーか……! 五臓六腑に日比谷の愛が広がっていく……うう……」


「ああ……一口一口食べるごとに、明日香さまの愛がわたくしの魂にしみこんでいく……ああ……」


 愛歌と命は肉体と魂が分離しそうなくらい宙を見上げて呆けた。


「なにこいつら……きも」


 それを横目で見ていた麗夢は五杯目のお代わりを口にしながら、ルーだらけの唇を尖らせる。


「はい、トイレさんと、ポテチさんと、スネークさんもどうぞ」


 ケルベロスの三人もまたカレーにありつき、日比谷家の食卓は満員御礼状態だ。


「ところで明日香さま。玄関のドア……ぶっ壊れておりましたけど、何がありましたの?」


「あ、それは……えっと、ドアを開けたら偶然壊しちゃって……寿命だったのかも、あはは」


「まあ! タイヘンですわ! 九条院家の情報網によると、最近この辺りに国際的なテロリストが潜伏しているそうですの! なんでも、東洋人の男で額に十字傷があるとか……」


 カラン、と小さな金属音が鳴った。


「来ヶ崎さん?」


「いや、何でもない……日比谷のカレーがあまりにうますぎてな。少し意識が遠のきそうになっただけのこと。気にするな。すまんが、かわや……いや、トイレを借りるぞ」


「あ、うん」


 愛歌は落としたスプーンを拾うと、リビングを出て行った。


「トイレ!? まさか……来ヶ崎愛歌め! 明日香さま盗撮用のカメラを仕込む気ですわね! ぐぬぬ……わたくしもやろうと思いましたのに……先を越されましたわ……く!」


「九条院さん、ヘンなことしないでね、お願いだから……」

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