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来ヶ崎愛歌は日本女児である。  作者: 岡村 としあき
破:衝撃! 来ヶ崎流古武術第十八代継承者、ここに在り!
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明日香の女神

 蛇祭はほんのり頬を赤らめた後、うつむいた。ガワは凶悪犯も真っ青のビジュアルだが、中身は以外にシャイなようだ。


「蛇祭栖音男、か。いい名前だな。ふむ。それでスネークというのか」


「名前を呼ぶな! 名字かコードネームで呼べ……頼むから……」


 蛇祭は顔を上げると肩を震わせ、怒鳴りちらした。瞳にはうっすらと光るものがあり、少し泣いている。


「よかろう、蛇祭。来ヶ崎愛歌、いざ参る!」


「女といえでも、容赦はせん。すべては九条院のために!」


 空気が振動する。それは、愛歌と蛇祭の拳が激突して生まれた衝撃だった。


「ほう? 女だてらによくもやる」


「見てくれだけではないようだな。野獣の牙のように鋭い拳だ。まっすぐに心の蔵を狙ってきたか。いい仕事をするようだ。賞賛に値する」


 愛歌と蛇祭は、右の拳を打ち付けあったまま、睨み合いそう言った。


「一度拳を交わせば全てがわかる。お前では我輩に勝つなど、夢のまた夢!」


 蛇祭の額に血管が浮き出ると同時、愛歌は一気に押し出され、電柱に背中をぶつける。


「ここが戦場(せんじょう)ならば、貴様を殺していた。だが、案ずることなかれ。ここは平和大国日本! 命まではとらん」


「来ヶ崎さん!」


 明日香は愛歌に近寄ると、優しく背中をさすった。


「……問題ない。お前はそこで見ているがいい、日比谷。多少やられておいたほうが、場の空気も盛り上がるというものだ。それに、私はまだ本気を出してなど、いない」


 愛歌は明日香の頭に手を乗せると、優しくさすった。


「でも……せっかくの着物が……汚れちゃってる……お洗濯しなきゃ」


「そんなこと、気にするな。それよりお前こそ、ケガをしないよう離れていろ」


 愛歌は明日香を引き離すと、再び蛇祭に立ち向かった。


「蛇祭とやら、この私に土を付けたこと、誇るがいい。そして、一撃でしとめなかったことを悔やむがいい。お前が今相手にしているのは、来ヶ崎流十八代目継承者。同じ戦場(いくさば)の土を踏んだ時点で、お前の敗北はすでに決まっている」


「この小娘が!!」


 再び激突する。二人の拳が空気を振動させ、じりじりと愛歌の体を押し出していた。


フランス外人部隊(レジョン)に入隊し、いくつもの死線を潜り抜けてきた我輩に、貴様のような小娘が勝てる道理など、ない!」


 蛇祭が嘲笑う。


「我が来ヶ崎流は、拳打においても絶対的な攻撃力を持つ」


 愛歌もまた笑う。


「うお!?」


 愛歌は拳を引き、身を翻した。


 蛇祭は力の行き場を失い、そのまま愛歌の前へと倒れこむ。


「甘いわ、小娘!」


 だが蛇祭は崩れた体勢を利用し、第二撃を放つ。あえて倒れこみ、その運動エネルギーを左足に転換して、回し蹴りを放った。


「見事な体裁き。だが、それも読んでいる」


 愛歌は死神の鎌のように迫った蛇祭の蹴りの軌道を見切ると、よけるではなく、蹴りを放った左足に、アッパーカットで打ち上げた。


 蛇祭の体は、ボールのように宙へ舞い上がる。


「来ヶ崎流奥義の弐」


 疾風怒濤。その四文字熟語を形容するに相応しい場面は、これ以上ないだろう。


七時雨(ななしぐれ)


 合計七発。愛歌の拳が、蛇祭の体のちょうど真ん中辺りを上から順に、直撃させていった。


 蛇祭は地上に帰還すると、道路の上でのたうち回り、もがき苦しむ。


「う……お……お……」


「七つの急所を的確に突いた。これが戦国の世ならば、お前はこの世を去っていただろう。だが、安心するがいい。今は平成の世。命まではとらん。威力はちゃんと抑えてある」


「く、こんな小娘に……我輩、が……」


「帰ってお前の主に伝えるがいい。この来ヶ崎愛歌の命を奪うつもりならば、矢でも鉄砲でも、核ミサイルでも持ってこい、とな。フ」


 愛歌はクールに笑って胸を張った。お約束のように、揺れた。


「来ヶ崎さん! 大丈夫? ケガはない!?」


 明日香は、勝利を誇るように反り返った愛歌に近付くと、着物に付いたほこりや汚れをせっせと払った。


「無論だ。お前という勝利の女神が、常に微笑んでいるのだ。敗北の二文字は我らに相応しくない」


「ぼく、女神じゃないよ! うう……男の子なのに……」


「ああ。そうだった。日比谷は男だったな。許せ」


 愛歌が明日香の頭をなでようとしたとき、二つの人影が近付いて、動きを止める。


「ほほほほ。見てしまいましたよ。わたしは見てしまいましたよ! まさか、スネークが敗れるとは……」


「信じ、られん」


「貴様ら……」


 蛇祭の脇に、それぞれ御手洗と油揚がいて、負傷した蛇祭を立ち上がらせているところだった。


「何用だ? 今宵は日比谷の特製カレーである。私の胃袋は今まで生きてきた中で、最も空腹に満ち満ちている。邪魔立てするならば、命はないと思え」


「命お嬢様の命令は絶対なのよ。例え卑怯と罵られようとも、我らケルベロス一同であなたを討たせてもらうわ」


「覚悟、しろ」


 緊張した空気が張り詰める。蛇祭も戦線に復帰し、三人が愛歌を取り囲んだ。


「おやめなさい!」


 その空気を切り裂いたのは、命の一声だった。


「お、お嬢!?」


 颯爽と現れると、愛歌とケルベロス一同の間に立ち、腕組みをしながら、蛇祭に近付く。


「スネちゃま、もういいわ。あの女は、わたくしがしかるべき場所で、しかるべき方法で、しかるべき裁きを、しかるべき体の一部にくわえて差し上げることにしましたの」


「しかし……お嬢!」


「お黙り! これ以上、わたくしの顔に泥を塗るつもり? 言うこと聞かない悪い子は、あんなことやこんなことのお仕置きのフルコースですわよ……ああ……わたくし、恐ろしい子!」


 お仕置きの一言で三人はすくみあがり、地面にひれ伏した。


「ひい!?」


 その様子に満足すると、命は愛歌に負けないくらい胸を張って、反り返る。


「今日のところは、負けを認めてやるわ! 来ヶ崎愛歌! しかし……次回はこの九条院命無双で、明日香さまとイチャラブ全開の、リア充爆発しろと言われるようなラブコメ的最終回ですわよ! 楽しみにしておきなさい! おほほほほ!」


「ふん。飼い犬のしつけもなっていないような女に、この私が負ける道理などない」


「あ、あの。二人ともケンカはダメだから、ね?」


 明日香はおたおたしながら、二人の間に入って止めようとした。

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