明日香の防犯意識
「それにしても幼馴染よ。腹が減ったな」
帰宅途中、通学路の真ん中でナイトが足を止め、明日香に語りかけた。
「あ、そうだね。考えてみれば……ぼく、お昼食べてなかったんだ……」
明日香の返事に相づちを打つように、ナイトのお腹が悲鳴を上げる。
「くう。腹が減った……俺も幼馴染のベントゥーを食っていない。何か食いたいぞ! 幼馴染よ!」
「じゃあ、お家に帰ったら、お弁当温めて一緒に食べようか。捨てるワケにもいかないし」
「おお! そうだな。この時間帯なら……麗夢ちゃんも帰宅しているか。ふふ。未来の俺の嫁の顔を拝んでおくのも、悪くないだろう。幼馴染よ、麗夢ちゃんはお前に渡さんぞ!」
「それ、どっちかっていうと身内のぼくのセリフだと思うんだけど……」
「細かいことは気にするな、幼馴染よ」
そして、帰宅すると明日香は玄関の扉を開け、ナイトに中へ入るよう、うながした。
「遅かったな、日比谷」
扉を開けてすぐ明日香の視界に入ったのは、愛歌だった。
「え?」
桜色の美麗な振り袖に身を包んだ愛歌が、正座をして玄関で恭しく頭を下げる。
「それより日比谷。無用心だぞ、カギもかけずに家を空けるとは。私が来たからよかったものの、泥棒が入ったらどうするつもりなのだ?」
「あ、あの。カギがかかっていたはずなんだけど……」
「何? カギ……だと? 軽く引いたら何やら壊れたが……」
「あ、カギが壊れてる……!?」
明日香はドアノブを見た。すると、ロック状態のまますんなり開閉ができてしまい、今月の家計簿から修理費を引くと、生活費がレッドゾーンに突入しそうになって気が遠くなる。
「まさか、あれで防犯のつもりだったのか? なんと! 日比谷、お前よく今まで無事で済んだな。私が泥棒なら、完全犯罪だぞ」
愛歌は腕を組んで静かに瞳を閉じた。
「フ。といっても、私が盗む物はただ一つ、お前の心だけだがな」
「は、恥ずかしいことをさらっと言わないで、来ヶ崎さん! ぼく、怒る気なくなっちゃうよ!」
「悪かったな。だが、安心するがいい。これからは私がこの家とお前を守る。ネズミ一匹たりとも逃がさん。大船に乗ったつもりでいるがいい」
愛歌は顔を真っ赤にした明日香の頭に手を乗せると、優しくさすった。
「そりゃ、来ヶ崎さんが警備してくれたら大船どころか、軍艦に乗った気分だけど……」
「だがあえて言おう! 俺は軍艦より来ヶ崎に乗りたい、と!! いや、またがりたいと!」
「あ、ナイトくん」
玄関の向こうからナイトがやって来て、明日香を守るように愛歌に立ち向かった。
「む? 貴様……天空寺か」
「生乳100%ヨーグルトを、生乳100%ヨーグルトと読んで、一人萌える危ない男天空寺ナイトとは、俺のことだ! 来ヶ崎! けしからん! けしからんぞ! こともあろうに俺の幼馴染の家に勝手にあがりこむとは……その罪、体で償ってもらう!」
「愚かな。冥土の土産に、私の力を思い知らせてやろう」
「俺は冥土の土産より、メイドが土産のほうが、断然いいー!!」
ナイトは愛歌の胸めがけて手を伸ばした。
「俺のこの手が真っ赤に萌えるぅ! 生乳つかめと轟き叫ぶぅ! 必殺! ナイトフィンガーァァァァ!! セクハラ天驚拳ーー!」
「フ。笑止」
しかし一瞬で股間を蹴り上げられ、玄関のドアごと吹き飛び、道路のど真ん中でうずくまった。
「お、覚えてろー! 天空寺ナイ子になったら女子トイレにせいせい堂々入場してやるからなー!」
「この来ヶ崎愛歌がいる限り、怪しい者に日比谷家の敷居はまたがせん。おととい来るがいい」
愛歌は風通しのよくなった玄関で、大きく胸を張った。




