明日香のクラスメイト達
愛歌が去った後、明日香はしばらく屋上で呆然としていた。だが、チャイムの音で我に返り、思わず時計を見る。
「わ!? 五時間目、終わっちゃった……どうしよう……一時間丸々サボちゃったよ……うう。先生に怒られちゃう……」
明日香はしょんぼり肩を落とし、子犬のように体を縮こまらせ、とぼとぼと教室へ向った。そして教室の前で立ち止まると、おそるおそる扉を開け、顔を出す。
「あ、明日香ちゃんが帰ってきたよー! オカエリー!」
偶然、扉近くの席にいた女子と目が合い、明日香は即座に見つかった。女子の声を聞いたクラスメイト達は、みんな心配そうな顔をして、明日香に近寄る。
「もう、どこ行ってたんだよ。俺らめっちゃ心配したんだぜ?」
「そうそう! これから明日香ちゃん捜索隊を結成して、校内見回りに向うとこだったんだー」
明日香は瞬く間にクラスメイト達に取り囲まれ、人口密集地の中心になった。このまま胴上げでもされそうな勢いだ。
「あ、みんな……ごめんね。心配かけて……えっと。授業は?」
明日香は申し訳なくなって視線を下に落とした。
「五時間目、自習だったから大丈夫だよ。あたしが明日香ちゃんの分のプリント、片付けといたから!」
「ちょっとー! プリントやったのは私でしょ! 勝手に明日香ポイント、横取りしないでよ!」
「違うよ! 問い三やったの、マナなんだからー! 明日香ポイントはマナがゲットしたんだもん!」
「わ、わたしだって、名前書いてあげたんだもん。明日香ポイントはわたしがゲットよ! 十ポイント貯まったら、明日香ちゃんお持ち帰りするんだから!」
「俺は明日香ポイントが貯まったら、妹さんを紹介してもらうんだ。この前明日香ちゃんと一緒に歩いてるの見たんだけどさ、めっちゃ可愛かったぜー」
「私は明日香ちゃんとデートするの!」
「あ、はは。明日香ポイントって……ぼく、全然知らないんだけど……」
「お、幼馴染よー!」
「わ!?」
困惑する明日香の腕を引っ張ったのは、ナイトだった。
「来ヶ崎は、どうした!? ま、まさか。あの返事をOKしたのか?」
ナイトの質問で、クラス中の視線が明日香に集中し、静まり返った。
「えっと……とりあえず、お返事は保留、かな?」
「ほ、本当でございますか、明日香様!? ひゃっほう!」
突然、明日香の頭上に何かが迫った。
「く、九条院さん!?」
命が両手を広げ、大の字になって明日香めがけてダイブしてきたのだ。そして明日香に抱きつき、猫がマーキングするように体を強引にこすり付けてくる。
「く、苦しいよ。九条院さん。お願いだから、離れて」
「やはり! やはり! 明日香様と添い遂げるのはこのわたくし! でかしたわ、ケルベロス。ぐふふ」
「来ヶ崎さんはお家に帰っただけなんだけど……」
明日香がそう訂正したのだが、命は高笑いして気が付かなかった。
「さあ、これで来ヶ崎愛歌亡き今、障害は天空寺ナイトのみ!」
「へ。この俺、天空寺流暗殺拳十八代継承者を相手に、よくぞそんな言葉が吐けたもんだぜ」
ナイトはカッターシャツを脱ぎ、教室の床に放り投げた。
命は明日香から離れるとナイトに向き直る。
「愚かなお前にイイコトを教えて差し上げるわ、天空寺! わたくしのお父様とこの学校の理事長、親友なの。くくく。これが意味するところが何かおわかり? お前の首なんぞ、あっちゅー間にバイバイできてしまうのよ。ああ……わたくし、恐ろしい子!」
「へ。それがどうした。俺の親父だってなあ、銭湯のゲンゾーじいさんと親友なんだよ。へへへ。これが意味するところは何か? 答えはこれだ!」
ナイトはズボンの中から写真を一枚取り出して命に突き出した。
その写真を見て、命の強気な顔が一瞬で青ざめる。
「そ、それは……まさか……!?」
「その通り、幼馴染の生着替えを隠し撮りしたものだ。イニシアチブはこちらにあるんだよ、九条院! これぞ切り札! わーっはっはっは!」
「あ、あ、あああ明日香様の、な、生着替え……太ももじゅるり……ハアハア」
命は頬を紅潮させると、よだれを一筋流した。
「わ!? やめてよ! どうしてそんな写真撮ったの! もう、ナイトくんのバカ!」
「あ! 返せ幼馴染よ! それは今日、九条院センタービル地下二階で高額買取してもらうつもりなんだぞ!」
明日香はナイトから写真を奪い取ると、びりびりと破り、ゴミ箱に捨てた。
「生着替えの写真ならば……五十万の買取になりますわね……」
「お、俺の五十万が……」
「もう、二人ともいい加減にして! ぼく、ナイトくんのことも、九条院さんのことも嫌いになるよ?」
そっぽを向き、明日香はぷんぷんと怒った。
「お、幼馴染よ! 俺が悪かった! 盗撮はもうしないから、許してくれー!!」
「わ、わたくしも! 明日香様の写真でハアハアするのは、一日五十回から一日四十九回にしますから、どうか、どうかご勘弁をー!」
振り向いた明日香はにっこり笑うと、ナイトと命の手を取って、無理矢理握手させる。
「あは。二人とも、冗談だよ。もうケンカしないでね? ぼく、みんなが仲良くしてくれるのが一番嬉しいから。だから、ケンカはダメだよ? ナイトくんのことも、九条院さんのことも、嫌いになったりしないから、ね?」
「お、幼馴染が、そう言うのなら……今回だけだぞ!」
「明日香様が、そうおっしゃるのでしたら……今回だけですが!」
ナイトと命はしぶしぶ握手をかわすと、仲直りした。その様子に明日香は微笑む。
クラスメイト達もその様子に満足げに頷き、教室に明るい空気が訪れた。
そしてタイミングを計ったようにチャイムが鳴り、六時間目が始まり、あっという間に終わりを迎え明日香は帰宅した。




