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来ヶ崎愛歌は日本女児である。  作者: 岡村 としあき
破:衝撃! 来ヶ崎流古武術第十八代継承者、ここに在り!
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明日香の初めて

 愛歌は信じられないものを見る目で明日香を見た。


 明日香もまた、信じられないものを見る目で愛歌を見ていた。


「よそ見をする、な」


 そんな微妙な空気を切り裂いたのは、油揚の拳だった。


「む!?」


「来ヶ崎さん、危ない!」


 重量がおよそ0.1トン以上はありそうな巨体から、物騒な物音を立て、繰り出される一撃。


 愛歌はそれを両手で受け止める。


「やる、な」


「貴様こそ。この私に両手を使わせるとは、賞賛に値する。誇るがいい。そして、悔やむがいい。狙撃手が接近を許した時点で、お前の敗北はすでに決まっていた」


 一瞬だった。油揚の体が宙で一回転して、一秒後には地面にキスをしていた。


「来ヶ崎流古武術奥義の壱。八魔嵐(やまあらし)


「バカ、な」


 黒いジャージの巨体は屋上の上で大の字になって、動かなくなる。


 その様子に愛歌はクールに笑うと、胸を張り反り返った。そして、揺れた。もちろん胸元が。


「我が来ヶ崎流は、如何なる相手にも負けん。代々の使い手が女性であったことから、小さい力と体で、如何に相手の力を利用し、叩きのめすかが真髄である。油揚とやら、久しぶりにいい運動ができた。御手洗ともども縁があればまた私に向ってくるがいい。その時は再び我が奥義で冥府へ誘ってやろう」


「え、えーと。これって……笑うところ、なのかなあ?」


 明日香は御手洗の時と同様、付いていけなかった。


「ぐ、うう……」


「あ!? 来ヶ崎さん、ポテチさん。まだ動いているよ!」


 上半身を無理矢理起こし、油揚は苦悶の表情で口を開いた。


「元軍人の『コードネーム・スネーク』、俺以上に、強い、ぞ。お前は、勝てない」


 そして、演技派なのか、本当に力尽きたのか、失神してそのまま倒れた。


「フ。面白い。障害は全て取り除く。この来ヶ崎愛歌の歩みを止めることなど、不可能と知れ」


 両手をぱんぱんとはたき、スカートを翻すと愛歌は明日香に歩み寄った。


「待たせたな。日比谷。これで余計な邪魔は入らん。しかもここは屋上。愛を囁くにこれほど適した場所はないだろう。私はここでお前を、手に入れる!」


「わ!?」


 明日香は抱き寄せられた。


 愛歌の射抜くような視線が、明日香の動きを止める。


「さあ、どうだ日比谷。我が来ヶ崎の家に入り、ともに覇道を歩もうではないか」


「は、覇道って……その、ぼくは……」


「何だ? 言ってみろ」


 明日香は完熟トマトのように顔を真っ赤にして、うつむいた。


「照れているのか、可愛い奴め」


「あ、あの! ぼく……」


「うむ。申してみろ」


「その……来ヶ崎さんのこと」


「うむ」


「よくわからないから……とりあえず、お友達から、始め……ない?」


「む?」


 明日香は恐る恐る言葉を紡ぎだした。


「ぼく……古武術って、何かわからないよ。だいたいぼく達、昨日出会ったばかりだし……結婚なんて、まだ早いと思うし……それに、お父さんと麗夢ちゃんのご飯を作ってあげなきゃいけないし……」


「むう」


「だから、もうちょっと答えは待ってくれないかな? 気持ちって大事だと思うんだ。ぼくは来ヶ崎さんのことをよく知らない。来ヶ崎さんだって、ぼくのことを全部知ってるわけじゃない、だから――」


「わかった。お前の言うことにも一理ある」


「うん、ごめんね」


「では、こうしよう。今日からお前の家で寝食を共にし、私の全てを知ってもらう。全てを見てもらう」


「え?」


「同じ釜の飯を食い、裸の付き合いをする。そして、同じ布団に入り、同じ夢を見るのだ」


「え、え、え?」


「よし、そうと決まれば善は急げ。すぐ家に帰り支度をしてくる。日比谷。待っているがいい。私は必ずいつかお前を手入れる。この来ヶ崎愛歌の伴侶に相応しい男は、お前しかいない」


 再び引き寄せられる明日香。


「これはその誓いだ」


 一瞬だが、触れた。二つの唇が重なり、二人の鼓動が限りなく近付いた。


「あ……」


「ふむ。これがふぁーすときすというやつか。なんだか照れくさいものだな。この続きは、お前の確かな返事を聞いたときに、またな」


 初めて見る光景だった。


 余裕の塊のような愛歌が、頬をほんのり赤く染め、うつむいていた。


 それは、まぎれもない乙女だった。


「ではな、日比谷。私は早退する。また放課後、お前の家で落ち合おう!」


「あ、来ヶ崎さん!?」


 愛歌は真っ赤に染めた頬のまま、屋上を去っていった。

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