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来ヶ崎愛歌は日本女児である。  作者: 岡村 としあき
序:疾風! 来ヶ崎愛歌、参上!
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明日香のお部屋

「さて、ぼくもお勉強しなきゃ。お兄ちゃんのぼくが、テストで悪い点取ったらかっこがつかないもんね」


 明日香は食器を洗い終えると、リビングを出て二階の自分の部屋に向かった。


「ああ……お待ちしておりましたわぁ、明日香さま」


 しかし、自分の部屋に足を踏み入れてすぐ固まった。


「あれ? どうして九条院さんがここにいるの?」


 なぜだか自分の部屋のベッドに、九条院命が潜り込んでおり、天にも上りそうな心地で眠っていたのだ。単純に、本当に単純に考えれば、見目麗しい乙女がベッドで寝ているだけなのだが、時間と状況と場所を考えると、単純に考えることはできない。


「あの……九条院さん。どうやってぼくの家に入ったの? 鍵がかかっていたはずなんだけど……あと、どうしてぼくの自宅知ってるの? 九条院さんには教えてなかったと思うけど……」


「ふふ。明日香さま、この九条院命を甘く見てもらっては困りますわ! この程度の鍵など、わたくしのピッキング技術にかかればお茶の子さいさい、朝飯前。さらには、九条院システムズによる、自社開発した超小型発信機により、明日香さまの居所などあっちゅー間にお知らせしてくれるんですのよ! わたくし、恐ろしい子!」


「どこでピッキングなんか習ったの……それより、早くベッドから出てよ。お茶くらいなら出すから、ね?」


「わかりましたわ。明日香さま」


 命がベッドから抜け出ようと、掛け布団をめくったときだった。


「うわ! ちょっと、九条院さん! 服は!? どうして服着てないの!?」


 明日香の視界に、一瞬だけ命の白い太ももが入って、思わず目を背けた。


「かの有名な戦国武将、徳川秀吉は、主君の草履を腹に入れて温めたと聞いております。ここはわたくしもそれに(なら)い、明日香さまのベッドをわたくし色に染め上げ――もとい、温めておこうと」


「徳川秀吉なんて戦国武将はいないと思うけど……それに今、夏だし……とにかく、そこから出ないでね! 妹の着替え借りてくるから!」


 明日香は急いで部屋を出ると、隣にある麗夢の部屋に向かった。


「麗夢ちゃん。ちょっとごめん。麗夢ちゃんのお洋服を貸して欲しいんだけど……」


『え!? おにーちゃんが麗夢の服を……そっか、ついにおにーちゃん……女の子になる決心が付いたんだね! 待ってて! 麗夢がおにーちゃんを可愛い女の子にしてあげる!』


 ドアの向こうから、麗夢の今までにないくらいはつらつとした返事に、明日香は一瞬気圧された。しかも、とんでもない勘違いをされる始末。


「え? 違うんだけど!? ぼく、絶対に女装とかしないから!」


『えー。じゃあどうするの? 麗夢のお洋服なんか。大きいお友達にでも売るの? ブルセラショップとか?』


「ちょっと、麗夢ちゃん! どこでそんな言葉覚えてきたの!? もう……実は――あ」


 明日香はそこで冷静になった。このまま命に着替えを貸す、ということをありのまま伝えると、おそらく麗夢は包丁を持って命を刺しに行くかもしれない。

 

「え、っと。あ! そうそう、ちょっと今年の忘年会のかくし芸でね。仮装しようと思って……」


『なーんだ! じゃあ、麗夢が可愛いの貸してあげるから楽しみに待ってて!』


「……これでいいんだろうか、ぼくは……」


 明日香がドアの前で呆然としていると、麗夢がドアの隙間から紙袋を差し出してきた。そして、意味ありげにニヒヒ、と笑ってドアを閉めた。


「明日、返すからね?」


 それだけ言って自分の部屋に戻り、ベッドのすぐそばに紙袋を置く。


「九条院さん。早くそれを着て。それで、おうちに帰るんだよ。お願いだから」


 ベッドから顔を出した命が吠える。


「明日香さま……明日香さまは、わたくしが邪魔だとおっしゃるのですか!? わたくしは、明日香さまと一夜を過ごして、濃厚なキスから始まり、壮大な濡れ場とピロートークを――」


「そうだ。お前は邪魔だ、九条院! 忘れた頃にやってくる影の主人公、天空寺ナイトが貴様の横暴を決して許すことはない!」


「ナイトくん!?」


 いきなりナイトが明日香の部屋に入ってきた。室内は途端に険悪なムードに包まれ、明日香は逃げ出したくなった。


「天空寺ナイト!? おのれ、わたくしと明日香さまの愛の巣へ土足でずかずかと上がり込むとは!」


「違うな、ここは俺にとって、幼馴染と友情を育んだ聖地であり、聖域! 何人も汚すことは許されんのだ!」


「もう! 二人とも早く出て行ってよ! 麗夢ちゃんに見つかったら、とんでもないことになるんだから!」


「ま、待て。幼馴染よ! 俺はまだ登場して間もないぞ!」


「明日香さま、今宵はわたくし、世間一般でいう、『大丈夫な日』ですのよ!? これを逃したら……ああ!?」


 明日香は強引に二人を部屋から連れ出すと、玄関から放り出した。命にはちゃんと着替えの上着を羽織らせている。


『幼馴染よ! 開けてくれ!』


『明日香さまー! わたくし、絶対に諦めませんわよー。あ、明日香さまの靴の臭い匂ぐのを忘れてましたわ。ド畜生!!』


「ぼく、もう疲れちゃったよ……」


 明日香は玄関の扉を背にして、ゆっくり目を閉じた。

これで今年も更新納めです。

また、来年お会いしましょう。

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