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来ヶ崎愛歌は日本女児である。  作者: 岡村 としあき
序:疾風! 来ヶ崎愛歌、参上!
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明日香の母

 愛歌が家を去り、麗夢たち家族が食事を終えると、明日香はキッチンで食器洗いをしながら、愛歌のことをぼんやり考えていた。


「来ヶ崎さん……クールで可愛くて、かっこよくて……面白い子だったな……」


「むー。おにーちゃん、またあの女のこと、考えてる! おにーちゃんには、麗夢がいるじゃん!」


 突然麗夢が明日香の背中にひっ付いてきて、明日香は皿を洗う手を止めた。


「麗夢ちゃん!? もう、後ろから抱きつくのはやめてよ」


「だってさ~。なんか、面白くないんだもん~」


「ぼくのことより、麗夢ちゃん、宿題は終わったの? わからないところがあったら教えてあげるから、後でお兄ちゃんの部屋に来なさい」


 宿題という、忌むべき二文字を耳にした麗夢は、露骨に嫌な顔をした。そして、ふてくされると冷蔵庫の扉に向かって、軽く足で突く。


「うげえ。宿題なんて、いいじゃんよ~。べんきょーなんて、将来何の役にも立たないって! 麗夢、モデルかアイドルになるんだもん!」


「もう、麗夢ちゃんは……」


「それよりおにーちゃん。デザート! 麗夢、この前おにーちゃんが作ってくれた、お菓子……えっと、何だっけ? ふぃな、ふぃなーれ?」


「フィナンシェ?」


「そ。それ! ちょーおいしかったよ! あれまた作ってよ~」


「うん。今度暇なときにね」


 明日香の趣味はお菓子作りである。特に洋菓子に対して造詣が深く、フィナンシェ以外にも、フォンダンショコラやアマンディーヌ、ブリオッシュなど明日香の頭に入っているレシピは数多い。


「それよりも麗夢ちゃん。お勉強の話! この前の数学のテスト……何点でしたか?」


 明日香は腰をかがめ、母親が子供を叱るように麗夢の目を見た。


「……二十九点。……でも、名前を筆記体で書いたら先生褒めてくれたよ? 『日比谷は筆記体が書けるのかー、偉いなー。でもそれは八百屋に魚を買いに来るようなもんだぞ』ってさ! 後半意味わかんないけど、麗夢、いい子って褒められたもん!」


「数学のテストを英語で回答しちゃダメ。先生だって日本人なんだから」


「んもー。おにーちゃん、先生みたいでうざいー!」


「うざくないの。ぼくは、麗夢ちゃんの母親代わりなんだから!」


 明日香が少し語気を荒げて言うと、麗夢は急にしゅんとなって、冷蔵庫の前で座り込んだ。


「……ねえ、おにーちゃん。おかーさんって、どんな人だったんだろう」


「そうだね……ぼくも、よく覚えてないけど……とっても優しくてあったかい人だった……かな?」


 明日香は少し寂しい目をして、窓辺を見た。そこには埃をかぶった写真立てが置かれており、明日香そっくりな髪の長い女性が微笑んでいる。


 麗夢は立ち上がって写真立ての前まで移動すると、それをそっと抱きしめた。


「おにーちゃん、おかーさんそっくりなんだね……おかーさん……会いたいな……」


「麗夢ちゃん……」


 明日香は悲しそうな麗夢の背中に手をやると、優しくさすり、微笑む。それはまるで、写真立ての中で笑う母そのものだった。


「大丈夫。麗夢ちゃんには、お兄ちゃんがいるからね。お兄ちゃんがお母さんの分も、麗夢ちゃんのこと大事にするから……だから、泣かないで、ね?」


「うん。おにーちゃん、大好き……麗夢の……麗夢だけの、おにーちゃん……」


 笑顔に涙。相反する二つの感情をはらんだ十四歳の少女の顔は、優しくて大好きな兄の小さな胸の中にあった。


 ぐぎゅるるるる。


 が、少女の胃袋はシリアスやらほのぼのといった単語とは無縁らしく、盛大に雰囲気をブチ壊す。


「げ。腹減ったあ~。おにーちゃん、メシにしてよ~」


「ええ、さっき御飯食べたとこでしょ!」


「育ち盛りだもん! そうだ! フィナンシェ食べたい! 今から作ってよ~」


「だ~め。ぼくだって、今からお勉強するんだから、ほら。麗夢ちゃんも、お勉強一緒にしよう」


「やだ~!」


 空腹を抑えながら麗夢は逃げ出した。


 その背中を見て、明日香は愛しさ半分、困り半分に笑った。

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