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曖昧価値終
「おかえり」
「……」
静寂に包まれた事務所の一室で新聞紙を片手に常磐木がコーヒーカップを口へと運ぶ。ペラペラと気の抜けた新聞を捲る音だけが響く部屋。
無言で戻り背を向けソファーへ横になった彼の瞳はひどく澱んでいた。
横目で常磐木はふんと鼻をならし新聞を折りたたむ。
「恐いのか、冥」
「………」
死んだように横たわる彼は彼女の問いかけに答えようとはしなかった。
常磐木は他所に関係ないと話を進める。
「お前は―――」
「――――わかってる。黙ってろ。お前のせいで疲れてるんだ」
そうか、と常磐木は新聞を広げる。
静寂の時間がすぎる、
カチカチと、時間だけが。
身体、精神癒えない傷はない。
それは時間が元へと癒すから。
決して癒えることのない罪。
逃れることはできない。
人の価値は曖昧でも、犯した罪だけは残る。
それは、時間を超えてもきっと。
彼は沈黙の中、抑えきれない憎悪を必死に噛み殺し静かに眠りについた。
曖昧価値/終