第3話 覚醒
ここはサヴァルタ研究所から遠くかけ離れた郊外。
その郊外をリドレイはただ無我夢中に走り続けていた。
(ここは何処だ…)
身体は宙に浮くほどの軽やかさであり依然よりも身体が進化している事を物語っていた。
リドレイは自分の手を猜疑心な目で見た。
(俺は何者なんだ?何が起きたんだ!?)
ノスフェラトゥの副作用なのか…リドレイは自分自身を喪失しているようだ。
「くそっ!何が起きてる!!」
立ち止まって必死に思い出そうとするが"奴"の微笑んだ顔しか思い出せない…。
実験室でノスフェラトゥを注入されたリドレイ。
一度は意識を失うもののしっかりと目を覚ました。
しかしその目は依然のリドレイ本人の目ではない。
さながら肉食獣の目である。
その瞬間、学者達はまるで解放するかの様に大きな歓声を上げた。
そしてお互いがお互いの顔を見て成果を分かち合った。
「すごいぞ!大成功だ!!」
「まさか成功するとはな!!」
「やりましたね!アルカニアさん!!」
「あれ?…アルカニアさんの姿が?」
学者一人がアルカニアの姿を探し、ふとストレッチャーを見た。
すると先程まで鉄製ベルトで縛り付けられたリドレイの姿が見当たらない。
「今夜は宴といこうじゃないか!!」
喜びに満ち溢れた学者の両肩に誰かが後ろから手を添えた。
「ん?どうした?」
すると次の瞬間。
何者かがその学者の両肩を掴み左右に身体を引き裂いた。
「なんだ!?」
学者一人が振り向いた先には引き裂かれた学者とその間から鮮血にまみれたリドレイの姿が立っていた。
その姿を目視した学者達は騒然とする。
「嘘だろ…」
そして歓喜は瞬時に恐怖へと変貌した。
「誰か助けてくれぇ!」
「死にたくない!!!誰かーっ!!」
慌てふためく学者らは覚醒したリドレイになんの抵抗もできず無惨に殺されていく。
学者一人が実験室の入口扉に着いた。
パスワード認識でロックされた扉を開けようとした。
「パスワードが認識されない!?」
「いったいどうなってやがんだ!?」
「早くしないと奴がくるぞ!!」
認識されるはずの彼らの共通パスワードは何故か認識できず、実験室の扉は固く閉ざされたままである。
そして逃げ場を失った学者達は容赦ないリドレイに身体を引き裂かれた。
この間実験室にいた十数人の学者達は突如として"ノスフェラトゥ"の生け贄となった…。この時リドレイの脳内には疑いたくなるような情景に覆われた。
そして彼は頭を抱えながら膝から地面へと崩れだした。
「俺は…なんて事…してしまったんだ」
呼吸は乱れ心臓の鼓動が高鳴った。
自我喪失しているとはいえ今の彼には全てを疑う事すら許されない。
「すうーっ、はぁぁ…」
一度、深呼吸をしたリドレイは初めてノスフェラトゥから解放された時を思い出す。
気付くと研究所内の第1区画と第2区画を繋ぐ扉の外に立っていた。
「ここは何処だ…」
辺りを見渡しても自分が元いた場所が思い出せない。
身体は返り血にまみれ自分が何をしていたのか分からない…。
それは記憶喪失そのものを示し、得も知れぬ恐怖感がリドレイを確実に蝕んだ。
「ぐっ!」
すると突然に激しい頭痛が彼を襲った。
(なんなんだ!?この頭痛は)
今にも地に平伏しそうだったがなんとか足で堪えた。
するとリドレイは突如走り出した。
恐怖に駆られた故の人間の本能であろうか。
第2、第3、第4区画と一本道で繋がっている通路を常人とは思えない程の速さで走り抜ける。
この時、異変を察知し第1区画へと向かっていたクラウケン警備員の横を通り過ぎていったのはリドレイ本人の姿であった。
通路には血の足跡だけが点々と残されていたがリドレイの姿を見た人間は一人もいなかった。




