第2話 キメラ舞う
2019年5月19日…。
ここサヴァルタ研究所の近くにはモンスターパークがある。
研究所で造られ成功した生き物のいる、言わば動物園である。
俺の名はウェイド。
モンスターパークで働いている飼育員だ。
生まれも育ちもサヴァルタ。
不思議とサヴァルタから離れようとは思った事はない。
珍し好きな俺にとっては居心地が良い街だからだ。
飼育員としてはまだ日は浅いけどモンスターの世話は意外に楽しい。
巨大な鉄格子に入れられたモンスターの名は"キメラ"
自分はこいつの飼育担当なのだがこれがまた危険である。
体長は3mを越し肉食獣な上、獰猛な性格で一度暴れたら手に負えないのが現状だ。
なんで新米がこんな危ない奴の飼育担当を任されているのか。それは飼育担当を拒んでいる飼育員があまりにも数多いからだ。
"こいつの飼育担当をする位だったらやめてやる"だとかそんな理由が圧倒的に多い。
確かにキメラの飼育は困難を極めている。
月担当の入れ替わりも数多くその為キメラ自体を深く知る飼育員は少ないのだ。故にこのモンスターの行動は未知の領域である。
キメラは魔力を持つ危険なモンスターである。
その魔力が動力源となり暴れ出したりする事もある。
よってキメラの魔力を放逐しなくてはならない。
眠っている隙に鉄格子の中へ入り特殊な機器を使用し魔力放逐をする。
多くの魔力を持つキメラは実に長い作業となる。
しかし一度眠ってしまえば起きる事はほとんどなく、ある意味では魔力放逐が一番安全な飼育と言っても過言ではない。
それにしても魔力放逐をしている時間は実に暇である。
いくら安全とはいえ気は抜けない。
だが普段こいつの餌やり、掃除の困難さを思えば気も抜きたくなる。
隣に別の鉄格子があるが今は空である。
その中で掃除している二人の飼育員の会話が聞こえてくる。
「なあ先日の研究所内の事故知ってるか?」
「ああ。なんでも実験してた生き物が逃げ出したって噂だぜ」
その話か。
「実験室の中に血溜まりの変死体が数体、いずれも噛み千切られて手足がもがれている跡があったらしいな」「中では国家機密級の相当やばい実験しているらしいからそんな事が起きてもそう珍しくはないよな」
なんとも酷い話だ…。
自分達で造った生き物に殺される…。
一見もの悲しい事件だが自業自得な面がある。
サヴァルタ民は自分達の名誉の為ならば危険を振り返らず行動をする人間が多い。
全ての人がそうとは言えないが…。
このサヴァルタ研究所ではそんな人間達が多いからこのような事故が起こる。
仕方のない事なんだ。
俺はキメラを撫でて言った。
「お前も人の手で造られたんだよ」
国家間の間では戦争が絶えない中こうした生物は軍事目的で創造され使役されている。
反対する者はこの行為を"神への冒涜"として言いせしめられているようだ。
そうこうしている内に俺は気が完全に抜けてしまい居眠りしてしまった。
目が覚めた時、目の前には以前眠っていたキメラが目を覚ましこっちをジーッと眺めている。
「!!」
俺は恐怖で完全に身体が硬直し冷や汗が止まらない。
異変に気付いた飼育員達は慌てふためいた。
「おい嘘だろ!中に人がいるぞ!」
魔力放逐が終わったせいかキメラは妙な程に落ち着いている。
次第に俺を見つめていたキメラは周りの騒々しく動いていた飼育員達に目を付けた。
「おい!どうするんだ!?あのままじゃあいつ食われちまうぞ!!」
「グオオオォォ!!」
キメラが大きな唸り声を上げた。
俺は足がすくみその場から一歩も動けずにいた。
「まずは鉄格子の天井を開けてからやつを逃がすのが先決だ!!」
そう言うと一人の飼育員はバルブを回しだし鉄格子の天井側を開けだした。
キメラは天井の音が気になったのか上を見上げた。
「開いたぞ!!」
巨大な翼をはためかせたキメラが唸り声を上げながら空へと羽ばたいていった。
ウェイドの無事を確かめた数人の飼育員は鉄格子の中へ急いで入ってくる。
「おいあんた!!怪我はないか!?おいっ!」
ウェイドはただ呆然と立ち尽くしキメラが飛んでいった空をただ見上げているのであった…。




