第1話 ノスフェラトゥ
2028年2月25日…。
男の名はアルカニア。
"不死学"という定義を成立させた言わば生みの親である。
不死学とは簡単に言うと不老不死体を人工的に創造する事だ。
不死学による不死体創造の方法論は2つ。
科学により生み出すか非科学により生み出すかだ。
彼は元々、細胞学専門の研究者であったため、科学による不死身の倫理を造り出したのである。
アルカニアは不気味にほくそ笑んだ。
「ついに完成したぞ…この"ノスフェラトゥ"を完成させるために幾度の年月を費やした事か!」アルカニアが手にしているのは"ノスフェラトゥ"なる液体。光が透き通り妖しい赤色を放っていた。
2028年5月17日…。
秘密裏に行われてきた不死学の研究は今日の人体実験にまで発展されていた…。
一画の実験室の中…。
ストレッチャーの上に横たわっている彼の名はリドレイ。
鉄製のベルトが彼をきつく縛り付けている。
「なんで俺が」
リドレイは言った。
「血液検査の結果、君は"ノスフェラトゥ"に一番適した身体を持っている!もっと素直に喜んでほしいものだな」幾度の経験を積み重ねてきたアルカニアには絶対的な自信があった。
「不死体になった暁には君は最強の戦士になっている。実に微笑ましい」
「ふざけるな!お前らのしている事は非合法にも程があるっ!」
リドレイが身体を動かす度に鉄製のベルトが軋んだ音を立てる。
「安心しなさい。実験はすぐに終わる…まあ君が目を覚ます頃には軍事施設の一画に移送されているはずだが」
リドレイは眉間にしわを寄せた。
「人をなんだと思ってやがる…お前らの玩具じゃないんだぞ!!」
アルカニアはリドレイの胸ぐらを掴み言った。
「何を言ってる。人を殺しておいて醜い発言をするな」
「俺は人など殺していない!」
リドレイには人殺しの前科がある。
とは言うものの彼は自分が人殺しをしていない事を何度も主張してきた。
しかし何一つ聞き入れられてはこなかった。
この研究所に移送されてからは彼を理解してくれる人間はそうそういないものである。
「まあ悪く思うな」
囚人が人体実験に使われるのはそう珍しいケースではない。
万が一失敗を冒しても便宜上、処刑という形で葬れるからである。
実験室の中にはアルカニアの他に数人の学者達がいた。
彼と同じくいずれも不死学研究の一任者である。
アルカニアの指示の下に従い今日の人体実験にまで至る。
一人の学者が言う。
「今日という日をどれほど待ちわびたことか」
もう一人がしびれを切らすように言った。
「もう待てん!」
そう大声を上げるとアルカニアは液体を手にした。
「さあ行け"ノスフェラトゥ"よ」
その赤色で満ちた液体は徐々にリドレイの身体へ注入されていく…。
「ぐあっ!」
半分ほど液体が注入された時、彼の身体からは無数の血管が浮かび上がる。
「おお!」
すでにリドレイは白目である。
誰もが彼の豹変から瞬時目を離そうとはしなかった!
「来るぞ…来るぞ!」
すると次の瞬間。
リドレイの意識が消え屍のように静かになった。
「ん?」
今まで正常に動いていた心電図も急に止まった。
異変に気付いた一人の学者は急いで彼の意識を確かめた。
「おいっ!目を覚ませっ!」
するとその声に呼応するかのように心電図が動き出した。
「おっ!心電図が動き出したぞ!」
リドレイは突然目を開けた。
2019年5月18日…。
私の名はクラウケン。
サヴァルタ研究所第2区画の警備員である。
昨今の話になる。
第2区画を見回っていた所、第1区画付近で轟音がなり響いた。何事かと驚いた私は即座に第1区画へと走った。
その途中"何か"が横切っていったが目視できず…人かどうかは定かではない。
第1区画に着いた私は愕然とした。
厳重かつ強固に整備されたドアが原形なく破壊されているのだ。
息を飲み五感を働かせた私は第1区画へと踏み込んだ。
「何が起きたんだ…」
その時、私はおぞましい光景を目にした。




